先週の株価下落はトレンドにどんな影響を与えたか?

 続いて、先週の株価下落が、短期的もしくは中期的なトレンドにどんな影響を与えたのかについても考えて行きたいと思います。

 先ほどは図1などで、短期的な下落トレンドが強まった点について指摘しましたが、これがまだしばらく続くのか、それともいったん落ち着くのかが気になるところです。

図4 日経平均(日足)の多重移動平均線(2024年4月19日時点)

出所:MARKETSPEEDIIを基に筆者作成

 上の図4は日経平均(日足)チャートに多重移動平均線を描いたものです。

 多重移動平均線については以前のレポートでも紹介しましたが、複数の移動平均線を描くことで、トレンドの強弱や転換を探るのに使われます。上の図4では2日間刻みで、2日移動平均線から28日移動平均線までの14本の線を描いています。

 あらためて図4で多重移動平均線の状況を確認すると、多くの線が下向きに転じており、現在も下落トレンドが継続中であることが読み取れます。

 また、図4では75日移動平均線も描いているのですが、実は、先月(3月18日付)のレポートでも、今回のように、日経平均の多重移動平均線と75日移動平均線を描いた図を紹介しています。

 その時は、株価が75日移動平均線との距離が離れており、「相場が下落に転じた際には、75日移動平均線との距離を縮めて行く可能性が高い」ことを指摘しました。

 当時は、チャートをさかのぼった昨年夏場のように、株価が上げ下げを繰り返しながら、時間をかけて距離を縮める「時間調整」を想定していたのですが、今回は、先週の下落によって株価が75日移動平均線を下抜けるところまで一気に下落しているため、「値幅調整」となっています。

 調整の目標であった、株価と75日移動平均線の距離の修正が完了しており、短期的には一応、下落トレンドが一服してもおかしくはないと考えることができます。

 ちなみに、昨年夏場に距離の修正が完了した時も、株価が75日移動平均線を下回っていたのですが、図2のように、フィボナッチ・リトレースメントの38.2%押しのところまで下落したところで株価が反発に転じています。

 そのため、短期的には下落トレンドがいったん落ち着く可能性は思ったよりも高いと言えます。

 ただし、あくまでも目標のひとつをクリアしただけに過ぎませんし、必ずしも強いサインではないため、先ほども触れた通り、企業業績や、相場環境の変化によっては、このまま中期的な下落トレンドへと発展していくことも考えられます。

 そこで、週足ベースのチャートでも確認していきます。

図5 日経平均(週足)の動き(2024年4月19日時点)

出所:MARKETSPEEDIIを基に筆者作成

 上の図5は日経平均の週足チャートなのですが、左側の目盛のところに注目すると、株価が高くなるほど、目盛の幅の間隔が狭くなっており、「対数チャート」と呼ばれるものとなっています。

 対数チャートは株価の値幅ではなく、変動率を見るために使われます。

 例えば、先週末19日(金)の日経平均は前日比で1,000円を超える下落となりましたが、現在の株価水準からすると、下落率は2%台半ばぐらいです。これが同じ1,000円の下落でも、日経平均が10,000円ぐらいの時だったら、下落率は10%となってしまうため、市場のインパクトは大きく異なってしまいます。

 そのため、長期間にわたって株価変動の大きさをチェックする際には、対数チャートを用いた方が視覚的に捉えやすくなります。

 話を本題に戻しますが、上の図5で注目するのは移動平均線です。13週、26週、52週の3本の移動平均線が描かれています。以前のレポートでも紹介したことがありますが、現在の移動平均線の位置関係は、短期・中期・長期の移動平均線がトレンドに沿って短い順に並ぶ「パーフェクト・オーダー」と呼ばれる状況となっています。

 このパーフェクト・オーダーが出ている状況は、強いトレンドが発生していることのサインなのですが、当然ながら、強いトレンドをいつまでも続けることはできないため、パーフェクト・オーダーの状況が解消されていくことになります。

 通常であれば、時間をかけながら、株価と移動平均線や移動平均線どうしの距離が縮まり、やがてトレンドが終了・反転していくことになるのですが、足元の状況を見ると、先週の下落によって、株価が13週移動平均線を大きく下抜けそして下放れしている格好となっています。

 週足ベースのチャートでこのような状況になるのは、相場に大きな動きがあった時であることが多く、同じように、パーフェクト・オーダーが出ている最中に、13週移動平均線から株価が大きく下放れする場面をチャートを遡って探していくと、図5では2015年8月、2018年2月、2020年3月の時に見られ、いずれも「チャイナ・ショック」、「VIXショック」、「コロナ・ショック」と名付けられるほどの下落となっています。

 では、先週の株価下落が図5の前例のように、さらなる大きな下落につながっていくのかと言えば、現時点ではまだその可能性は低いと思われます。

図6 米VIX指数(月足)の動き(2024年4月19日時点)

出所:MARKETSPEEDIIを基に筆者作成

 上の図6は米VIX指数の月足チャートになります。

 VIX指数とは別名「恐怖指数」と呼ばれ、S&P500種指数(S&P500)を対象とするオプション取引の価格の変動性(ボラティリティ)を基に算出・公表している指数です。今後30日間の値動きの大きさがどうなりそうなのかを予測した指数であり、数値が高いほど、将来の値動きが大きくなる(相場が荒れる)ことが予想されるため、VIX指数の上昇は要警戒とされています。

 一般的に警戒の目安は「20」と言われています。また、2018年2月のVIXショックは、当時のVIX指数が急上昇したことから名付けられています。

 上の図6を見ると、過去のショック時のVIX指数は50を超えるところまで上昇していたのですが、先週末19日(金)時点の終値はまだ20を下回っているため、先週の株価下落を受けても、VIX指数の反応を見る限りでは、市場はまだ過度な警戒モードにはなっていないと思われます。

 もちろん、今後の相次ぐ企業決算や金融政策の動向、地政学的情勢の変化などによっては、VIX指数が上昇し、その場合には、株価がさらに下落していく展開も想定されるため、注意が必要です。

 また、2018年2月のVIXショック時を振り返ると、ショック前の株式市場は米国を中心に、「マイルドな金利」と「緩やかな経済成長」が続くという前提で、「ゴルディロックス相場(適温相場)」と呼ばれる状況となっていました。

 こうした状況により、予想以上に強い米経済指標が増えて利上げ加速の警戒感が出てきたことや、急激に進展して行った米中対立への警戒なども重なって、これまで市場が享受してきた「いいところ取り」の前提が揺らいでしまったことが大幅下落へとつながっていきました。

 最近までの株式市場も、米国経済のソフトランディング(軟着陸)見通しを前提にしていたことや、生成AIを背景にした、半導体やIT企業への業績期待の積極的な先取り、米大統領選挙時における株高のジンクスなど、前のめりで動いてきた面があります。

 したがって、先週の株価下落は、中期の相場シナリオを見直す必要が迫っていることの兆しとなる意味があるのかもしれません。