ミレイの勝利

 経済の混乱が続くアルゼンチンで11月19日に行われた大統領選挙決選投票でハビエル・ミレイが55.7%の得票率で当選しました。

 ミレイは経済の苦境打開策として:

1.アルゼンチン・ペソの廃止→米ドルの使用
2.中央銀行の廃止
3.中国と決別し親米路線を歩む

 という主張をしてきました。

 世論が真二つに割れている国なので上に書かれたこれらの公約が実行に移される保証はありません。

ドルペッグの歴史

 一見するとペソ廃止は極論に見えますが、実はアルゼンチンは1990年代の前半頃はドルペッグ政策をしていました。一種の固定相場制であり、このためダラライゼーション、すなわち「経済のドル化」がとても進んでいた歴史があります。

 当時、アルゼンチンは南米の中でも豊かな国のひとつでした。実際、100年前アルゼンチンはれっきとした経済大国でした。いまでもブエノスアイレスには往時の豊かな国の面影が建築などに残っています。洗練された、人生の楽しみ方をよく心得た国民性だと昔は言われたものです。

 つまりミレイの主張は30年前の古き良き時代を彷彿とさせる提案に過ぎないのです。

 通貨発行権を中央銀行から奪い…と言うより中央銀行そのものを廃止してしまい、すべてをFRB(米連邦準備制度理事会)に委ねるということは、米国流の金利通貨政策のガバナンスがそっくりそのままアルゼンチンにも持ち込まれることを意味し、これはガバナンスのグレードアップを意味します。

 これまでアルゼンチンの全てのアセットは二束三文の安値に叩き売られていたので「すわ為替リスクが無くなる!」となればバーゲンセールになっているアルゼンチン資産の買い漁りが起きるのは当然の成り行きです。大統領選挙の結果が判明した翌日、11月20日(月)は寄付きからアルゼンチン株が軒並み+20%とか値を飛ばしたのは、そのような理由によります。

一筋縄ではいかない今後の展開

 ただし、ここで皆さんに釘をさしておかなければいけません。中央銀行を廃止するということは金利政策の独立性を放棄することにほかならないので、不況に陥ったとき、通貨安を通じて景気のてこ入れをするというような手が使えなくなるのです。

 言い換えれば不況が来て体力の無い企業が続々潰れても、それは自然淘汰なので仕方ないという感じで、弱者を見殺しにする選択だと言えます。

 アルゼンチンの国民がそのような「ジャングル資本主義」でも構わないという気持ちになった背景には、アルゼンチンは近年社会保障制度などのソーシャル・セイフティーネットの充実に力を入れてきたけれど、その実、それらの間接部門の肥大化は不正腐敗の温床と化し、国政のトップ以下、上から下までそういう誤魔化しが蔓延るという問題に苦しんできたからです。

 富の分配をめぐる世代間の軋轢に代表される、ゼロサム経済下での論争は日本でも見られることですが、これは経済の活力が失われた国に特徴的な政治現象と言えるかもしれません。

 アルゼンチンの場合、わざとセイフティーネットを除去することでアニマル・スピリットの鼓舞に出たというわけです。

アルゼンチン株は米国株と同じようにトレードできる

 なお、アルゼンチン株の多くはニューヨーク証券取引所に上場されており、米国株と同じ要領で取引できます。代表的な銘柄は:

トランスポルタドラ・デ・ガス・デル・スル(TGS)
グルーポ・フィナンシエロ・ガリシア(GGAL)
バンコ・マクロ(BMA)
YPF(YPF)
テレコム・アルゼンティーナ(TEO)

になります。