米利上げ停止や米景気巡る、米政府やFRBの見解分かれる

 先週は、物価動向を示す米国の3月CPI(消費者物価指数、12日公表)と3月PPI(卸売物価指数、13日公表)の前年同月と比べた上昇率が前月よりいずれも大きく鈍化し、市場予想を下回りました(CPIは5.0%上昇、PPIは2.7%上昇)。

 その結果、外国為替市場のドル相場は12日(水)、13日(木)両日でドル安円高が進み、1ドル=133円台後半から132円割れ寸前までいきました。

 14日(金)には、米国の3月小売売上高が発表されました。前月比1.0%減と2カ月連続のマイナスとなり、為替はこの発表直後にドル安円高に傾きました。ただ、GDP(国内総生産)算出に組み込まれるコア小売売上高(除く自動車、ガソリン、建築資材、外食)は0.3%減となり、市場予想ほど悪化しなかったことから、ドル売りは長続きせず、ドル高円安に動きました。

 この日はさらに、ミシガン大学が4月の消費者信頼感指数と合わせて1年先の予想インフレ率を発表しました。それによると、1年後にインフレ率が4.6%に達するとして、3月時点(3.6%)から上昇しました。このことからドルは買われ、ドルは133円台後半まで急伸しました。

 この14日のニューヨーク外国為替市場の数時間の取引で、CPI、PPIの公表による2日間のドルの下落幅を埋めたのは驚きでした。CPIの伸びが鈍化するとの予想を事前にかなり織り込み、円買いポジションや債券買い(金利低下狙い)ポジションが積み上がっていたということかもしれません。

 そのポジションの巻き戻しによって円売りや債券売り(金利上昇)が短時間で起こった可能性もあります。

 今週に入ってもドル堅調地合いが続きました。17日発表の米4月ニューヨーク連邦銀行製造業景気指数がプラス10.8と予想を大幅に上回り、昨年11月以来5カ月ぶりのプラスになりました。

 3月のマイナス24.6から大幅な改善でした。米景気減速懸念が後退したことで、ドル買いがさらに進み、1ドル=134円台に上昇しました。

 この1週間に発表された経済指標によって、市場での利上げ停止時期や米景気への見方が変わりましたが、金融当局や政府の見方はまだ分かれているようです。

 米国の中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度理事会)が12日、金融政策を決めるFOMC(米連邦公開市場委員会)の3月会合の議事要旨を公表しました。

 この3月会合では全会一致で0.25%の利上げを決定しました。しかし、議事要旨によると、米地方銀行の相次ぐ破綻などで金融システム不安が高まったのを踏まえ、利上げ見送りも検討されていたことが明らかになりました。

 また、FRBの事務方の経済予測では、米地銀の破綻を発端とした金融不安が経済の下押し圧力になるとして、2023年後半から緩やかな景気後退になると想定していることが判明しました。

 このFRBの景気後退予測について、ホワイトハウスは即座に否定しました。ジャンピエール大統領報道官は13日の記者会見で、失業率は歴史的な低水準で、所得や消費は強いと説明しました。また、「景気後退にも、その手前の状態にも向かっていない」と強調しました。

 FRB事務方とホワイトハウスの間だけでなく、FRBの高官たちの見解も分かれています。

 18日(火)、セントルイス連銀のブラード総裁は現時点では今年後半の景気後退を予想する時期ではないと述べました。今回の金融引き締めが終盤に差し掛かっているとの認識を示しつつも、政策金利を5.5~5.75%に引き上げるべきだとの考えを明らかにしました。0.25%刻みであと2回か3回の利上げが必要だと主張しています。ただ、ブラード氏は今年のFOMCでは投票権はありません。

 一方、アトランタ連銀のボスティック総裁は、「あと1回の利上げで十分だ」と述べています。また、その後、FRBは政策金利をかなりの期間据え置くと予想しています。

 先行きの政策金利の織り込み度を示すFedウオッチはどのような予想になっているでしょうか。Fedウオッチによると、FOMCの5月会合での利上げ確率は高まり、6月も利上げ確率が浮上してきています。

 しかし、利下げ開始時期は年央から秋口以降に後ずれしていますが、年末に向けて利下げする見方はあまり変わっていない状況となっています。この1週間で起こった短期的なマーケットの金利やドルの値動きとは異なる見方となっています。

 今年いっぱいの時間軸でみれば、いずれ金利は下がり、ドルは再び下落してくるという見方は変わっていないということになります。

米金融政策予測に重要な「ベージュブック」に注目!

 今週は19日(水)(日本時間20日未明)に発表される米国の「地区連銀経済報告」に注目です。「地区連銀経済報告」とは、米国の12地区連銀が管轄地域の経済状況を分析した報告書のことです。FOMC開催の2週間前の水曜日に公表され、金融政策を予測するための重要な資料となります。報告書の表紙がベージュ色をしていることから、「ベージュブック」と呼ばれています。

 イエレン財務長官は16日(日)に放映されたCNNテレビのインタビューで、以下のように述べています。「最近の銀行の破綻を受けて、銀行はより慎重になる可能性が高く、融資をさらに引き締める可能性がある。FRBのさらなる利上げの必要性を否定する可能性がある」。

 金融不安への警戒心が後退した市場では現時点でこの発言への反応は限定的です。

 しかし、銀行が自らの経営安定を優先し、融資先への貸し出しを厳格にしていけば、貸し渋りにつながり、その影響は時間をかけて景気に及ぶことが予想されます。前FRB議長でもあるイエレン財務長官の発言だけに重みがあります。

 今回のベージュブックはシリコンバレー銀行破綻以降の各地区の景況報告となります。金融不安の影響によって各地でどの程度景況感にばらつきがあるのか注目したいと思います。

ドル相場135円上回るかどうか、日米の金融政策が焦点

 ドル相場は1ドル=134円を超えましたが、心理的節目である135円を上回りさらなるドル高円安に行くのかどうか注目です。FRB高官から金融引き締めに積極的なタカ派発言が出ていますが、利上げは0.25%刻みであと1回か、多くても2回か3回にとどまる話です。

 3回の合計でも0.75%です。昨年、FOMCが開かれるたびに0.75%という大幅な利上げが続いた局面とは全く異なることから、ドルの上値はかなり限定的と思われます。

 また、日本では来週27~28日に、日本銀行の植田和男総裁が就任して初めてとなる金融政策決定会合が開催されます。初会見では大規模緩和継続とYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)の継続は適当と述べたことが円安を誘引しました。

 しかし、初会合を前に市場の修正への思惑が再び高まることも予想されるため注意が必要です。政策修正に言及がなくても政策検討を示唆した場合には円高に反応することが予想されます。

 しかし、金融決定会合で10日の就任会見と同じ姿勢を貫いた場合には、当面修正はないと市場の期待は後退し、135円以上の円安に動く可能性があります。同じ材料で円安圧力が続くのかどうか注目したいと思います。

 初会合の前には21日(金)に日本の3月CPIが発表されます。価格変動が激しい生鮮食品を除いた総合指数について、市場は前年同月比3.1%の上昇を見込んでいます。これは2月CPIと同じ水準です。ちなみに既に発表された、全国の先行指標となる東京都区部3月CPIは3.2%上昇で、上昇率は2月(3.3%)から低下しています。