「バブル後最高値」が何度も見出しになるとついつい売りたくなる

 今年の5月は「バブル後最高値」という記事が何度も飛び交う月となりました。本記事掲載時点ではどのあたりの水準に株価があるかは分かりませんが、株価上昇というのは個人投資家にとっては盛り上がるポイントであり、また悩ませるポイントでもあります。

「このまま持ち続けて、もっと値上がりするチャンスを追うべきか……でもここがピークで下がったら悔しい」

「ここで売ってしまったほうがいいのか……でも売ったあとにさらに上昇したら悔しい」

 このような感情が渦巻きます。

 全般には株価急上昇時には「売り」の衝動が高まります。しばしば個人投資家は信用売りのポジションを積み重ねることもあります。

 株価上昇の折り、何らかの「売るルール」が欲しいものです。そこで考えてみたいのは「部分的に売る」アプローチです。

「部分的に売る」が合理的である理由

 公的年金運用、あるいは企業年金運用では、基本とする資産配分を計画しています。投資初期段階ではその配分比率のとおりリスク資産を保有するわけですが、現実の株価の変動などは時価評価した保有割合を常に変化させます。

 このとき、当初最適と考えていた配分比率と現実が乖離(かいり)した場合、これを計画上の保有比率に復する投資行動がリバランスで、年金運用では基本的なセオリーとなっています。

 例えば、株式保有比率を50%としていた場合に、株価の上昇により保有比率が60%超といった状態になったら、資産全体の10%相当にあたる株式を手放し、50:50の計画に戻すわけです。

 これはいくつかの意味で合理的な投資行動になります。

  • 本来、自身にとって最適と考えられるリスク資産保有割合を超過しているということはリスクを取り過ぎており、これを調整し適切なリスク資産保有割合とすることができる
  • 計画していた「割合」に注目することで、目の前の相場観に踊らされずに、部分的な売却行動が決断できる
  • 投資資金の価格上昇分を、部分的に利益確定したことになり、それと同時に本来の投資比率に応じたウエート(残してある投資分)は、引き続き投資を継続していくことができる

 個人投資家においては、眼下の株価水準にばかり注目して「売りか、買いか」と考えてしまうわけですが、自分自身の取り得るリスクを考え直してみるほうが結果として合理的な売却行動になるわけです。

 ここで重要となるのは「部分的に売る」というアプローチです。「全額売り!」ではない方法を個人投資家は学んで、組み入れていく必要があるわけです。

投資信託はもっと「部分的に売る」をしてみよう

 投資信託の「部分的に売る」は理屈としてはシンプルですが、実際にやってみると悩みます。投資信託の場合、保有口数と時価評価額を見ながら判断する必要があるからです。

 楽天証券の売却注文画面(投資信託)では、「一部売却」を選択して、売却する「金額」もしくは「口数」を入力します。

 このとき「今回は投資信託の12%相当を売ろう。そのために保有口数と0.12を掛けて口数を正確に計算しなくては」とあまり厳密に考えなくても大丈夫です。

 注文後に価格の変動もありますから、「保有口数が10万口くらいあるようだから、ざっと1万2,000口の売却を注文しよう」くらいでOKなのです。

 これからも資産運用を継続する意思があるのなら、全額を売ると話はややこしくなります。改めてどこかの時点で購入をしなければなりませんが、売却後も値上がりしたら買いにくく(売らなければ良かった!)、売却後に値下がりしても買いにくくなる(もう少し値下がり余地を見極めよう…)、どちらも買い直しがしにくくなります。それが心情というものです。

 一方で、株価上昇時に投資信託を保有し続けるのも「ここでピークアウトしたらどうしよう?」と私たちを悩ませることになります。

 株価が大幅に上昇しているときほど、「部分的に売る」をやってみてください。

楽天証券 投資信託売却注文操作ガイド

個別株での投資はなかなか部分的には売りにくい

 投資信託の説明から入りましたが、個別株ではなかなかこの「部分的に売る」がしにくい仕組みとなっています。

 個別株投資でも、できれば複数銘柄への分散投資を意識したいところですが、個別株は単位株と株価を掛けると1銘柄の取得に費用がかさみがちで、仕組み上「部分的に売る」が実行しにくいのが難点です。

 あなたに資金余力があって最初に1,000株ずつ購入できれば、値上がり時に100株ずつ売っていくというような方法が採れます。しかし、この場合1,000株を保有するための資金が必要になり、またその株があなたのポートフォリオに占めるウエートが高まりすぎるという問題もあり、実行は難しくなります。

 部分的に売る、の戦略に向いているのは投資信託やETF(上場投資信託)ということになります。リスクを機動的に終始しやすいのも、投資信託を中心とした資産運用を行うメリットといえます。

積立投資は粛々と続けていこう

 ところで、毎月購入する積立投資の資金について、株価急上昇時はどうするべきでしょうか。

 一番よくないのは「株価が上がり始めたので、しばらく積立投資は中断し、相場が下がったら再開しよう」というものです。たぶん、ズルズルと中断したままになり、投資再開もしないのがオチでしょう。

 あるいは、中断後もするすると株価の上昇が続いた場合、「中断しなければよかった……」となります。これもまた投資再開ができなくなります。

 積立投資信託の便利なところは、購入口数を自動調整することで株価上昇時も下落時も同額を投資し続け、投資行動を自動化できるところにあります。この特長を生かすのであれば、基本的には粛々と積立投資は継続していきましょう。

 投資において株価の上下動に一喜一憂をし、また投資行動を中断してしまうことはしばしば起こりえますが、中断が効果的になるかどうかは分かりません。人間が必ずしも合理的でないなら(さらに、私たち個人が高度な投資判断を下し得ないと現実的に判断すれば)、定期的な積立投資を継続することが有効な投資戦略となります。

 すでに保有している分については「部分的に売る」、毎月積立投資をしている部分については「継続する」ことが投資信託での運用の基本だと思います。中長期的な将来を見据えつつ、相場上昇と向き合ってみてください。