先週の日本株は、米国株が軟調で推移する中、力強く上昇。

 この好調は、日本銀行の新総裁に植田和男氏が4月に就任して以降、続いています。

 東京株式市場の日経平均株価(225種)は12日(金)に前週末比0.8%高の2万9,388円の終値をつけ、年初来高値を更新。約1年半ぶりの高値水準を回復しました。

 大手商社5社に投資する米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が6日(土)にCEOを務める投資会社バークシャー・ハサウェイの株主総会で「台湾より日本への投資に前向きだ」と語ったことも追い風になったようです。

 また、先週は2023年3月期決算がピークを迎え、バフェット氏が投資する大手商社など、増配や自社株買いを打ち出す企業の株が好んで買われる「株主還元相場」のような状況になりました。

 一方、米国株は機関投資家が運用の指針にするS&P500種指数が前週比0.29%安と2週連続のマイナスで終わるなど、膠着(こうちゃく)感の強い相場展開に。

 株価の足を引っ張っているのは3月から続く地方銀行の信用不安です。

 米カリフォルニア州地盤のパックウェスト・バンコープ(PACW)身売り話で株価が大きく下落していましたが、同行は11日(木)に5月第1週に身売り話の影響で預金量が9.5%減少したと発表し、株価が前週比21%安とさらに下落しました。

 米国政府の債務が31兆4,000億ドル(約4,260兆円)の法定上限に達し、6月初旬にも米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る危機が迫っていることも、米国株の重しになりました。

 新潟市で開かれ、13日(土)に閉幕したG7(日米欧の主要7カ国)財務大臣・中央銀行総裁会議では、日銀の植田総裁が「年率2%の物価目標を達成するまで金融緩和を維持する」と力強く発言。

 今週の日本株も好決算が株価を押し上げ、週明け15日(月)の日経平均株価の終値は前週末比238円高の2万9,626円となりました。年初来高値を更新し、2021年11月22日以来、約1年半ぶりの高値となりました。ただ、この先、急上昇してきただけに反動もありそうです。

先週:バフェット&日銀効果で絶好調の日本株、停滞続く米国株!雰囲気の差、歴然! 

 長いゴールデン・ウイークの連休が明けた8日(月)の日経平均は、連休前の5月2日(火)終値から208円(0.7%)下落しました。

 しかし、連休中に、米国地銀のパックウェスト・バンコープやウエスタン・アライアンス・バンコーポレーション(WAL)の身売り報道が流れて、一時、米国株が急落したことを考えると、日経平均の下落幅は小幅にとどまり、連休明けまずまずの出だしといえました。

 9日(火)の日経平均は前日比292円高となり、年初来高値を更新しました。

 バフェット効果もあって、海外投資家は4月に日本株を現物と先物を合わせて3兆305億円も買い越し。

 5月第1週(1日、2日)も5週連続の買い越しとなっており、海外勢の買いが日本株絶好調の原動力になっています。

 11日(木)には日銀が、4月27、28日開催の金融政策決定会合で交わされた「主な意見」を公表。

「拙速な金融緩和の修正はリスクのほうがずっと大きい」といった意見が掲載されていたこともあり、植田日銀が金融緩和に積極的なハト派だったことを再確認できたことも、安心感につながったようです。

 さらに、先週は2023年3月期決算発表がピークを迎え、今期2024年3月期の大幅増益予想や増配を発表した企業が相次いだことも追い風になりました。

 伊藤忠商事(8001)は9日に2024年3月期の年間配当を前期比20円増の160円にする計画を発表しました。12日の取引時間中には上場来高値を更新、終値は前週末比4.2%高でした。

 丸井グループ(8252)は9日に自社株式を除く発行済み株式総数の11%超に達する自社株買いと2024年3月期の大幅増配(前期比42円増の101円予定)を発表し、12日終値は前週末比13.1%も急騰しました。

 投資家も目を見張ったのが道路舗装工事会社の世紀東急(1898)です。

 2024年3月期の年間配当金を60円増の90円に引き上げ、今期の配当性向(純利益の中から株主に配当金として支払う比率)を100.9%にすると発表したことで、12日終値は前週末比34.1%も上昇しました。

 大胆といえるほど積極的な株主還元策が株価急騰につながる展開は今後も続きそうです。

 特に東京証券取引所から経営改善要請の出ているPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業が多い建設会社、倉庫会社などに期待したいところです。

