※本レポートは10月25日執筆のものとなります
今回のサマリー
●米長期金利は5%到達後に軟化。しかし、投機にあおられた金利高が終わったと見るのは尚早
●11月以降、景気・インフレの陰り、債券投資家の不安緩和をチェック
●株は当面、11月1日FOMC後の投機の次ラウンドをにらみ、神経質な小波動を想定
●AI系数社の株は、景気悪化、金利高に耐性ありとして、短期のリスクと中期の勝機を整理する
米長期金利が足元軟化
長期金利の指標となる米国債10年金利は、10月23日のアジア~欧州市場時間に、5%の大台を超えました(図1)。ここに至るまで、長期金利の急速な上昇、すなわち債券価格の急速な下落は、プロの債券投資家の不安をあおるばかりではなく、株式投資家も金利過敏症に陥らせています。この日の米市場オープン前は、株式相場の底割れリスクもあり得るという警戒モードで構えていました。
ところが、米市場時間には、長期金利は急低下しました。当然、株式市場は大いに安堵(あんど)し、寄付き直後まで高金利不安による下振れを切り返すと、急激に反発し、翌24日も続伸しています。しかし、この金利低下には、特にきっかけになるような経済指標やFRB(米連邦準備制度理事会)からのハト発言があったわけではありません。
なぜ長期金利は下がったのか、相場の値動きを見ながら想定した理由は以下の通りです。データの証拠があるわけではなく、あくまで状況証拠としての推測です。
- 長期金利が5%の大台という象徴的水準に到達したことで、目標達成感を得た投機筋がポジションを巻き戻した。
- 長期金利が5%超のままだと、株式相場の底割れリスクが高かったため、リスクオフに伴う国債買いを警戒した投機ポジションの巻き戻しが出た。
- 数日前に、大手機関投資家のインタビューで、米長期金利5%超の国債は「買い」とのコメントがあり、投機もいったん様子を見た。
しかし、(1)と(2)は単なる相場のアヤ戻しであり、長期金利の上昇トレンドが終息させるものではないでしょう。(3)のように、債券投資家が買いへ本格出動することが、債券金利の低下には極めて重要ですが、すぐに期待してよいものか、今ひとつ慎重に見ています。
図1:米国債10年金利(1時間ローソク足)
長期金利急上昇のなぜ
長期金利の上昇が今後落ち着くかどうかは、景気・インフレ指標の陰り具合のチェック、債券投資家の買い意欲回復チェックを、11月以降に少し時間をかけて見ていく必要があると考えます。
もちろん、相場の変わり身はファンダメンタルズの証拠が出てくるより早く進みがちと心得てはいます。それでも、ここに至るまで、長期金利がこれほど上がった理由も判然とせず、市場には不安が渦巻き、そこを投機にあおられた格好です。この不透明感の改善なしでは、投資家の不安と投機のあおりはそれなりに残ると考えます。
そもそも、ここ半年、なぜ長期金利はこれほど上昇したのでしょう(図2)。6~9月には、堅調な景気指標の中にも陰りが見られました。インフレ指標も、恐らく夏場のリベンジ消費や、原油高によるガソリン高があっても、陰りの兆候も見られました。その中を債券金利は上がっていったのです。相場の中にいて推測していた理由を列挙します。
- FRBが、利上げ最終局面ゆえに、市場に安易に楽観を抱かせないようタカ姿勢を殊更に強調。
- 格付け会社フィッチが米国債を格下げし、財政赤字に関心が向かうようになった。
- 国債入札での増発を見て、QT(量的引き締め)下での債券需給への不安が募った。
しかし、それでも8月中の長期金利上昇は、景気・インフレ指標に陰りが見えても、そこから堅調な面を選び出すようにして、段階的に進みました。9月にかけて、長期金利が2022年10月のピーク4.3%付近に達すると、多くの債券投資家は値ごろ感から買い出動したと見受けられます。ここからさらに金利が上がり、債券価格の下落が進むと、投資家は投げ売りや先物でのヘッジ売りに向かい、自ら金利を高める側に回ったようです。
債券投資家が、数カ月にわたる相場下落で打ちのめされ、自信喪失となると、入札での購入にも気合いが入りません。投資家の買いに躊躇(ちゅうちょ)がある中で、債券市場の現物と先物の間にある微妙なズレを、巨大な投機筋がベーシス取引などの投機で活発に獲りにいったと見受けられます。投機筋がひどく売り込むようなことをしなくても、投資家が不安にさいなまれていると、相場はおのずと嫌な方、嫌な方に動きやすい面があります。