来年、刷新されるNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で、日本でも投資が浸透するのか。金融や経済に関する情報発信や政策提言をしている日本金融経済研究所の代表理事で、経済アナリストの馬渕磨理子氏にオンライン取材で話を聞きました。
新NISAで若い人の投資広がりに期待
──NISAが来年に刷新されます。
今回の税制改正は非常に良かったです。現行制度よりも使いやすくなり、非課税で運用できる期間が恒久化し、非課税投資枠も大きくなります。今回の改正をきっかけにNISAを始めたいという声はかなり聞きます。
現行制度では一般NISAとつみたてNISAと二つに分かれていて、併用できず使いづらかったです。新NISAはその二つが統合される形になって、分かりやすい制度に変貌するとの印象を持っています。
私が出演するTOKYO FMの経済番組「馬渕・渡辺の#ビジトピ」とロイヤリティマーケティングで共同アンケートを取ると、新NISAを知らない人の割合は50%を超えていましたが、知っている人は積極的に投資に回していこうという声がけっこうありました。新NISAで投資予定の月額を「10万円以上」という回答が19%と最多で、驚いています。
──4年前に大きな話題になった老後2,000万円問題や現在の物価高で、資産形成に対する個人の意識も変わってきましたか?
老後2,000万円問題で投資に火が付きましたね。将来のために事前に備えをしないといけないという意識が広がりました。
今回の物価高で自分たちの預金や賃金が目減りしてしまう恐れを持った方が多くなりました。卵やパンなどの食品が値上がりし、電気代やガス代も高くなっています。給料は変わらないけど収入を増やさないといけない、節約やフリマアプリへの出品はやりつくした。そうした状況から投資に目を向ける人が増えました。
──日本証券業協会の調査などで、若い人で投資が必要と思う人の割合が増え、若年層のNISA口座の新規開設も目立つようになっています。この傾向は定着しますか?
政府が長い間、貯蓄から投資を後押ししてきたので、来年のNISA拡充でまだまだ広がると思います。
大学の投資サークルの学生と話す機会がありますが、投資意欲はむちゃくちゃ強い印象があります。バブル経済の崩壊で株価暴落を経験した世代と違って、10代や20代には「株が怖い」という感覚がありません。昔は証券業界に対して「株屋は信用できない」という意識が強引な勧誘などであったかもしれませんが、業界全体で投資家保護を徹底的に進めてきたこともあります。
資産運用で生活費を確保して早めに仕事をリタイアするFIREを達成したり、長期投資で資産を作ることができたりした成功者が身近にいます。証券会社が提供する取引アプリなど使いやすいツールも普及してきて、投資の敷居が低くなっています。
今は米国など世界の成長力がある市場に手が届く環境が整ってきました。昔はNTT株のような日本の大企業への投資が中心で、投資マネーが集中してバブルになりやすかった。その時より選択肢が広がり、投資家の価値観も多様化しています。
投資信託協会が、新NISAの成長投資枠の対象銘柄を一部発表しましたが、インドのインデックスファンドなども入ったので、世界への投資が当たり前のものになっていくと思います。
懸念は投資詐欺です。これまで富裕層が被害に遭うケースが多かったですが、大学生が投資詐欺に遭うケースも増えてきています。
SNS(交流サイト)でもうかる銘柄を教えますと言って近づいてくる手口がありますが、投資顧問業ではありえません(「必ずもうかる」といった断定的判断を提供することは金融商品取引法で禁止されています)。ただ、それがおかしいという感覚がない方もいます。そうしたことが心配です。
格差拡大の恐れも、賃上げ継続と金融教育が鍵に
──金融庁の調査によると、投資未経験者が資産運用をしない理由のトップは「余裕資金がないから」で、過半数の人が挙げています。投資ができるかできないかで格差が拡大する恐れはありませんか?
ご指摘の通り余裕資金がないから投資をしない人もいて、投資をしっかり取り入れる人との格差が広がってしまいます。
解決方法は二つだけで、一つは元手となる賃金を上げること。今年の春闘の賃上げ率は平均3.58%でした。国も産業界に働きかけをしていますが、来年の春闘でも賃金上昇が続くかどうかが鍵です。
二つ目は、月5,000円や1万円の小額からでもNISAを活用して投資をすることです。金融業界でNISAの活用法や投資について金融教育を継続的に進めることが必要になります。
──金融教育が高校の家庭科の授業で昨年度から必修となりました。さらに政府が来年中に幅広い世代に向けて金融教育を支援する認可法人を設置する方針です。金融教育の動きはどのように評価しますか?
高校で教育を受けた方が数年後に社会人として世に出てきて、投資がもっと当たり前の世界になってくると思います。SDGs(国連の持続可能な開発目標)が教育現場で取り上げられて、環境や社会問題に敏感な若い世代が増えました。教育の力は大きいです。そこに期待しています。
社会人への金融教育も徹底してほしいです。40代の主婦や50歳前後の会社員の方からNISAを始めた方がいいのか質問を受けることがありますが、40代から始めても老後まで20年あります。
投資をすれば複利が付いて、年金以外の生活の支えになります。そうしたことを知らない人がまだ数多くいます。政府が金融教育に力を入れる方針なので、学ぶ機会を利用してみたらいいと思います。