 一方、米国では10日(水)発表の4月CPI(消費者物価指数)が前年同月比4.9%上昇にとどまり、伸び率が鈍化。

 11日(木)発表の4月PPI(卸売物価指数)も、市場予想を下回る前年同月比2.3%の伸びにとどまり、2021年初旬以来の低水準になりました。

 しかし同日、地銀パックウェスト・バンコープの預金量減少や、今回の地銀危機で米国の預金保険制度を運営するFDIC(連邦預金保険公社)が大手銀行などに追加の負担金を要求していることが報じられ、米国株は総じて下落しました。

 12日(金)には、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のボウマン理事が「インフレ率が高止まりして、労働市場がタイトなままなら、追加的な利上げが必要」と発言。

 5月のミシガン大学消費者信頼感指数の速報値が予想を大幅に下回ったことで景気の先行きに対する不安感が台頭し、12日の米国株は下落して終わりました。

 冒頭に述べた米国政府の債務上限問題についても、12日に予定されていたバイデン大統領と議会指導者の会談が今週に延期になるなど、進展は見られませんでした。

今週:米債務上限問題が地銀危機に飛び火?日本株は材料出尽くしも? 

 今週の日本株は、先週金曜日に1,000社を超える2023年3月期の決算発表があり、15日(月)でほぼ終了することもあって、材料出尽くしや急ピッチな上昇による利益確定の売りも見込まれます。

 米国ではインフレと不景気が同時進行するスタグフレーション懸念も出ている景気動向に関する指標の発表が相次ぎます。

 15日(月)には、5月のニューヨーク連銀製造業景気指数が発表。

 16日(火)には、米国のGDP(国内総生産)の7割を占める個人消費の動向がわかる4月小売売上高も発表。

 前回3月分は、前月比1%の減少と予想を大幅に下回る落ち込みとなり、米国景気の先行きに懸念が広がりました。

 今回の4月小売売上高は前月比0.8%の増加が予想されています。

 18日(木)には前回、落ち込みの激しかったフィラデルフィア連邦準備銀行の5月製造業景気指数も発表になります。

 今週は日本の経済指標にも注目が集まるでしょう。

 17日(水)には2023年1-3月期の実質GDPが発表。

 新型コロナウイルス禍からの経済再開やインバウンド需要など内需が活況な日本ですが、予想値は前期比年率換算で0.8%の伸びとなっています。

 ただ3月には、前回2022年10-12月期の実質GDPの改定値が、0.1%増に下方修正され、物価高が個人消費に悪影響を及ぼしていることが明らかになりました。

 19日(金)には、4月のCPIも発表。

 帝国データバンクの調査によると、4月単月で値上げ対象となった食品は加工品を中心に5,100品目超があったということです。こうしたことから、生鮮食品を除くコアCPIは前年同月比3.4%の上昇と、3月の同3.1%上昇から加速しそうです。

 あまりに伸びが高いと、日銀の金融緩和継続に対する批判が出る可能性もあります。

 5月に入ってから、米国株の頭を抑える格好になっているのが債務上限問題です。

 米国では、議会が米国政府の債務の上限を法律で決めることになっています。

 5月1日には、議会が法定上限を引き上げるか、もしくは上限適用の運用を停止しないと、6月1日にも米国政府が債務不履行に陥り、国債の利払いが払えないという見通しを、イエレン財務長官が議会上院・下院の議長に書簡で警告しています。

 この米国の債務上限問題はこれまで何度も債務不履行寸前までいったものの、最終的に米国の二大政党である民主党と共和党が妥協して事なきを得ています。

 しかし、来年2024年に控えた米大統領選挙を前に、バイデン政権を支える与党・民主党は学生ローン減免や再生可能エネルギー促進策など財政支出の拡大を主張。

 共和党はそうはさせまいと、政府支出の削減を強硬に主張しています。

 今週早々にもバイデン大統領と共和党が過半数を占める議会下院議長のマッカーシー氏の会談が開かれる予定ですが、ぎりぎりまで妥協が成立しない可能性が濃厚です。

 2011年8月のオバマ民主党政権時代には、債務が限度額に達したものの、話し合いが紛糾。

 最終的に債務上限額の引き上げ法案が成立しましたが、格付け会社のスタンダードアンドプアーズ社が2011年8月5日、米国債の格付けを「トリプルA」から「ダブルAプラス」に史上初めて一段階引き下げました。

 この格下げを受けて、米国株は大幅下落。S&P500の2011年8月の月間下落率は5.7%に達しました。

 しかも、今回は、米国地銀が3月以降相次いで破たんするなど金融不安が広がっています。

 おそらく、今週中にはまだ解決しないでしょうが、米国の国債市場やそれを取り巻く金融機関に思わぬ副作用が飛び出し、株式市場を混乱させる可能性には注意が必要でしょう。