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著者の愛宕伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「初めて見る欧米のマネー収縮 歴史が教える波乱の芽」
新型コロナ対策で膨張した欧米のマネーが収縮を始めています。代表的な指標であるM2(マネーストック)の伸びを見ると、米国では1960年代以降で初、ユーロ圏でもユーロ発足以降で初めてマイナスになるという異例の事態になっています。
それで思い出すのが百年前の大正バブルです。第一次世界大戦とスペイン風邪、現在とよく似た環境の下でマネーが膨張し、そして破裂しました。そこから我々は何を学ぶべきか。今回はマネーに焦点を当てて議論します。
大正バブルを言い当てた井上準之助
大正バブルから話を始めましょう。今から約百年前、1918年11月に第一次世界大戦が終結し、その年の春から世界で猛威を振るったスペイン風邪がようやく終息を迎えつつあった1920年の春、それまで急騰を演じていた日本の株価(東京株式取引所指数)が大暴落します。
半年間で50%を超える下げとなり、投機に踊った大阪の綿糸商は壊滅、多くの商社が倒産し、銀行では取り付け騒ぎが発生しました。
この株価暴落を予言した人物がいます。第9、11代日本銀行総裁の井上準之助です。井上は1920年の年始に行われた銀行集会所の新年宴会で、「遠からず反動が来る」と言って周囲を驚かせます。大正バブルを「空景気」と呼んだ井上が、その原因として指摘したのがマネーでした。
1925年に東京商科大学(現在の一橋大学)で行われた講演でその空景気について詳しく回顧し、世界各国通貨が膨張したことが多くの日本人の考え方に禍をなしたと喝破しています。それから百年、同じように新型コロナで世界のマネーが膨張し、そして収縮を始めています。
欧米のマネーストックが60年代以降で初めて減少に転じている
一言でマネーといってもいろいろあります。中央銀行が供給するのがマネタリーベース。日本銀行でいえば「発行銀行券」や「日銀当座預金」などを合計したもので、異次元緩和で増やしているマネーです。
そして、銀行など金融部門が供給するのがマネーストック。以前マネーサプライと呼んでいたもので、市中に流通しているマネーの総量です。ちなみに、政策金利がゼロ%の世界では、経済や物価を動かすのはマネーストックです。
マネーストックには対象範囲などの違いによって、「M1」、「M2」、「M3」、「広義流動性」の4つの指標がありますが、伝統的に市場で参照されることが多いのがM2(現金通貨+預金通貨+準通貨+譲渡性預金(CD))です。図表1はその米国の推移を見たものです。
<図表1 米国のマネーストック(M2)>
これを見ると、新型コロナによるパンデミックに陥った2020年3月以降、ほぼ垂直で増加している様子が見て取れます。こうした異常な増加が持続可能でないことは、誰の目にも明らかでしょう。
それが今年になって減少に転じています。経済とマネーはコインの表と裏。現在起きているマネーの収縮が経済にとって何を意味するのか、あるいはこれから経済に何が起きるのか、それが本稿で議論したいポイントです。
実はM2が減少に転じているのは米国だけではありません。図表2に示す通り、ユーロ圏でもM2の前年比はマイナスになっています。改めて整理すると、M2の前年比がマイナスになるのは、米国ではFRB(連邦準備制度理事会)のホームページで簡単にデータがさかのぼれる1960年以降で初、ユーロ圏ではユーロ発足以降で初めてのことになります。