注目すべき李強首相の「経済観」

 李強首相は、政府の政策がどうあるべきか、企業にどう向き合うべきかについて、次のように語ります。

「とにかく問題解決に焦点を当てるべきだ。企業が反映する突出した問題に焦点を当て、企業が実際に有する需要から出発するのだ。市場参加の拡大、公平な競争の促進、知的財産の保護、統一的な巨大市場の建設といった面で、段階を踏みながらも、焦点を明確化した、実質的な価値が高い政策措置を加速的に打ち出していこう」

「ビジネス環境を巡る重点分野の改革を深化させることで、政策の有効性を確実に向上させるのだ。政府として民間に奉仕するのだというサービス精神を強化し、政策の実効性を高めると同時に、政策を実行する上での障害物も取り除こう。政策を地に足のついたものにし、企業が確かな納得感、獲得感を味わえるようにしていこう」

 私が特に着目したのが「段階を踏みながらも~打ち出していこう」というフレーズです。浙江省という民間の商人が活気づき、自由に、伸び伸びと活動してきたことで経済が栄えた地域で長年働いてきた為政者・李強首相の「経済観」がにじみ出ていると解釈しました。

「段階を踏みながらも」という言葉には、市場動向、消費者・投資家心理というのは一筋縄では行かない、一気には動かせないという謙虚さと慎重さが、「焦点を明確化した、実質的な価値が高い」は、市場の論理やそこで動くプレイヤーのことを把握せず、独りよがりな政策を打ち出すようなことがあっては意味がないという経験値と政策観を表していると思います。

 政府は企業に奉仕する身として、サービス精神を持ち、政策もただ発表、実行して終わりではなく、企業が政策から果実を得られていると思えるようにしっかりフォローアップしていこうという主張は、多くの市場関係者を勇気づける言葉だと理解しました。

 私が本稿を通じて伝えたかったことをまとめると三つあります。

  1. 中国政府は景気が回復していない現状を懸念し、確かな手を打とうとしている
  2. 中国政府は「ビジネス環境の最適化」を一つの起爆剤に景気回復を狙っている
  3. 李強首相の「経済観」は地に足の着いたもので、市場関係者を勇気づけるものである

 これらの3点はいずれも、中国経済、市場動向にとって追い風となるものです。問題は、それらが実際の景気回復につながり、国内外の市場関係者の中国経済への自信と期待値を回復させることができるかどうかに他なりません。動向を注意深く追っていきたいと思います。