北九州市:子ども・若者応援センター「YELL」
社会的養護自立支援生活相談事業「HANAS“YELL”(ハナセール)」
児童養護施設でもお金の教育が必要
最近は児童養護施設で生活する子どもたちに対して、お金の教育を行う動きも出てきている。その取り組みを行っている機関の一つが、北九州市子ども家庭局が委託して、北九州市福祉事業団が運営する「北九州市 子ども・若者応援センター YELL(エール)」だ。
同センターは、悩みや困難を抱える15歳から39歳の若者への相談事業をメインに手掛けるが、一方で「HANAS“YELL”(ハナセール)」という愛称で、市内の児童養護施設や里親、ファミリーホーム(数人程度の児童が暮らす小規模な養護施設)で暮らす子どもたちへの支援活動も行っている。その一環としてお金の教育を始めたのだ。
HANAS“YELL”相談員の竹内美佳氏はいう。
「児童養護施設や里親、ファミリーホームで暮らす子どもたちは、原則、高校卒業と同時に退所しなければなりません。就職するにせよ、奨学金を利用して大学などに進学するにせよ、一人暮らしを始めることになります。一人暮らしを始めると、お金について困ることが多くありますが、社会的養護下の子たちも変わりません。加えて親に頼ることができない子供が多く、お金に困ったときに金銭的にも、お金の使い方を学ぶ機会も少ない子が多いのが現状です。そこで、入所中からお金のことを教える必要があると考えました」
現在、北九州市には計七つの児童養護施設や里親、ファミリーホームがあり、400人ほどが入所している。そこで、2年ほど前、その子どもたちを対象にお金に関する講座をスタート。実際の運営やプログラムの作成は、松戸市同様、マネー教育の専門機関に委託した。
「今は幼児から小学生くらいの子どもたちと、中学3年生以上の子どもたちに分けて実施しています。前者はお金に関する基本的なことをゲーム形式で学ぶというもの、後者は就職したらどのくらい収入を得られるのか、正社員やアルバイトなど雇用形態によってどう違うのか、日々の生活費はどのくらいかかるのかなど、退所後すぐに生かせるような実践的な内容になっています」(竹内氏)
まだ始めて2年程度なので、どんな成果が出ているかは一概には言えないのだが、少し前にこんな出来事があった。
「退所を間近に控えた子に、『1人暮らしするとどのくらいお金がかかるか知っている?』と聞いてみたんです。そうしたら『前に講習を受けたからわかっています』という答えが返ってきました。その子が受講したのはずいぶん前でしたが、きちんと覚えていた。それを聞き、始めたかいがあったと思いました」(竹内氏)
新型コロナの影響もあって、今は思うように開催できていないが、世の中が落ち着いたら各施設で定期的に開催する方針だ。
北九州市社会的養護自立支援生活相談事業「HANAS“YELL”(ハナセール)」
以上、二つのケースを紹介したが、今のところ、こうした取り組みを行っている自治体は決して多いとはいえない。児童養護施設で暮らす子どもたちにお金の教育を行うという動きは広まりつつあるが、松戸市のように市民向けに講座を開くケースは珍しい。
しかし、今後、全国の自治体に広がる可能性は大いにありそうだ。