日銀総裁「チャレンジング」発言で1ドル=141円台の円高に
先週の外国為替市場は日本銀行材料によって前のめりになり、円は急騰しました。
まず、氷見野良三日銀副総裁が6日に、大分市で開かれた地元経済団体との懇談会で、出口戦略に触れ、出口を良い結果につなげることは十分可能だとの見方を示しました。この発言によってマイナス金利解除への期待が高まりました。
さらに日銀の植田和男総裁が7日、参議院財政金融委員会で、「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況となる」と発言し、市場では日銀が年内にもマイナス金利解除に動くのではとの観測が強まりました。
7日のドル相場は、1ドル=147円台から141円台後半へと5円超も円高となりました。クリスマス・年末休暇を控えて一気に円売りポジションの整理に動いたのではないかとの見方があります。
しかし、急落したドルは1ドル=143円台に戻るのも速かったのですが、145円台には戻らず、144円台で8日に発表される米11月雇用統計の結果待ちとなりました。雇用統計では、農業部門以外の雇用者数(NFP)が前月より19.9万人増、失業率は3.7%と市場予想より良く、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の早期利下げ観測が後退しました。結局、1ドル=145円手前で週を越すことになりました。
日銀政策修正観測が為替相場の不安定材料に
今週に入ってからは、FRBの早期利下げ観測の後退や、一部関係者の話として「マイナス金利の解除、日銀は今月急ぐ必要がほとんどないとの認識」と報じられたことから、前のめりになり過ぎた先週の円高相場を打ち消すように円売りが再開し、1ドル=146円台半ばまで円安に行きました。
しかし、今週から来週にかけて、米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)(12~13日)や日銀金融政策決定会合(18~19日)が控えており、14日にECB(欧州中央銀行)理事会とBOE(英国中央銀行)の金融政策委員会も予定されています。
日米欧の金融政策を決める会合が相次ぐ時期は相場の動きが不安定になりがちですが、12日付の日本経済新聞に、日銀は「12月にマイナス金利解除を事前予告し、フォワード・ガイダンス(金融政策の先行きについて示す指針)を同時に修正する見方もある」との観測記事が載り、1ドル=146円台から一時144円台の円高となりました。
やはり、日銀材料が拍車をかけ、上下に揺れる敏感な地合いは日銀の政策決定会合までは続きそうです。
米FOMCで来年の利下げ見通しが最大の焦点に
12日には、米11月CPI(消費者物価指数)の上昇率が前月比0.1%増、前年同月比3.1%増と発表され、ほぼ市場予想通りの結果となりました。そのため12~13日に控えたFOMCで市場の利上げ見送り期待を変えるものではありませんでした。
FOMCではまずは、利上げ打ち止めを示唆するのかどうか、追加利上げを排除しないという姿勢が緩和されるのかどうかという点が注目されます。
そして市場が最も注目するのが来年の利下げについてです。FOMCの声明文で、あるいはFRBのパウエル議長の記者会見でどのように触れるのかが焦点となります。来年の利下げ時期の明示は難しくても利下げが選択肢となり得るのか、それとも、市場が織り込む来年4回の利下げ期待をけん制してくるのかどうか、固唾(かたず)を飲んで見守りたいです。
FOMCで仮に利下げ姿勢が示されなくても、公表される金利見通しでFOMCのメンバーの考え方を読み解くことができます。
今年6月時点の金利見通しでは0.25%刻みで来年は4回の利下げがあり、9月時点の見通しでは来年2回の利下げがあるという見通しとなっていましたが、声明文や記者会見で来年の利下げ姿勢が示されたことはありませんでした。むしろ、まだ利下げを検討する時期ではないと否定されています。しかし、市場はこの金利見通しによって来年の利下げを感じ取っています。
今回も利下げ姿勢が示されなくても、新たな金利見通しで9月時点よりも利下げ幅が広がれば、市場は敏感に反応することが予想されます。
つまり、今回利上げ見送りとなれば、2023年末の金利見通しは5.25~5.50%(中央値で5.375%)となります。来年、2回計0.5%の利下げだと2024年末見通しは4.75~5.00%(中央値4.875%)となります。9月の2024年末見通しの5.125%からは低い水準になりますが、2回の利下げは同じですので、この見通しだと市場の反応は限定的となりそうです。
しかし、3回以上の利下げ水準、つまり4.625%以下だとドル売りに反応することが予想されます。
金利見通しが9月と同じ年2回の場合、市場期待ほどハト派ではなかったことからドル高に反応することも予想されますが、来週には日銀の政策決定会合を控えているためドル高は限定的と予想されます。もし、FOMC後にドル高になれば、売り切れていないドルロングポジション(円のショートポジション)の年内最後の売り場になるかもしれません。