今日は、IMF(国際通貨基金)の報告書から読み取れる、世界経済のリスクシナリオについて、解説します。「日本株は割安で長期投資で買い場」という私の投資判断は変わりませんが、短期的なショック安はまだ続く可能性があると思われます。なお、IMFは日本の成長率見通しを引き下げましたが、それでも日本株の投資価値が高いと私が考える理由も解説します。

金融不安はまだ終わっていない

 IMFは4月11日、「国際金融安定性報告書」を公表しました。3月に米シリコンバレー銀行・シグネチャー銀行が破綻、欧州でクレディ・スイスがUBSによる救済合併に追い込まれてから、欧米に金融不安が広がりました。報告書では、この一連の出来事が今後の銀行経営や経済に与える影響が分析されています。

 株式市場では3月以降、金融不安で世界的に銀行株が売り込まれましたが、売りは足元一巡して落ち着きを取り戻しつつあります。シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行、クレディ・スイスの財務悪化は特殊事例で、欧米の金融機関全般に危機が広がることはないと見られています。

 IMFの報告書は、そうした楽観論にくぎを刺しました。IMFは、リーマンショック後の超低金利下で、市場参加者が流動性・デュレーション・信用リスクを過剰に取っていたことが、今回の危機を招いたと分析しています。

 言い方を変えると、低金利下で、リターンを高めるために、ジャンク債や長期固定利付債への投資を過剰に行っていたということです。急激な金利上昇によって、その脆弱(ぜいじゃく)性が一気に表面化したもので、この問題はまだ解決していないと分析しています。

 リーマンショック前と比べると、世界の大手金融機関の財務は、規制強化によって強靭(きょうじん)化されてきています。それでも金利上昇があまりに急激だったために、米国の地方銀行で財務に大きな影響を受けている金融機関があります。報告書では、以下三つの懸念が挙げられています。

【1】米地銀の財務悪化

 IMFの報告書では、資産規模3,000億ドル以下の米国の地方銀行について「保有する債券の評価損を勘案して中核的自己資本を計算すると、約9%の銀行が、規制で定められた自己資本比率を下回る結果となった」としている。

【2】銀行の貸し出し能力低下

 IMFは、「今回の銀行不安によって欧米の銀行の1年先の貸し出し能力が1%低下し、それにより、米国のGDP(国内総生産)が0.44%、ユーロ圏のGDPが0.45%押し下げられる」と予測しています。

【3】米国の不動産価格下落の可能性

 リスクシナリオでは、米国の住宅価格・商業用不動産の価格がさらに下落して、デフォルトが増える可能性が指摘されています。

 私は、世界的な金融危機が起こる可能性は低いと判断しています。急激な金利上昇だけで破綻する銀行は、そんなに多くはないと考えています。

 ただし、ここから、米国の住宅や商業用不動産の価格が大きく下がると、話は変わってきます。過去の世界的な金融危機は、不動産価格の急落から起こっています。IMFは、その可能性がまだ残っていることを指摘しています。