本気度伝わる東証改革、国内で資金が回る好循環を
──東京証券取引所が今年3月末に上場企業に資本コストや株価を意識した経営をするよう要請をしました。市場では、会社の解散価値とも言われる「PBR(株価純資産倍率)1倍」を下回る企業への改善要請として受け止められました。東証の改革や日本企業の完全への取り組みは貯蓄から投資への追い風となりますか?
東証の本気度というか、日本の株式市場を変えていこうというメッセージが強く打ち出されたと感じます。大きいのはPBR1倍割れを解消せよという話ではなくて、資本コストや株価を意識した経営というグランドデザインを示したことです。
企業に自社株買いをしろとか高配当を出せと言っているわけではなく、不採算事業からの撤退や成長分野への投資など、株主から集めた資本を効率的に使って経営するよう求めています。
東証は株価を上げることも経営の一部だと明言しています。経営者の間ではこれまで、株価はマーケットが決めるものという考え方が主流で、「株価を上げる」と発言するのは下品で投機的になり過ぎると批判的に受け止められました。
今は、経営者が「株価のことは答えられません」という態度を取ることはNGで、株価を上げる施策を説明できないといけません。経営者がそこを意識しないと、個人が安心して日本株を買えません。
──東証は東証プライムに上場する時価総額上位500銘柄から資本効率の高い150社を選んで指数化した「JPXプライム150指数」の算出を7月から始めました。馬渕さんはかなり期待を掛けていますね。
日清食品ホールディングスやSHIFTなど成長力がある企業が選ばれています。自動車関連は選定タイミングでPBR1倍を割れていたので、トヨタ自動車とか時価総額が大きくても含まれない企業もありました。指数が形骸化しないよう対象企業の定期入れ替えをすることも期待が持てます。
この指数に連動した商品はまだありませんが、今後、ETF(上場投資信託)などが出てくると思います。米国のS&P500種指数に連動した商品のようにパフォーマンスがいいものになって、新NISAの成長投資枠の対象銘柄にも入れていただけると、めちゃくちゃいいなと思います。
東証は過去にいろいろな指数を作ってきたけど、浸透しなかったものもあります。日本市場には投資がしやすくてパフォーマンスがいい指数が必要です。これまでなぜ広まらなかったか検証して、普及してほしいです。
日本の家計には投資に回っていない現預金が1,100兆円あります。それが国内企業の投資に回れば、すごいエネルギーとなります。日本企業は成長するし、個人投資家への配当や労働者の賃金となって、国内に回る好循環が生まれます。
米国株への投資ブームで日本の家計の金融資産は米国に流れてきましたが、日本の株式市場や産業が空洞化してしまうことを恐れています。米国株のパフォーマンスが良かったし、日本企業が成熟していて株価がなかなか伸びなかったことが背景にあります。
NISAが来年拡充され、東証も本気で市場改革に取り組んでいるので、日本で好循環が起きるように日本株を応援していきたいです。
インデックスで積み立てなら相場の良しあし考えず始められる
──資産運用を始める人には長期で積み立て投資をすることがよく勧められますが、投資を始めるタイミングは考えなくてもいいですか?
インデックスに積み立て投資をする場合は、タイミングを考え出すといつまでも投資できません。株価が上がり過ぎなので高値づかみするかもしれないと思ったら、投資できなくなってしまいます。逆に、今年3月に米国の銀行破綻が相次いだような時だと、怖くて投資ができなくなってしまいます。
とりあえず何も考えずに積み立て投資をしたらいいと思います。インデックスに連動した投資信託のパフォーマンス実績を見る限り、こつこつ投資していけば3年後くらいには資産が増えたと実感できると思います。
まだNISAを始めていない方は、現行の一般NISAなら非課税で投資できる120万円の枠が今年利用できます。来年の新NISAが始まる前に今年から始めた方がいいと思います。
──投資系インフルエンサーには全世界株式インデックス(オール・カントリー)、S&P500種指数連動のインデックス一択での運用を勧めている人も多いです。運用資産の組み方はどうしたら良いですか?
初心者が金融商品を選ぶのはすごく難しいです。全世界株系のインデックスが選ばれやすいし、残りを日本か米国の高配当銘柄に、ちょっと攻めるとしたらインド株のインデックスですね。新興市場は値動きが激しいので、初心者には勧めづらいです。NISAを活用した長期投資にも合わないと思います。
先ほど触れたJPXプライム150指数は東証プライム市場に上場する大型株が対象ですが、東証に成長力がある優良の小型企業の指標を作って、小型企業の成長に光が当たるようにしてもらいたいです。