日本銀行は3月18、19日の金融政策決定会合でマイナス金利の解除などを決定し、2013年4月から続いた異次元の金融緩和を終了しました。4万円台を突破した日経平均株価(225種)や、為替、金利の見通しなどを国際エコノミストのエミン・ユルマズ氏に聞きました。(インタビューは3月19日にオンラインで実施しました)。

「日銀は金融政策の正常化をする気がない」

――日銀が3月の金融政策決定会合でマイナス金利解除とYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)の撤廃を決めました。一方、長期国債の買い入れはこれまでと同程度の金額で継続することを発表しました。日経平均株価は会合後には上昇し、為替相場は円安に振れました。日銀の政策修正をどのように評価しますか?

 事前に政策修正についてのリーク記事が各報道機関から出ていたので、サプライズ感がない発表でした。日銀はマイナス金利の解除を決めましたが、金融政策の正常化を本気でしたいのかどうか分からない内容でした。日銀がマイナス金利解除後に金利を徐々に引き上げたいのか、物価高を抑制したいのか、今回の政策修正の目的が現時点ではよく分かりません。

 YCC撤廃に関しても狙いが見えてきません。日銀はこれまでYCCで長期金利の変動上限を1.0%をめどにして、低く抑え込んできましたが、今回の撤廃でそうした上限をなくす一方、国債をこれまでと同程度の金額で買い続けると言っており、日銀がどうしたいのか見えてきません。

 今回の日銀の政策修正はほぼパフォーマンスといっていいものだと思います。物価高なのになぜ引き締めに動かなかったのか後々責められないための、既成事実をつくったにすぎないのではないでしょうか。

 日銀の植田和男総裁の記者会見でも「当面は緩和的な金融環境が続く」と説明していて、本音がどこにあるかはともかく、日銀は少なくとも金融政策の本格的な正常化をする気がないとのメッセージを発信しています。

――日銀はETF(上場投資信託)やJ-REIT(ジェイ・リート:国内の不動産投資信託)の新規買い入れを終了することも発表しました。ETFの買い入れでは、これまでTOPIX(東証株価指数)が午前終値で前営業日終値より2%下落したら、日銀が買い支える「2%ルール」なるものが市場で意識されてきました。日銀によるリスク性資産の買い入れがなくなる影響はどうみますか?

 リスク性資産の買い入れはリスクオフの局面では確かに役立ってきた面がありますが、火事が起きた時の消火器みたいな役割しかなかったと思います。特に相場の下落材料にはならないと思います。日銀は緩和的な環境を維持するので、相場の急落といった火事のような事態は起こりづらいとみています。

 それに植田総裁は経済・物価見通しが下振れた時には「これまで使用したさまざまな(緩和)手段も含めて幅広く検討したい」と説明していたので、リスク性資産の買い入れが必要になった時は再び導入すればいいだけの話です。

 日銀が今回、政策修正をしたメインの材料はやはり金利です。基本的には利上げ幅は微々たるものだったので、市場金利にはあまり影響を与えないでしょう。

――日銀が政策修正するポイントとなった今年の春闘での賃上げですが、日本経済のネックとなっていた個人消費の弱さを解決していくと思いますか?

 今年の春闘では、連合が3月15日に発表した第一回集計で賃上げ率が平均5.28%と高い水準(※第二回集計で5.25%)になったことが日銀にとって予想外だったんだと思います。労働組合が要求した通りの満額回答が相次ぎ、要求額を超える回答も目立ちました。

 今年の賃上げが個人消費の回復につながるかどうかは、今後のインフレ次第だと思います。インフレがまだ落ち着いたとは言えない状況です。

 国民が感じているインフレ率は日銀が実施した生活意識に関するアンケート調査(昨年12月調査)によると16.1%です。 賃上げによる消費拡大への好影響は全くないとは言えないものの、5%上がっただけでは、消費に走るとは思えません。