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著者の愛宕伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
日銀の内田副総裁が語ったマイナス金利解除後の政策運営と円安リスク

 日本銀行の内田眞一副総裁が8日に講演を行い、マイナス金利解除後の金融政策の輪郭がみえてきました。新たな政策金利は0~0.1%、しばらく緩和的な金融環境が続くという、我々にとっては予想していたとおりの内容ですが、海外投資家にとっては意外だったようです。

 追加利上げを当然視する海外目線とのズレは円安要因になります。今週は、内田副総裁が示したマイナス金利解除後の政策運営と円安リスクについて取り上げます。

内田眞一副総裁が8日、マイナス金利解除後の緩和維持を強調

 日銀のマイナス金利解除のタイミングやその後の政策運営を占う上で最も注目すべきは、近々開催される内田眞一副総裁の金融経済懇談会だと、このレポートでも何度か述べてきました。その懇談会が8日に開催され(奈良県金融経済懇談会)、いくつかの重要なヒントが出てきました。

 ポイントは、マイナス金利解除後の政策金利について無担保コールレート0~0.1%を具体的に例示したこと、マイナス金利解除を判断する際の重要イベントが春闘であると強調したこと、マイナス金利解除後の政策金利のパスについて「どんどん利上げしていくようなパスは考えにくい」と明言したこと、です。順にみていきましよう。

マイナス金利解除後の政策金利について

 まず、マイナス金利政策解除後の政策金利に関しては、以下のように述べています。

マイナス金利の導入前には、日本銀行の当座預金取引先の超過準備に0.1%の金利を付利し、取引先でない金融機関との裁定取引が行われる結果、短期金融市場では、無担保コールレートが0~0.1%の範囲で推移していました。仮にこの状態に戻すとすれば、現在の無担保コールレートは▲0.1~0%ですので、0.1%の利上げということになります。

(出所)日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 上の発言では、「仮にこの状態に戻すとすれば」と断っていますが、次の点を踏まえれば、そうなることを想定しての発言だと推察されます。すなわち、現在、当座預金の超過準備(正確には200兆円を超える「基礎残高」)には0.1%の付利が設定されています。

 この付利と政策金利は、市場の裁定が働くため別々の金利に設定することはできません。したがって、マイナス金利解除後の政策金利は、内田副総裁が述べているとおり、無担保コールレート0~0.1%にするのが最も自然な姿だと考えられます。そうなれば、これまでこのレポートで予想してきたとおりの変更になります。

マイナス金利政策の解除は3月か4月か

 マイナス金利政策解除の時期に関しては、もちろん明言しているわけではありませんが、講演後の記者会見で以下のような発言がありました。

好循環を確認した上で、2%を見通せるようになったというふうに判断するかどうか、…当然ですけれども、春季労使交渉の状況というのは、重要なファクターの一つになるというふうに思っています。

賃金と物価というのが、極めて重要なファクターであり、その中にあって春闘というタイミングで賃金の部分が確認できるということはですね、これは重要なイベントであろうというふうに思っています。

(出所)日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 春闘の集中回答日は3月中旬です。そこで好感触が得られれば、4月1日発表の3月短観や4月の支店長会議を待つまでもなく、3月18~19日のMPM(金融政策決定会合)で動く可能性が高いと読むことができます。

 逆に3月MPMで動かなければ、春闘に対する日銀の見方が慎重と受け取られ、円安に大きく振れたり、4月MPM(25~26日)まで市場の織り込みが過度に進んで長期金利が大幅に上昇するリスクが高まります。