迫る、金融政策の転換

 2023年も残りわずか1カ月と少しとなりました。来年からは新しいNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)がスタートします。現行NISAと比べて投資額は拡大しますが、本稿は現行NISAで投資枠がまだ少し余っている投資家向けの内容です。テーマは「金融政策変更で注目される銀行株を先取り」です。

 2023年4月、日本銀行新総裁に植田和男氏が就任しました。今から10年前の2013年、物価下落(デフレーション)に苦しんでいた日本経済を立て直すため、日銀は大量の国債を市場から買い入れるなど異次元の金融緩和政策を導入しました。その導入を決断したのが、黒田東彦・前総裁です。

 黒田前総裁は、段階的に金融緩和策を拡充していきました。2016年1月には、金融機関が保有する日銀当座預金について、一定残高以上の部分にマイナス金利を導入する政策(マイナス金利政策)を開始しました。

 そして、同年9月には、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール:YCC)によって、将来の安定した金利水準の持続性を醸成し、目標だった物価上昇率2.0%を安定的に超えるまで資金供給量を拡大し続ける策(長短金利操作政策)を導入しました。

 そんな金融緩和政策などが奏功して、株式市場では、日経平均株価が3万円台を回復するなど日本株は息を吹き返しました。そして、物価上昇率についても2022年度は実績値で3.0%を記録。今年10月の日銀金融政策決定会合で公表した新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、2023年度、2024年度の物価上昇率も2%を超える見通しとしました。

 2013年の異次元の金融緩和政策実施時には「安定的な2.0%を超える物価上昇率」を掲げており、「安定的な」という具体的な水準は設けられていませんが、3年連続での2%超え見通しを受けて、市場では「金融政策の見直しは近い」との見方が強まっています。

 実際、今年7月と10月の2回にわたって、日銀はYCCの見直しを行いました。世界的にインフレ抑制のための金利引き上げ加速という外部環境の影響もありましたが、日本の金融政策が転換する局面は近いと考えます。

金利引き上げで、どうなる?

 では、具体的に何が変わるのかを簡単にご説明します。2013年に導入した大規模な金融緩和政策そのものを転換するにはまだ時間がかかると考えますが、まずは、来年3月までに、「マイナス金利の廃止」と「YCCの再度の修正もしくは部分的な廃止」が行われると想定します。

 変動型の住宅ローンを借り入れている方は、「マイナス金利の廃止」よって短期金利が上昇すると、月々の住宅ローン金利が上がる可能性があります。また、「YCCの再度の修正もしくは一部廃止」では、既に上昇している固定型の住宅ローン金利が今後も上昇する可能性があります。

 つまり、金融政策の方針転換となれば、まずは銀行の貸出金利が上がる可能性が非常に高いというわけです。その分、預金金利も上がるでしょうが、10数年、金利が付かない世界で生きてきた日本国民は、久しぶりの金利上昇に戸惑うことでしょう。

 特に20代、30代、40代前半の方は、社会人生活で金利が上がった経験は皆無です。さすがに変動型の住宅ローン金利が、1.0~2.0%一気に引き上がる事態にはならないでしょうが、「0.数%での返済がしばらく続く」と考えていた方は、数年後の金利がいくらか上がっている状況を想像した方がいいでしょう。

 実は、市場は既に植田日銀総裁就任あたりから、先々の金融政策の方針転換を織り込むような動きを見せていました。東京証券取引所に上場している全銘柄を33業種に分けた業種別のデータを調べたところ一目瞭然です。

 こちらのデータは、植田日銀総裁が就任した最初の営業日である4月10日の各業種別の数値を起点に、11月16日までの瞬間最大の上昇率をランキングとしています。

 1位の鉱業はエネルギー価格の上昇のほか為替の円安推移が追い風となりました。2位の輸送用機器も為替の円安推移が背景です。4位の電気・ガスは電力会社の一斉値上げが奏功しました。5位の卸売業は、世界的な投資家であるウォーレン・バフェット氏が日本の商社株を購入していることが上昇の要因です。

 そして、ここで飛ばした3位の銀行業こそ、33業種中、金利上昇の恩恵を最も受ける業種となります。ロジックは単純です。これまでの超低金利の中、本来の貸出業務では利ざやが小さかったのが、金利上昇によって一変する可能性がでてきたからです。

