多くの個人投資家が源泉徴収ありの特定口座を利用
個人投資家が株式投資をするために証券口座を開設する際、一般口座のほかに特定口座の開設の有無を聞かれることを覚えていらっしゃいますでしょうか。
特定口座とは、個人投資家が株式投資の税計算や納税を簡易に行えるよう便宜が図られている口座です。
特定口座には「源泉徴収なし」(税計算は証券会社がしてくれるが確定申告・納税は自分で行う)と「源泉徴収あり」(税計算のみならず納税も証券会社がしてくれるので確定申告も不要)の2つがあります。
大部分の方が特定口座を開設しており、かつ「源泉徴収あり」を選択しています。
筆者自身、多くの個人投資家の方と接する機会がありますが、この源泉徴収ありの特定口座の扱いを勘違いしている方がとても多いので、確定申告シーズンである今回、注意点を取り上げたいと思います。
最大の勘違い・源泉徴収ありの特定口座は「確定申告不要」
多くの個人投資家が勘違いしている最大のポイント、それは、源泉徴収ありの特定口座は「確定申告が不要」という点です。
確かに初心者向けの投資情報サイトや株式投資入門書などでは、源泉徴収ありの特定口座は税計算だけでなく納税も証券会社がしてくれるので、確定申告は不要です、という説明がよくなされています。
しかしながらこれは「言葉足らず」なのです。初心者向け情報にあれもこれも書けないでしょうから仕方がないといえば仕方がないのですが、「確定申告不要」というのは不正確です。
より実態に近い言い方をすれば、「確定申告不要」ではなく「確定申告をしてもしなくてもよい」と言った方が分かりやすいでしょう。
これは、一般口座や源泉徴収なしの特定口座は確定申告が必要であることとの大きな違いです。
源泉徴収ありの特定口座なら、全てのことを証券会社が代行してくれている?
個人投資家の方と話していて圧倒的に多い勘違いは、「年間トータルで損をしていても、源泉徴収ありの特定口座であれば確定申告しなくてもよい」と思っていることです。
確かに確定申告しなくてもよいことは確かですし、確定申告しなかったらといって税務署からとがめられることもありません。
この勘違いをもう少し分かりやすく言うと、「源泉徴収ありの特定口座であれば、損をしていても証券会社の方で勝手に処理してくれているから確定申告はしなくてよい」という意味合いです。
株式投資において年間トータルで譲渡損(売却損)が出ていて、配当金と相殺しても損失が残る場合は、確定申告することを要件に損失を3年間繰り越すことができます(3年間繰り越すためには毎年確定申告が必要です)。
翌年以降利益が生じた場合、繰り越した損失と相殺することができるので節税効果が生じます。例えば100万円の損失を繰り越し、翌年以降100万円の利益が生じた場合、所得税・住民税あわせて約20万円の節税効果となります。
この損失の繰り越しについても、「源泉徴収ありの特定口座なら証券会社が勝手にやってくれるので、自分では確定申告する必要はない」と勘違いしているケースが非常に多いのです。
リカバリー策はあるのか?
もしこのコラムを読んで、「損失の繰り越しも証券会社が代わりにやってくれていると思っていた!」という方は、今後は損失の繰り越しの際は、源泉徴収ありの特定口座であっても確定申告が必要であることを覚えておいてください。
また、例えば令和5年の売却損益がプラスで、令和4年から繰り越してきた損失と相殺するような場合も、確定申告が必要となります。過去の損失との相殺についても、証券会社が代わりに行ってくれるということはありません。
では、「今まで損失の繰り越しについて確定申告してこなかった!」という方に対するリカバリー策はあるのでしょうか?
例えば令和4年分の損失の繰り越しにつき確定申告をしていなかった、という場合で考えてみます。
会社員の方などで、令和4年分の確定申告をそもそも提出していない方は、今から期限後申告という形で確定申告をすれば、損失の繰り越しができます。
なお、令和4年分の期限後申告は、令和5年分の確定申告書を出す前に提出する必要があります。
一方、自営業者、不動産賃貸の所得があったり、医療費控除などのため令和4年分の確定申告書をすでに提出してしまっている方はどうなるでしょうか?
実はこの場合、救済措置はありません。
令和4年分の確定申告書を出すときに、「損失の繰り越しにつき確定申告することができたのに、自らの判断で確定申告しないことを選択した」とされてしまうからです。
ですから、特に毎年確定申告をしているような方は、株の譲渡損失の繰り越しについても忘れずに確定申告するよう、十分注意してくださいね。