お金のライフプランニングに関して、「この点には注意しておきたい!」と思うポイントをいくつかご紹介したい。

意思決定、2つのコツ

 はじめにお金の人生設計が必要な理由を確認しておこう。

「マネープラン」と呼ぶか、「ライフプラン」と呼ぶか、呼び方は様々でも人生の将来像とお金の問題を関連付けて計画を立てることは誰にとっても有用であり、多くの人にとって必要でもある。カタカナの呼び名に「プラン」と入るように、その本質は「計画」なのだが、計画が有益である理由は、人生のあれこれに関わる多くの物事には時間が必要となるからだ。

 例えば、学校に通ったり、修行に出たりして、将来お金を稼ぐことの出来るスキルを身につけるためには、何よりも時間が要るし、加えて学費などのお金が必要な場合も多い。こうした必要性については、予め考えておくことが有効だし、不可欠な場合もある。

その一、機会費用を見落とさない

 さて、フルタイムで学校に通うと、その間仕事をして稼ぐことが出来ないが、この場合、学校に通う費用は、直接的に支払う学費の他に「働いていたら稼ぐことが出来たであろうお金」も実質的に費用としてかかっていると考える必要がある。後者のことを経済学用語では「機会費用」と呼ぶのだが、正しい意思決定を行うためには、機会費用を見落とさずに、今後に何をしたらいいかを考えることが重要だ。

 機会費用を見落とさないためには、複数のプランを想定して比較してみることが有用だ。選択肢がある場合に「選択を一つに決めて、一つのライフプランを完成させる」のではなく、「複数のライフプランを比較して、選択の参考にする」考え方がよい。

 ライフプランの目的は、プラン自体を完成させることではなく、よりよい人生を選択することなので、プラン自体は気楽に複数作るつもりでいるくらいがいい。

その二、サンクコストにこだわらない

「機会費用」とセットで覚えておきたい重要概念が「サンクコスト」だ。サンクコストは「埋没費用」と訳されることが多いが、既に使ってしまって取り返すことの出来ない費用のことだ。そして、意思決定全般にあって、「サンクコスト」を無視することが重要なのだ。

 例えば、大学に通い始めたとして、ある時、卒業するまで大学に通い続けるよりも良い選択肢を見つけたとしよう。この場合、過去に大学に払った学費や機会費用などを「もったいない」と思うかもしれないが、過去の費用は取り戻すことの出来ないサンクコストだ。大学を中退して新しい選択肢に賭けるのか、卒業するまで大学に通うのかを、今後の損得のみに注目して選択することが正しい意思決定となる。

 因みに、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏、アップル・コンピューターのスティーブ・ジョブズ氏といった有名な創業者2人は共に大学を中退している。

「機会費用」を見落とさないことも、「サンクコスト」に拘らずに意思決定することも、意識的に努力しないと難しいが、この二つを徹底的に意識することが意思決定全般のコツであり、ライフプランニングに於いても同様だ。

既存のFPのライフプランにある二つの不満

 さて、ライフプランを作る専門家として、世間によく登場するのが「FP」こと、ファイナンシャル・プランナーだ。FPと一口に言っても、その知識レベルや得意分野、ビジネス上の立場などがまちまちで非常に大きな個人差があるのだが、筆者は、多くのFPが提示するライフプランや、そのための分析法について不満を持つことが多い。

 主な不満点を二つ挙げておこう。

 一つ目は、FPがしばしば「本人の数字ではなくて、平均値でものを語る」ことだ。例えば、2019年に世間を大いに騒がせた「老後2000万円問題」があったが、老後の資金として2000万円無くても十分やっていける人もいれば、老後の生活を想定した時に2000万円では全く足りないと思われる人もいた。

 老後の備えに2000万円必要だと言われた時に、前者の人は「2000万円もなければいけないのか」と焦っただろうし、後者の人は「2000万円では全く足りない気がする。大丈夫なのか」と不安になっただろう。老後の備えとして幾ら必要かというような個人差が大きな問題については、世間の「平均値」で語った分析を提示されても、個々人にとって役に立たないことが殆どだ。標語風にまとめると「平均値の物語は、誰も安心させない」のだ。

 老後の資金の問題では、平均の数字を提示するのではなくて、「自分の数字で計算する方法」を伝えることが大事だった。大まかでもいいので、自分で計算して、何度も計算した上で納得できる数字を見つけることが、全ての個人にとって重要だった。FPは、その助けをすることが望ましかった。

 家計費に占める食費の割合のような「比率」に関しても、生活のありようが変わると適正な値は一人一人でちがうだろう。

 ライフプランニングのお金に関する扱いは、「世間の平均ではなく、自分の数字で行うこと」が大事だと強調しておく。

 もう一点、筆者がしばしば感じる不満は、FPが運用商品や生命保険のような金融商品に関して、売り手の言いなりの商品説明をアドバイスに取り入れがちなことだ。

 例えば、運用商品で言うと、「バランス・ファンドは初心者向けだ」というのは嘘だ。バランス・ファンドは中身が把握しにくいし、中身を把握した上で自分の運用全体のリスクを正しく把握する事が難しい。加えて、バランス・ファンドでは、個々のアセット・クラスを別の商品の組み合わせで実現する方が手数料が安く済むケースが少なくない。こうした点を踏まえずに、「アセットアロケーション(資産配分)を考えなくていいから、バランスファンドは初心者向けだ」と言う運用会社の言い分をそのまま顧客にアドバイスしてしまうFPが少なくない。