 まだまだ、銀行の普通預金や定期預金は雀の涙程度の金利ですが、既に10年物の日本国債の利回りは、昨年0.2~0.3%水準だったのが、0.8%前後まで上昇しています。低い金利で資金を集め、高い金利で貸し出すことが当たり前の状況となれば、銀行業の先行きは今よりは明るくなるでしょう。こうした観点から、銀行業に注目したいと考えます。

 本稿では、金利引き上げによって業績などにプラスとなる可能性が高い銀行株を5銘柄紹介したいと思います。

金利上昇で追い風!銀行株5選

銘柄名 証券コード 株価(円)
(11月22日終値)
ポイント
東京きらぼしFG 7173 4,290 通期純利益見通しの上方修正余地もある
三菱UFJFG 8306 1,264.5 世界で稼ぐ力は国内随一
筑波銀行 8338 257 本拠地のつくば市は人口増加率全国一位
ふくおかFG 8354 3,548 中小銀行を飲み込むトップクラスの地銀
栃木銀行 8550 329 地味だが銀行の本業は好調に推移

※FGはフィナンシャルグループの略

東京きらぼしフィナンシャルグループ(7173)

 東京を基盤とした八千代銀行や東京都民銀行など3行が合併して誕生した地方銀行です。グループ内にはデジタルバンクのUI銀行を持つなどデジタル戦略も推進しています。2024年4-9月期の決算では、メインを占めるきらぼし銀行の貸出金利息が前年度同期比で50億円のプラスと本業の好調さが目立ちます。

 親会社株主に帰属する中間純利益は134.7億円。通期目標の240億円に対する進捗(しんちょく)率は56%です。2024年10-3月期に金利上昇の流れが強まった際は、通期純利益見通しの上方修正余地もあると考えます。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)

 メガバンクでもトップクラスの高い収益力を誇っています。長きにわたる超低金利の中、同社は海外事業を積極的に展開しており、米国大手証券のモルガン・スタンレーを筆頭に世界各国で金融子会社を保有しています。

 超低金利でも稼ぐ力を身につけていることから、今後、金利が上昇する局面では国内事業も利益を上げる公算が大きいです。また、メガバンクの中でも、デジタル通貨事業に取り組むスピード感は一歩抜きんでています。2006年高値の1,950円をまずはターゲットとした展開を想定します。

筑波銀行(8338)

 茨城県つくば市を基盤とした地方銀行です。つくば市は、総務省が公表した住民基本台帳に基づく人口動態および世帯数調査によると、2023年1月1日現在(2022年1月1日から12月31日)の人口増加率が2.30%と、市区部で全国一位でした。

 子育て世帯がつくばエクスプレス駅近辺に転入し続けていることや、コロナで落ち込んでいた外国人の転入が2022年ごろから再度活性化していることなどが理由に挙げられます。人口が増加する町を起点にビジネスを展開している同社に、注目しています。

 一日の売買が少なく、地味な存在かもしれませんが、2021年以降、3年連続で自社株買いを実施している点や、PBR(株価純資産倍率)が1.0倍を大きく割り込んでいることなどから、長期目線で保有したい銘柄です。

ふくおかフィナンシャルグループ(8354)

 福岡銀行と熊本ファミリー銀行が経営統合して誕生した九州を代表する地方銀行です。今年10月に、福岡中央銀行と経営統合するなど、拡大路線を進める地銀として有名です。

 地方のオーバーバンク(人口や地域経済の割には銀行が多い)が問題視されている中、中小地銀を取り込む積極果敢な経営姿勢に注目です。地銀の中でもトップクラスの総資産を、来るべく金利上昇局面で有効活用できれば、業績にもポジティブな結果につながることでしょう。

栃木銀行(8550)

 その名の通り栃木県を基盤とした地方銀行です。同行は本業がしっかりとしていることから注目しています。2024年4-9月期の決算では、経常収益は186億円、最終的な利益は16億円と前年同期比で減収増益の着地となりました。

 背景には、貸出金の利息収入などが増加したものの、有価証券の利息配当金が減少したことがあります。そして、本業の収益を表す「コア業務純益」は、投資信託解約損益を除き、前年同期比と同じ水準の40億円を維持しています。本業がしっかりしていることから、今後の金利上昇局面では業績の右肩上がりが期待できるでしょう。