今日の為替ウォーキング
今日の一言
どんなことでも成し遂げるまでは実行不可能に見えるものだ。ネルソン・マンデラ
Eyes Without A Face
日経平均株価は34年かけて「東京砂漠」を超えてからも上昇を続け、新しい世界を目指して最高値を更新中だ。4万円は単なる通過点に過ぎず、年末には5万円との見方も増えている。この上昇を牽引しているのは海外投資家だが、そのパワーの源泉は「円安」だ。
日本経済にとって円安のメリットは3つある。第一に、円安は輸出企業の国際競争力を高める。日経平均には輸出関連の大型株が多く含まれているため、円安は株価を押し上げる効果がある。第二に、円安はインバウンド(訪日外国人)の需要を増やす可能性がある。インバウンドの増加は、サービス業や小売業などの国内消費にプラスに働く。そして第三に、円安によるインフレ期待が高まることで、消費や投資の前倒し効果が期待できる。このように、円安は日経平均株価を支える重要な要素なのだ。
その一方で、円安にはデメリットもある。例えば輸入品価格の上昇が引き起こすインフレで生活費が高くなることだ。実質賃金が下がり続けるなかで国民の生活は苦しくなっているが、政府は、日本経済にとって円安のメリットはデメリットより大きいと考えているから、円安を止めることはしない。日銀も同じだ。日銀は物価の安定の名においてインフレを上昇させることを目的に円安を放置する。
2024年が始まってわずか2ヵ月間でドル/円相場は141円から10円近くも円安が進んでいる。この円安の理由は、マーケットとFRB(米連邦準備制度理事会)の認識ギャップである。
FRBが米国の景気をソフトランディングさせるために、3月から利下げを始めて、1年間で6回以上金利を引き下げる。そう予想したマーケットは、大量にドルの売り持ちポジションを仕込んで待ち構えていた。
ところが、今年に入って発表された米国の経済指標は予想に反して軒並み強かった。FRBがマーケットの予想に従うと思われていたのに、逆にマーケットが今年3回の利下げしか想定していないFRBに従う格好になった結果、ドル売りポジションは一斉に処分され、ドル高/円安が加速したのだ。
この円安が日経平均株価の追い風になっていることは間違いない。逆に言うならば、「円安効果」が薄れることが、日経平均にとっての大きなリスクのひとつとなる。FRBは利下げを中止したわけではない。3月は時期的にまだ早すぎると言っているだけで、今年3回の利下げはまだ「有効」だ。
一方、日銀はマイナス金利解除へ向けて着々と準備を進めている。日銀は、2%の物価目標が賃金の上昇を伴う形で達成される見通しが立てば、マイナス金利を解除する方針だ。今年の春闘の結果を待って、4月には政策転換を発表することになるだろう。
日銀はそのための下地作りにも余念がない。植田総裁は先月22日の衆議院予算委員会において、日本経済は「デフレではなくインフレの状態にある」と述べたことに続き、高田審議委員は29日に「2%物価目標実現がようやく見通せる状況になってきた」との見解を示した。こうしてフォワードガイダンスを徐々にタカ派方向にシフトしている。
日銀は、マイナス金利を解除した後でも「緩和的環境を続ける」と主張している。FRBのパウエル議長は昨年11月の時点では「さらなる利上げ」も検討すると語っていたが、今のFRBは「いつ利下げ」するかを検討している。日銀もいったんマイナス金利解除の封印を解いてしまえば、緩和政策を続けることは難しいのではないだろうか。
ドル/円が31年ぶりの水準まで円安に動いたのは、FRBが2022年から開始した利上げによる日米金利差拡大にその原因を求めることができる。であれば、その逆の日米金利差縮小は強い円高要因になる。円安が日本株の上昇の大きな理由だから、円安が円高に変わったとき、株式市場も大きな調整が入る可能性がある。
多くの日本企業は2024年12月期の想定為替レートを1ドル=140円程度と見込んでいる。現在の150円よりも10円ほど円高を想定していることになる。今年半ばにも円安が修正されると見る企業が多いようだ。