財務官、為替介入要件に新たな解釈、けん制効果拡大も
ドルの頭を重くしているのは、日本政府による円買いの為替介入への警戒感も根強く残っていることが背景にあります。先週3日、一時1ドル=150円台に乗りましたが、まとまった円買いで147円台の円高となりました。
市場では介入に踏み切ったのではないかとの見方が広がりましたが、鈴木俊一財務相は為替介入についてはノーコメントとの発言を繰り返しています。
一方で、4日、為替政策の実務を統括する財務省の神田真人財務官は介入について新たな考えを示しました。記者団に「一方向に一方的な動きが積み重なって一定期間に非常に大きな動きがあった場合は過度な変動に当たりうる」と述べ、一定期間の考え方について「1日の場合もあれば2週間ほど、1カ月ぐらいの場合もある。年初来からだとドル/円は20円以上の値幅がある。そういったことも一つの要素だ」と説明しました。
これまで財務省は為替の水準ではなく、過度な動きがあるかどうかを見極めて為替介入の是非を判断する姿勢を示してきましたが、この説明は「過度な変動」について新しい解釈を加えたことになります。
年初からの20円以上の円安の値幅も「過度の変動」の一つの要素だと説明したことから、緩やかな円安でも、年初からの円安の値幅が広がると「過度の変動」とみなされ、介入もあり得ると解釈できます。この新たな解釈はけん制効果を大きくさせ、円売りも慎重になることが予想されます。
日米金融政策の転換点
また、日本銀行が10月末に発表する次回の経済・物価情勢の展望(展望リポート)に関して、2023年度の物価見通しを2.5%から3%近くに上方修正する検討に入ったとの報道が10日、流れました。
中東情勢の新たなリスク、FRB高官からの相次ぐハト派発言、為替介入への新たな解釈、日銀の物価上方修正観測などが先週から今週にかけて市場を駆け巡りました。これらの要因はドルの頭を重くさせ、円安は一服、1ドル=150円超えは当面、相当ハードルが高くなりそうです。
11日には米国9月PPI(卸売物価指数)、12日には米国9月CPI(消費者物価指数)が発表されます。FRBのハト派発言を後押しする数字になるのか、それとも覆す数字になるのかどうか注目です。
これまでは日米金融政策の方向の違いとそれに付随する日米金利差から円安が進みました。FRBの利上げが終了し利下げに向かう方向と、日銀が大規模緩和から正常化に向かう新たな方向性の違いを上記の要因は示唆するものになるかもしれません。
そして為替市場はどのタイミングで先取りするかに注目しています。金利差はすぐに縮小するわけではないので、円安が一服しても円高の流れになるのには時間がかかると思われますが、この考え方は頭の片隅に置いておきたいと考えています。