日本株は低PBR株の宝庫

 今の日本株には、解散価値といわれるPBR(株価純資産倍率)1倍を割れた銘柄がたくさんあります。最上位の東証プライム上場企業でも、半数以上がPBR1倍を割れています。

 中には業績や財務に特に問題がないのに、PBR0.5倍に売り込まれている銘柄もあります。そのような銘柄にじっくり長期投資して、価値が見直されるのを待つ戦略も良いと思います。

 ただし、欧米では、そのように売り込まれた銘柄には倒産リスクもあるので注意が必要です。財務毀損(きそん)が疑われる銘柄がPBR1倍を大きく割れている場合は、手出し無用です。

 日本株の特色は、業績や財務が良好でも、はやりの成長テーマに乗らないオールド企業と見なされているだけでPBR1倍を大幅に割り込むこともあることです。業績・財務が良好な、ディープ・バリュー株(激安株)を見つけられるという点で、日本の株式市場は特異です。

 私が継続的に推奨している三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は、その一例に過ぎません。同社株は5月8日時点で、PBR0.6倍です。財務にも収益力にも問題ないので、引き続き投資価値は高いと判断しています。

 もし、日本のように財務や業績に問題のないディープ・バリュー株が多数あれば、欧米では次々と敵対的買収がかかります。

 ところが、日本社会では、敵対的買収に対する社会的非難が大きくなることが多いので、外国人投資家も日本株には簡単に敵対的買収を仕掛けません。ディープ・バリュー株があっても敵対的TOB(株式公開買い付け)はかからず、万年割安株としていつまでも株価低迷が続くことが多くなっています。

 割安な株を買っても、株価が上昇しないことを「バリュー・トラップ(割安の罠)」と言います。バリュー・トラップにかかることを警戒して一般の投資家もPBR1倍を大きく割れた株を買うのをためらうことが多くなっています。

ハゲタカファンドが2006年以降、日本から撤退した理由

 日本でも割安株に敵対的TOBをしかけるブームが起こったことはあります。2005年がそうでした。外資系のハゲタカファンドや、村上ファンドが大暴れしました。

 巨額の含み益やキャッシュを保有するにもかかわらず利益水準が低く、PBRが1倍を大きく割れ、株価が安くなっている企業がターゲットとなりました。一定量の株を買い集めた上で、企業に「含み益のある資産を売却して配当金を大幅に増やすこと」などを強く要求しました。

 ただし、短期的な利益を狙って株主権を乱用するハゲタカファンドには社会的批判が集まりました。敵対的買収への嫌悪感が広がり、2006~2007年には上場企業に買収防衛策の導入ブームが起こりました。そこで、ハゲタカファンドは去り、敵対的買収ブームは鎮静化しました。

 今、株主権を盾に取り企業に株主還元を強要するハゲタカファンドは少なくなりました。ハゲタカファンドが去ったことを受けて、買収防衛策を解除する企業が増えました。

 こうして企業と株主の対話は改善されました。一方、含み資産を持つだけの割安株には、長期投資家も短期投資家も、見向きもしなくなりました。巨額の含み資産を保有しながら、株価が割安な銘柄は、割安なまま放置されるようになりました。

 近年、株主還元改善を要求するファンドが再び増えつつありますが、かつてのように株を買い占めて暴れることはなくなりました。

低PBR株に再び脚光

 今、再び、日本の低PBR株に注目が集まっています。二つの理由があります。

【1】東証が低PBR株に株主価値改善を要請

 東京証券取引所が、PBR1倍割れなど株価低迷が長期化している企業に、改善策を開示・実行するように要請したことが波紋を広げています。

 財務に問題を抱えて、PBR1倍を割れている企業は、改善策の出しようがありません。財務を改善して株価を上昇させるのは簡単ではないからです。ところが、財務も収益も良好なのに、PBR1倍を割れている企業は、対策次第で株価を大きく上げることもできます。

 最近、東証の要請を受けて、PBR1倍割れ銘柄に、自社株買いの発表が増えています。株主還元に無頓着だった割安株が、自社株買いを始めるインパクトは大きく、短期で株価が大きく上昇した例が最近増えています。

【2】世界的にバリュー株物色が優勢

 2022年以降、世界の株式市場でグロース(成長)株が下落する中、バリュー(割安)株が上昇する流れが顕著になっています。その流れの延長線上で、日本の低PBR株にも注目が集まりやすくなっています。