 また、「○○のリスクに備えたい、××のような人には、この保険がピッタリです」という保険会社の言い分に引き摺られて、「××のような人」にこの保険をアドバイスするFPが少なくないのだが、そもそもその人には保険を使う必要がないといった点が見落とされがちだ。

 保険は、加入者が平均的には損をするように作られた商品であり、なるべく使わないで済ませるのことが経済的意思決定としては肝心だ。心配事の一つ一つに保険を対応させると、期待値としては大きな損失になる。

 FPは、金融商品の専門家ではないので仕方がない面もあるのだが、「商品の売り手の言い分を疑う」というくらいの経済常識を持っていて欲しいと思うことがしばしばだ。

 また、FPによっては、生命保険の代理店を併営していて、保険を紹介することから収入を得ているケースがしばしばあって、こうした場合、アドバイスが他のビジネスの利益に影響されかねない「利益相反」の問題を孕むことになる。

「保険を売っているFPに相談してはいけない」と肝に銘じておいて欲しいし、こうしたFPの書いた書籍や記事を信用しないことが肝心だ。

「良い人生を送ること」が目的だ!

 以上、機会費用とサンクコストに留意すること、平均値ではなく自分の数字で考えること、金融機関の言い分を疑うこと、などが大事だと述べたが、これらの他にライフプランニングを考える際に必要なポイントを幾つか簡単に補足しておく。何れも、「より良い人生を送る」というライフプランニングの大目的に沿うためのアドバイスだ。四つお届けする。

(1)稼ぎと働き方が大切

 お金の問題を中心にライフプランニングを考えると、現在の延長線上にある仕事や所得を前提として将来を考えがちになるが、仕事や勤め先、あるいは働き方を変えることが適切な答えになっている場合が少なくない。

 多くの人にとって、人生の経済的な豊かさを決定する最大の要因は「何をして働いて、いくら稼ぐか」であり、いくら貯めるかとか、どうやって運用するかといったお金の扱い方の問題よりも重要である場合が多い。

 もちろん、多くの人は仕事を通じて他人と関わるので、仕事は人生の生き甲斐そのものに関わる問題でもある。

 転職、副業など、選択肢は多い。選択肢の中には準備が必要なものもある。そのためにこそ、ライフプランニングがあると考えてもいいくらいだ。

(2)お金の柔軟性を活かす

 お金には、その使途を後から自由に決める事が出来る柔軟性がある。例えば、いつでも取り崩す事の出来る金融資産があれば、これを自身や子供の教育費に充てることも出来るし、病気の治療費にすることもできるし、世界旅行の代金にも出来る。お金のこうした柔軟性を理解していると、例えば、民間の医療保険は必要ない場合が殆どだし、急に何かがしたくなった場合の支出にも対応できる。

 また、支出によっては、人生の特定の時期(例えば若くて体力がある時期)にしか有効に使えない対象もある。

 お金の柔軟性を生かしつつ、適切な時期に有効にお金を使いたい。

(3)人生の変化を覚悟する

 プランニング全般で陥りがちな問題だが、前提条件の変化に後から驚く場合がある。人生にはいろいろなイベントがあり、事前に予測できないこともしばしば起こる。仕事上の変化も起こるし、健康状態が変わることもあるし、家族の状況が大きく変化することもある。ただ、絶対に大丈夫だとは誰も保証できないのだが、他人の人生を眺め、小さなサンプルだが自分の人生を振り返ると、たいていの変化には対応のしようがあって、「人生は何とかなる」。

 人生はプランした通りには進まないが、それでもプランニングの意味がなくなる訳ではない。プランを修正しながら進めて行くといいのだ。変化の可能性を覚悟しておくことは必要だが、事前に悲観する必要はない。

(4)運用はシンプルに

 最後に、資産運用の話を付け加えよう。運用は、誰でも同じでいいし、シンプルでいい。若くても高齢でも、低所得でも高所得でも、「最も効率が良い運用対象」があるなら、お金の運用は皆それでいい。人によるちがいは、運用資産の総額と、リスクを取る大きさだけだ。

 人によって異なる運用商品が向いているということは原則としてないし、複雑でプロフェッショナルな運用をしたからといって運用効率が改善できる訳でもない。

 例えば、新NISAの運用では、つみたて投資枠と成長投資枠は同じ運用対象でいい(筆者は全世界株式のインデックスファンドを勧める)。長期投資に向かない商品は、短期でもダメなので、つみたて枠で不採用になるような商品に成長投資枠で投資する理由がない。そのような商品を検討すること自体が不要だ。

 新NISAは、運用商品の選択よりも、資金のマネジメントに留意して効率良く使いたい。つみたて投資枠と成長投資枠のちがいは、「有利な投資口座への入金ルールのちがいだと理解しておくといい。

 最後の最後に、「お金は使ってこそ意味があるし、お金を使うことは楽しい!」と強調しておく。気持ち良くお金を使うためにも、ライフプランニングを有効に活用してほしい。