株主優待を新設する企業が再び増え始めている。2023年9月末までの1年間で、優待を新設した企業数から廃止した企業数を差し引いた純増数は8社と、前年同期の2社を上回った。2024年に開始する新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で個人投資家のすそ野拡大が予想される中、優待を充実させることで個人株主を増やそうとする企業の狙いがある。(トウシル編集チーム・佐々木閑)

個人の投資活発化に期待

 大和インベスター・リレーションズ(IR)の調査によると、2022年10月~2023年9月の1年間で優待を新設した企業は87社、廃止した企業は80社だった。新設、廃止ともに前年同期比1.5倍で推移している。ここ数年は廃止企業数が新設企業数を上回り純減となる年もあったが、新設する企業がじわり増えつつある。

 企業が優待を新設する理由の一つに、2024年に始まる新しいNISAの影響がある。NISAは投資でもうけた利益にかかる税金がゼロになる制度。新制度はより使い勝手が良くなり、個人が投資しやすい環境が整う見込みだ。

 このほど優待制度を導入した良品計画は、新NISAが終了期限のない恒久制度になることに着目。長期の資産形成が進むとみて、「中長期で株式を保有する『ファン株主』が増えることに期待している」(IR担当者)。優待内容は、生活雑貨店「無印良品」の会計時に使える5%割引カード。優待を通じて、店舗の利用増や株主との関係づくりに力を入れる。

 新NISAを機に、優待内容を拡充する動きもある。保険代理業や資産運用の相談サービスを展開するFPパートナーと家電量販店のコジマは、優待の実施回数を従来の年1回から年2回に増やす。優待内容を充実させ、投資対象としての魅力を高めたい考え。

 FPパートナーの広報担当者は「新NISAの開始により、個人投資家が増えることが予想される。当社のビジネスや利益還元姿勢に興味を持ってもらえる機会も増える」と期待を寄せる。

 一般消費者に身近な商品やサービスを展開する企業にとって、新NISAで個人の投資活動が活発化することは追い風と言える。

 コジマ広報担当者は「当社の株主の多くは、普段店舗をご利用いただいているお客さま。新NISAが開始するタイミングに合わせて、優待の拡充を決めた」としている。

「公平な利益還元を」優待廃止も増加傾向続く

 優待を拡充する企業が増えている一方で、廃止を決める企業も増加傾向が続いている。主な理由は、全ての株主に公平な利益還元を実現するため。優待は日本独特の仕組みで、恩恵を受けられない海外の機関投資家にとって不公平だとする批判が根強くある。ここ数年は廃止ラッシュが続き、配当や自社株買いなどにシフトする企業が相次いでいる。

 大和IRの浜口政己氏は「足元では新設、廃止ともに高水準で増えており、今後もその傾向が続くとみられる」と指摘。優待を巡る企業の姿勢は、二極化が続きそうだ。