<投資とギャンブルとの違い>

「先生、私は本気で投資について学びたいと思っているのです。酔いはもう冷めてます」

「よろしい。よい心構えです。まず、投資はギャンブルとはビジネスモデルも目的も違うことを説明しましょう。競馬や宝くじなどのギャンブルは、掛け金を集めて、集めた掛け金から経費や税金などを差し引いた残金を、当たり外れによって分配するゲームです。当てて儲かることが楽しみで掛け金を払うといっても、本質は娯楽であり、娯楽サービスの提供を受けるために掛け金を支払うわけです。賭け事そのものを経済合理性で考えれば、誰かが得をすれば誰かが損するゼロサムゲームです。しかも分配金は経費や税金が差し引かれているわけだから、必ず儲ける人の収入より損する人の支出のほうが大きくなる。そうでないと、経営が成り立たないわけです。ここまではよろしいですか?」

「競馬や宝くじでは、みんなが儲かることはない、ということですよね。」と隆一が確認をすると
「そうです、宝くじであれば、胴元の取り分が約50%で、残りの50%をみんなで取り合う構図だからです。競馬であれば、胴元が25%持っていきます」

 改めて仕組みを認識した隆一は、「宝くじって、買った瞬間に半分も取られるのですね。そうであれば確かに娯楽や運試しと思わないとやっていられないですね」と、愚痴った。

 先生はその通りだという顔で「一方、企業に投資することは、その資金が企業の事業に投じられ、企業活動を通じて利益を生んでいくわけです。期待通りに利益が出れば、投資家は配当を得たり、株価の値上がり益を得たりすることができます。誰も損をしない、皆が得するビジネスモデルですね」

 隆一は「なるほど」と頷いてみたものの、まだ腑には落ちていなかった。

「むろん、事業が上手くいくという前提です。人は誰でも損するために働くわけではありません。利益を上げようと努力しますし、そこから企業間の競争が生まれ、社会のイノベーションにもつながるわけです。また、何より、投資した事業が上手くいけば、社会が必要としている財やサービスが提供され、働く場も税金も増えます。つまり、投資は、私たちの暮らす資本主義社会を豊かにさせるための社会貢献にもなるということです」

「先生、すいません、ちょっとついていくのが難しくなりました。イノベーションとか資本主義とか、用語としては聞いたことがありますが、それと投資がどう繋がるかまで、理解できません」。隆一は正直に先生に伝えた。

「わからないことを、わからないということはいいことです。イノベーションや資本主義についてはまた次の機会に噛み砕いて話します」と、先生は生徒がどこでつまずくかを熟知している様子だった。

 隆一は、まずは投資とギャンブルの違いについてはおおむね腹落ちしたので、帰ったら妻にこの話をしようと思った。

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