不振にあえぐ不動産市場。中国政府によるテコ入れは功を奏すか?

 前項の図表で示したように、1~8月の固定資産投資は前年同期比3.2%増で、伸び率が下がる傾向にあります。中でも、不動産開発投資は同8.8%減となり、中国不動産市場が回復してきていない現状を物語っています。

 国家統計局の付報道官は会見で、この期間の不動産市場について次のように指摘しています。

「今年に入って以来、経済社会が全面的に常態化運行を回復するに伴い、第1四半期の不動産市場はいくらか改善した。しかし、あらゆる影響を受け、第2四半期の不動産市場をめぐる売上、開発、建設は全体的に下降傾向を示した。8月の状況から見ると、不動産市場は依然として調整段階にあると言える。市場における売上と不動産投資は依然下降している。1~8月、住宅販売面積は前年同期比7.1%減、販売額は3.2%減、不動産開発投資は8.8%減となり、下げ幅が拡大しつつある」

 現状は決して楽観的ではないという認識を中国当局も持っているということです。そんな中、7月下旬、中国の最高意思決定機関である中央政治局の会議で、新たな局面に差し掛かっている不動産市場に適応するための方針が打ち出され、8月下旬以降、各地方自治体が「認房不認貸」という市民たちの住宅購入を促すための対策を続々と発表し始めたのです。

「認房不認貸」とは、過去にローンを組み住宅を購入した場合でも、現時点における住居地に不動産を保有していなければ、1軒目購入という扱いで頭金の割合と金利の優遇を受けられる制度を指します。8月30日に広州市と深セン市が、9月1日には北京市と上海市がこの政策を正式に打ち出しています。9月10日までに24の都市がそれに続いており、直近では19日、山東省青島市がこの政策を発表しています。

 具体的にどういうことかを見ていきましょう。9月2日、CCTV(中国中央電視台)が北京市をケースに次のように報じています。

 北京市の規定によれば、普通住宅を一軒目として購入する場合の頭金は35%以上、非普通住宅(豪華な別荘など)の場合は40%以上。それが2軒目になると、それぞれ60%以上、80%以上に割合が上昇する。

 600万元(約1億2,000万円)の普通住宅を例にすると、一軒目の場合は頭金が210万元(約4,200万円)、2軒目の場合は360万元(約7,200万円)ということになる。一軒目として扱われることで、頭金の割合がどれだけ下がるかが見て取れるだろう。

 また、北京市で1軒目を購入する場合の金利は4.75%、2軒目は5.25%であるが、200万元(約4,000万円)のローンを25年で組む場合、1軒目か2軒目かによって、金利差は17万元(約340万円)以上となる。

 CCTVという中国を代表する官製テレビが、今回の政策によって、市民が住宅を購入するに当たり従来と比べて顕著な優遇を受けられると宣伝している模様が見受けられます。

 中国政府は毎月大中70都市の住宅価格の変動を発表していますが、8月、前月比で新築、中古で販売価格が上昇したのはそれぞれ17都市、3都市に(北京市、広州市、深セン市でそれぞれ0.2%減、0.3%減、0.6%減、上海市0.1%増)、前年同月比でも25都市、3都市にとどまっています。

 政府が満を持して打ち出した「認房不認貸」政策は国民の住宅購入欲に火をつけるのか。9月の統計結果はそれを検証する上で重要になると思います。

若年層の失業率問題はどうなるのか?

 景気回復が遅れる中国経済を巡り、不動産不況に並んで物議を醸していたのが、8月以降、若年層を含めた年齢別の失業率結果の発表を突然中止したことです。

 前項の図表にもあるように、4月以降、16~24歳の調査ベースの失業率は20%以上で高止まりし、過去最高値を更新していました。そんな中の発表中止だっただけに、「何かやましいことでもあるのではないか」「真相を隠そうとしているのではないか」「自分に不都合な数値を発表しない。これだから中国は信用できない」といった声が中国内外で上がり、中国経済の不透明感に拍車をかけました。

 そして、9月15日に発表された8月の主要経済統計にも、前月同様、若年層の失業率は含まれていませんでした。この点に関して、付報道官は次のように説明しています。

「年齢別の労働力データ状況に関して、国家統計局は現在深く研究している。新たな状況があれば、適宜対外公開する」

 付報道官は続けます。

「歴史的に見ると、8月、若年層の雇用状況は全体的に改善する傾向にある。今年、我々の調査研究と一部部署が提供するデータから見ても、今年8月、若年層の雇用状況には顕著な改善が見られる。政府による雇用支援策が徐々に効果を発揮しているということだ」

 国家統計局内部には、何らかのデータがある、ただそれを公表する段階にはないということでしょう。どこかのタイミングで公開する、というのは確かな立場だと思います。より踏み込んで言えば、どのタイミングで、どのような根拠をもって、どのような形態で、「中国経済低迷」の一根拠と見なされてきた若年層の失業率が再発表されるかは極めて重要であり、私自身、注意深くフォローしていきたいと思っています。

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