中国の成長のエンジンである不動産セクターの減速
中国のGDP(国内総生産)に占める不動産セクターの割合は25%前後であり他国より大きいです。ちなみに日本は10%前後です。
しかし中国の住宅取引の成立は床面積ベースでピークより▲20%以上減っており、ここへきて物件が動かなくなっています。
不動産開発業者の経営危機
中国の消費者が不動産への投資に消極的になっている一因は不動産開発業者の経営危機が相次いで表面化しており、自分が投資した物件が完成する前に業者が潰れてしまうのではないか? という不安感があるからです。
中国では新築のアパートは内装を仕上げる前に引渡しが行われ、インテリアは買い手の趣味に合わせ、後で完成されるケースが多いです。そのことは入居前の物件は「買い手がいないのでとりあえず賃貸にまわそう!」という決断がしにくいことを意味します。
そもそも賃貸で得られる家賃より購入値段のほうがかなり高いこともあり、一度テナントを入れてしまうと物件価値が大幅に下がることを心配するバイヤーも多いです。
全室引渡し完了前にプロジェクトが頓挫すると、先回りして物件を購入した買い手はいまだ住めない状態なのにローンの返済を始めないといけません。
このように中国で新築物件に投資するのは日本よりリスクが高いです。
これまではアパートの購入が中国の人々にとって主な利殖の手段であり、住宅市場が右肩上がりのときは見切り発車で投資しても利益を手にすることができました。
しかし最近は不動産開発業者の倒産でせっかく貯めた財産が吹き飛ぶケースが出てきました。
消費に暗い影
中国の個人資産の7割近くが住宅であることを考えると、住宅市況の暗転は消費に暗い影を落とすことが想像できます。中国で内需が思ったほどふるわない理由はここにあります。
実際、消費者物価指数は需要の弱さを反映するカタチで0%となっており、デフレ寸前の状況です。
社会保障と消費の関係
もともと自動車や持ち家のようなローンを組んで購入するものは失業保険とか健康保険のようなセーフティーネットがしっかり整備された環境で初めて安心して借金できます。
しかし中国の場合、社会保障制度は常に他国に比べて大幅に見劣りしており、国民は(自分の身を守るにはたくさん貯金するしかない)という強迫観念を抱いています。
家計のバランスシートは限界
その一方で長く続いた不動産ブームで中国の消費者は可処分所得の100%を超える借金を抱えており、もうこれ以上借金を増やせない状態になっています。
銀行経営に配慮すると大胆な利下げができない
本来であれば中国人民銀行が大胆な利下げに踏み切り、不動産業界をテコ入れするとともに消費を刺激することが望まれるわけですが、先日の発表では1年物ローンプライムレートは0.10%利下げされ3.45%とされたものの5年物ローンプライムレートは銀行の利ザヤを守る配慮からぜんぜんカットされませんでした。
若者の高失業率
中国の失業率は5%を少し超える水準ですが16歳から24歳の若者たちの失業率は20%を超えており、社会人としてのスタートを力強く切ることができない状況ができています。
大学の乱立、卒業生の急増で「大学は出たけれど」という若者が増えています。
日本とおなじ少子高齢化社会へ
中国では日本同様人口動態がこれからアゲンストの風になると言われており、実際、人口は減少に転じ始めています。
世界への影響
中国における建設・開発が減速すれば銅、鉄鉱石などの需要が減退する恐れがあります。中国の製造業が注文を絞り込めば工作機械・工業製品の売れ行きが鈍るリスクがあります。中国で消費が不振になると、これまで好調だったラグジュアリー・ブランドなどの売れ行きが鈍る懸念があります。
日本は中国経済と密接に関係しており中国がデフレになればそれが日本に飛び火するリスクもあります。いま西側先進国はインフレに苦しんでいる国が多いですが中国がデフレになると不均衡が生じ、それが思わぬ資本市場のねじれが生ずる原因となるかもしれません。
逆にポジティブな影響としては中国経済の減速が世界全体としての需要を低く抑えることで世界的なインフレを回避し、金利がべらぼうに高くなるリスクを和らげる働きをする可能性もないとは言えません。