1年1日ぶりの米中首脳会談がサンフランシスコで実現

 11月15日(現地時間)、1年1日ぶりの米中首脳会談がサンフランシスコで開催されました。米国が同地でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)を主催したのに際して行われました。

 先週先々週のレポートを含めて、米中関係、首脳会談に向けた地ならしについては随時扱ってきましたが、さまざまな不確定要素はあったものの、無事に開催されました。

 開催に当たり、中国側が強調したのが、バイデン大統領はAPEC出席だけではなく、米中首脳会談開催という名目で習近平(シー・ジンピン)国家主席に招待状を出したという点。米中首脳会談は、APEC首脳会合の「合間」を縫って行われたのではなく、独立したイベントとして行われた、そのために習主席を招待したという立て付けに中国側は関わったということです。

「米国はそれだけ中国を重んじている、中国との関係を大事にしている。」

 そういう体裁、文脈の中で習近平氏という最高指導者に米国の地を踏ませる必要があったわけです。サンフランシスコという土地が、38年前に習氏が初めて米国を訪問した際に入国した都市であるという歴史的経緯を、中国側は「物語」として活用していました。今回も習氏がサンフランシスコの空港に着陸すると、イエレン財務長官、ニューサムカリフォルニア州知事、バーンズ駐中国大使が出迎えるほどの厚遇ぶりでした。

 実際の会談では、メディアを入れた上での両首脳の冒頭発言、閣僚が退席し、習近平、バイデン両氏のみ、同時通訳を介しての対話、閣僚を同席させた会談、ワーキングランチ、両首脳のみ、通訳なしでの庭園散歩など、多岐にわたる形式で行われました。15日午前10時過ぎから16時、6時間弱の時間を両首脳は共にしたことになります。バイデン政権としても、APECを巡る一連のイベントの中で、習近平政権との会談を最重要視していたということでしょう。

 会談の全過程が終了し、バイデン氏が習氏を見送る際、中国側が習氏の現地での移動用に事前に空輸した国産高級車「紅旗」を見て、「これは美しい車だ」と驚嘆すると、習氏は「これが紅旗だ」と誇らしげに説明。付き添いの人間にバックドアを開けるよう指示。社内を覗き込んだバイデン氏は「これは私が乗っているキャデラックに似ている」と反応しました。

 副大統領、副主席時代から旧知の二人は、「我々二人の間で引き続きこのような対話を続けていこう」と合意して別れました。

「米国は中国が台湾を平和的統一することを支持せよ」の意味

 何はともあれ、戦略的競争関係にある米中2大国の首脳が、入念な準備を経て会談にこぎつけ、意思疎通を図り、互いの本音を探り、交わし合った事実は、世界の平和と繁栄を追求していく上で意味があったといえるでしょう。

 米中首脳は会談で、ただ米中関係の重要性を確認し合っただけでなく、実質的成果も挙げています。例えばAI(人工知能)に関する政府間対話の立ち上げ、気候変動対策や麻薬取締居力を巡る作業部会の設置、米中間の直行便の増便などです。先端技術、地球規模課題、米中国民の交流といった多分野で協力体制の強化と促進することで一致したということです。

 最大の成果は、米中両軍、国防当局間の対話を再開することで合意した点です。やはり両軍が対話できない、何か不測の事態が発生した場合に備えてのホットラインが存在しない、機能しないという状況は好ましくない。危機管理の意味でも軍事対話メカニズムは重要です。

 そして、今回の会談で私が最も注目したのが、習近平主席がバイデン大統領に語った次のフレーズです。

「米国は、中国が台湾を平和的に統一するのを支持すべきだ」

 私が知る限り、中国の首脳が米国の首脳に対して、台湾の「平和的」統一を支持するよう要請したのは初めてのことです。これまでも、中国側は米国側に対して、「台湾独立を支持すべきではない」と主張、米台間の公式な往来や協議、および台湾への武器売却などに反対してきましたが、今回の発言は、3期目入りした習近平政権としての立場と狙いを感じさせる、次元がワンランク上がったものだと私は受け止めました。

 米国はこれまで、中国が台湾を武力によって併合すること、台湾海峡における現状を力によって一方的に変更することに反対してきました。日本も同様の立場を取っています。キーセンテンスは「武力による一方的な現状変更に反対」ということであり、裏を返せば、物事を平和的に処理するのであれば、そこに対しては少なくとも公式の立場では反対しないということです。

 今回、習近平主席がバイデン大統領に要請したのは「平和的統一を支持」すること。これまでの経緯や立場を踏まえれば、米国政府はこれに対して反対はできません。平和的にやる、と言っているわけですから。もちろん、習主席が言う「平和的」というのは、中国共産党が定義する平和的であり、それが日米を含めた国際社会の常識に相通ずるとは必ずしもいえません。

 ただ、新しい動向として私が指摘したいのは、「平和的」を要求してきた米国側に、「平和的」を要請した中国側という構造であり、中国としては、それなら反対できないだろう、口も手も出すな、という論理、枠組みをつくった上で、台湾を統一するための主導権を握ろうとしている点にほかなりません。来年1月には台湾で総統選が、11月には米国で大統領選挙が行われます。2024年、台湾海峡からますます目が離せません。