エヌビディアなどAI投資で盛り上がる米国株はリスク大きい

――米国株ではエヌビディア(NVDA)などAI関連の銘柄が市場をけん引しています。一方、昨年マグニフィセント・セブンと持ち上げられたハイテク7銘柄のうち、アップル(AAPL)テスラ(TSLA)アルファベット(GOOGL)の株価は今年はさえません。より特定の銘柄が押し上げる今の米相場のリスクをどうみますか?

 何といっても価格ですね。バリュエーション(株価評価)が高すぎます。エヌビディアのPSR(株価売上高倍率)は36倍くらいまで高くなっている。これから20年、30年分の成長を既に織り込んでしまっています。

 AIや半導体が今後どうなるかは分かりません。必ず成長すると確信して投資に動くことはよくありません。そもそもFRBはマネーストックを減らして、金融引き締めをしている最中です。

――AIバブルという言葉を使って、今の米国の相場を評価されていますが、こうしたバブルはいつまで続くとお考えでしょうか?

 バブルがはじけるタイミングはバブルの最中や崩壊直後の時点では分かりません。崩壊してしばらくたってから初めて分かります。

――2000年のITバブルが崩壊した時と比べて現在はどうでしょうか?

 ITバブルの時に株が買われていた会社と比べると、今は中身がある会社が多いとは思います。ただ、当時の投機マネーは100社くらいに分散していましたが、今はエヌビディアなど数社に集中しています。こうした集中リスクはもっと危険です。何%のリスクプレミアムが株価に乗っているかしっかり見極めないといけません。

――日経平均採用銘柄でも、アドバンテストや東京エレクトロンといった半導体関連銘柄が相場をリードしています。

 エヌビディアのおかげで上がっている銘柄はエヌビディアの株価が下がれば、一緒に下がってしまいます。

――米大統領選で、バイデン氏対トランプ氏の構図が固まりましたが、株式相場に影響はありますか?

 株価には関係ないと思います。大統領選がある年は株価が上がりやすいと言われますが、ITバブルやリーマン・ショック(2008年)、コロナショック(2020年)も大統領選の年にありました。

――米大統領選ではバイデン氏とトランプ氏のどちらが勝つと思いますか?

 基本的には景気後退がなければ現職のバイデン大統領の方が有利になると思います。米国は二大政党制なので、それぞれの岩盤支持層があります。トランプ氏の支持者が多いようにも見えますが、アンチトランプも結構います。選挙の勝敗を最終的に決めるのは真ん中で動く人です。そういう人たちは景気が良いか悪いかだけで判断することになります。

――現在のバイデン政権にとっては景気を刺激する緩和的な金融政策の方が望ましいとも言えるかもしれませんが、FED(連邦準備制度)は政府から独立はしているとはいえ、利下げへの政治的圧力は働きやすくなりますか?

 あると思います。利上げはしづらくはなるでしょう。

――市場が織り込んでいる年内3回の利下げがあるシナリオは楽観的でしょうか?

 FRBから現時点の市場コンセンサスとは違うメッセージが出たら、それは楽観的ということになるでしょう。

 FRBのメンバーが昨年12月に金利見通しで示した今年3回の利下げがあるという予測に市場予想も沿ったものになってきています(3月19、20日のFOMC[連邦公開市場委員会]でも今年3回の利下げ予想は維持されました)。そういう意味では、市場との対話が現在うまくいっています。(聞き手はトウシル編集チーム・田嶋啓人)

  エミン・ユルマズ氏  1980年生まれ。トルコ出身。1997年に日本に留学し、東大院修士課程修了。2006年野村証券。その後、国際エコノミストとして活躍。著書に『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(大橋ひろこ氏との共著)、『世界インフレ時代の経済指標』。エミン氏が株や為替、マクロ経済を解説しているnoteはこちら