これまでのあらすじ

 信一郎と理香は小学生と0歳児の子どもを持つ夫婦。第二子の長女誕生と、長男の中学進学問題で、教育費の負担が気になり始めた。毎週金曜夜にマネー会議をすることになった二人。小学校4年生の息子・健の成績が急上昇したことで、中学受験問題が急浮上。夫婦は教育費について真剣に話し合うことになり…。

親の老後と子供の教育、どっちが優先?

「僕、中学受験してみたい」

 翌週土曜日の午後、理香と信一郎に改めてテストの成績を褒められ、今後どうしたいのかを聞かれた健は、ゲームを片手にそう答えた。

「ほんとに? 本気で? 受験って大変なのよ? 今までみたいに遊べないわよ?」

 理香は驚いて聞き返した。

「うん。レン君のお兄ちゃんが去年受験勉強してたけど、ぜんぜん一緒に遊べなかったし、大変なのはなんとなくわかってる。でも、レン君のお兄ちゃん、カッコいいんだよ」

 レン君は、保育園から同じの幼馴染だ。3歳違いのレン君の兄は、弟のレン君といっしょに健の面倒も見てくれた優しい兄貴分でもある。

 A大学付属中学のブレザー姿の、レン君のお兄ちゃんと毎朝すれ違う。これまでの遊び友達とは一線を越えて大人っぽくなった彼に、健はひそかに憧れを募らせていたらしい。

「レン君も受験するって言ってるし、できたら中学も一緒の学校に通いたいよなって話してたんだ」

「わかったわ。健がそうしたいなら応援する。ね? パパ?」

「パパも健の本気を見てみたいな。大変だろうけど頑張れよ」

「オッケー。じゃあ僕、遊びに行ってくる!」

「…あいつホントにわかってんのかなぁ…」

 ゲームを片手に家を飛び出していく後ろ姿に、信一郎は首をかしげる。

「まだ現実感なさそうね…」

 理香もガクッと首を折った。

「まずは塾探しだな」

「そうね。お兄ちゃんの受験でいろいろ知ってそうだから、レン君ママから情報収集してみるわ」

「中学受験塾」費用の内訳

中学受験塾(4教科の場合) 4年生 5年生 6年生
入会金  2~3万円
通常の授業料(1か月・日数は各塾で異なる) 2~4万円 2.5~5万円 3~6万円
季節講習・特別講習費用 通常の授業料とは別に、数万~20万円程度(個別指導を併用すると最大100万円かかることもある)
教材費 0(授業料に含まれる場合)~5万円程度
模試・テスト費用 5,000円程度(1回当たり)。学年が上がると模試の回数が増えるケースもある。大手集団塾では初期費用に含まれていることが多い
その他(諸経費、追加の講習費用、交通費、食費など) 諸経費は数千~数万円程度。ほか、6年生になると夕食休憩のある塾が多くなるため、弁当の準備で食費がかかる
出典:塾探しの窓口 【2023最新】データで見る!小学生の塾にかかる費用・月謝料金はいくら?

「はぁ、塾代ってけっこうかかるね」

 信一郎がこぼす。

「そうね、今すぐ塾に通わせる予定なら、月2万円は追加で塾代を確保しなきゃ。ほんとに家計見直そうっと」

 理香もため息をついた。

「州によって異なるけれど、アメリカの大学には、多くの奨学金が用意されていて大学生の7割近くが、何らかの学資ローンや奨学金で教育費用を賄っているんだよ」

「え、大学費用を自分で出すんですか?」

 翌日、上司のマイケルに、アメリカの教育事情を聞こうと話を持ち掛けた理香は、心底びっくりして問い返した。

「しかし、アメリカの大学の学費は非常に高額なことも知られている。日本円で年間300~400万円が平均だからね。親が用意するには限度がある。ただ、返済が必要のないタイプの奨学金が何種類も用意されていて、実際に学生の負担が重すぎるようなことにはならないことが多いんだよ」

 連邦政府、各州、他の組織が提供する奨学金や給付金のバリエーションが多く、返済の義務がないものが一般的だ、とマイケルはいう。日本にも奨学金制度はあるが、その多くはscholarship(スカラシップ)ではなくloan(ローン)であることが多い。つまり、借金だ。

「返済義務がないものもあるんですね。スゴイ…」

「ケンが進学したがっている中学にもきっと、返済が必要なかったり、無利子で借りられる奨学金制度があるんじゃないかな。成績優秀でないと取れないかもしれないけれど、一度調べてみるといいよ」

「そうですね…」

 お調子者でのんきな健が、そんなに優秀に育つ図をイメージできず、理香はうなった。「将来化けるかも」といったのはあくまでも期待であり、内心、さほどアテにはしていない。

「でも、アメリカでは、なぜそんなに教育をサポートする制度が整っているんですか?」

「たぶん、アメリカでは教育も、自分の将来に対する[投資]だと思う意識が強いんだと思う。日本はおそらく[福祉]的な意味合いが強いと感じるよ」

「なるほど…」

 確かにそうだと理香は思う。今の自分があるのは、自分が受けてきた教育の結果である。教育が自分への先行投資だったことに間違いはない。

 子供にお金の苦労をかけたくない、という親心は、逆に自分の人生を自分で切り開くポジティブさを削っているのかもしれない、と理香は思った。

 しかし、自分たちは健や美咲の教育費が払えないわけではない。自分たちの老後を大幅に切り崩す必要はないが、できる限り力になってやろうというのが、信一郎と話し合った結果である。老後資金は投資で着実に補填しながら、支出をうまくコントロールして[攻めながら守る]を実現していこうと、理香は認識を新たにした。

ほかの人はどうしてる?気になる自分のレベル感<4-7>夫婦、教育費を考える