「G7広島首脳コミュニケ」は中国を名指しでけん制、「遠慮」もちらつかす
さて、そんな中国はサミットをどう受け止めたのでしょうか。中国はG7のメンバーではなく、今回のサミットに招かれてもいません。インド、ブラジルといったBRICs諸国が招かれた事実を考えると、心中穏やかではなかったでしょう。中国は、「G7ではなく、G20こそが国際社会をより広範に代表できる」と主張していますから、G7に招かれたいという立場ではないでしょう。ただ、中国が「米国の覇権に対抗する」という観点から巻き込みたいと考える新興国が、G7の場に集まったという事実に、懸念を示しているのが実際のところだと思います。
私が見る限り、中国は「日本が主催する今回のG7サミットは、史上最も中国に対して厳しいスタンスを取るだろう」(中国政府関係者)との警戒感をあらわにしていました。日本はG7唯一のアジアの国ですし、この地域で開催されるサミットであれば、アジアにおける安全保障や地政学的課題を巡る提起や議論が増えるのは自然な帰結です。中国は、G7が自らの世界観、価値観に立脚し、自由、民主主義、法の支配といった観点から、自由で開かれたインド太平洋地域という文脈で中国の意図や動向を批判してくる局面を嫌がったのです。
実際に、「G7広島首脳コミュニケ」では、中国が名指しでけん制・批判されています。少し長くなりますが、いずれも重要なので、主な個所を以下に引用します(途中省略箇所あり)。
・中国に率直に関与し、我々の懸念を中国に直接表明することの重要性を認識しつつ、中国と建設的かつ安定的な関係を構築する用意がある…グローバルな課題及び共通の関心分野において、国際社会における中国の役割と経済規模に鑑み、中国と協力する必要がある。
・我々の政策方針は、中国を害することを目的としておらず、中国の経済的進歩及び発展を妨げようともしていない。成長する中国が、国際的なルールに従って振る舞うことは、世界の関心事項である。我々は、デカップリング又は内向き志向にはならない。同時に、経済的強靱性にはデリスキング及び多様化が必要であることを認識する。自国の経済の活力に投資するため、個別に又は共同で措置をとる。重要なサプライチェーンにおける過度な依存を低減する。
・中国との持続可能な経済関係を可能にし、国際貿易体制を強化するため、我々の労働者及び企業のための公平な競争条件を求める。世界経済を歪める中国の非市場的政策及び慣行がもたらす課題に対処することを追求する。不当な技術移転やデータ開示などの悪意のある慣行に対抗する。経済的威圧に対する強靱性を促進する。また、国家安全保障を脅かすために使用され得る先端技術を、貿易及び投資を不当に制限することなく保護する必要性を認識する。
・引き続き、東シナ海及び南シナ海における状況について深刻に懸念している。力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する。
・国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する。台湾に関するG7メンバーの基本的な立場(表明された「一つの中国政策」を含む)に変更はない。両岸問題の平和的解決を促す。
・強制労働が我々にとって大きな懸念事項となっているチベットや新疆ウイグルにおけるものを含め、中国の人権状況について懸念を表明し続ける。中国に対し、香港における権利、自由及び高度な自治権を規定する英中共同声明及び基本法の下での自らのコミットメントを果たすよう求める。
・中国に対し、ロシアが軍事的侵略を停止し、即時に、完全に、かつ無条件に軍隊をウクライナから撤退させるよう圧力をかけることを求める。中国に対し、ウクライナとの直接対話を通じることも含め、領土一体性及び国連憲章の原則及び目的に基づく包括的、公正かつ永続的な平和を支持するよう促す。
他国の国家安全保障に危害を加える中国の経済的威圧、拡張的な海洋政策、台湾問題、新疆ウイグルや香港における人権問題、ウクライナ戦争におけるロシア支援など、西側を中心に国際社会が抱いている中国の行動に対する懸念事項が網羅されています。中国は当然嫌がるでしょう、「G7は中国を議論する場ではないはずだ」と。
一方、私がこのコミュニケを読んで思ったのは、G7の総意として、相当程度中国に遠慮しているという現実が浮き彫りになったことです。中国に対して言うことは言う、というのは当たり前で、それ自体を冒頭で明記した意味は大きいですが、「デカップリング又は内向き志向にはならない」、「協力する用意がある」といった表記には、諸国間で温度差はあるものの、地域共同体として「デリスキング」を主張するEUの意向が強く反映され、議長国である日本もそれを尊重したということでしょう。
G7サミット終了後、中国政府は外交部報道官の名義で、「G7は口では平和、安定、繁栄した世界と高らかに言っているが、実際は世界の平和を阻害し、地域の安定を損害するもので、国際的に信用のかけらもない。恣意的に中国を議題に上げ、中国に泥を塗り、攻撃し、中国の内政に荒々しく干渉するものだ」として、議長国である日本に「厳正なる申し入れ」を行っています。中国外交部の次官が日本の駐中大使を呼び出して抗議もしています。
G7メンバーと中国との関係は、経済的往来、ビジネス協力を維持しつつも、国家安全、価値観、地政学、先端技術、人権といった分野では緊張関係が続くことでしょう。