米雇用統計と日銀植田総裁就任会見で思惑外れ、ドル高円安に

 先週7日(金)に発表された3月の米雇用統計の非農業部門雇用者数は前月比23.6万人増となり、ほぼ市場予想通りの増加でした。失業率は前月(3.6%)より改善して3.5%となりました。また、平均時給は前月比0.3%増と前月(0.2%増)より伸び率が上昇し、予想通りの内容の一方で、前年同月比では4.2%増と前月(4.6%増)から伸びが鈍化し、予想を下回りました。

 総じて強弱まちまちの内容だったことから特段のサプライズはありませんでした。

 しかし、先週先立って発表されたISM(米サプライマネジメント協会)景況指数や民間の雇用動向調査など一連の米経済指標が予想以上に弱い内容でした。雇用統計も同様に発表前には弱い内容になるのではないかと警戒されていましたが、予想に一致する水準だったため、為替相場はこれまでのドル売りの反動からドル買いで反応しました。

 また、強弱まちまちだった米雇用統計ですが、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が景気後退を恐れて利上げを諦めるほど弱い内容ではありませんでした。逆にFRBが5月に開くFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げをするとの観測が強まり、ドル買い要因となりました。

 以前ご紹介した、先行きの政策金利の織り込み度を示すFedウオッチによると、5月のFOMCでの利上げ予想が雇用統計発表前よりも高まりました。ドル相場は、雇用統計発表前は1ドル=131円台半ばでしたが、発表後はドル高円安が進み、132円台前半で先週の取引を終えました。

 そして、週明け10日(月)には、日本銀行総裁に就任した植田和男氏の初会見があり、ドル高円安がもう一段進みました。植田総裁は現在の大規模金融緩和に関して、2%の物価上昇実現のために「続けていくのが適当だ」と述べ、2月の国会での所信聴取に続き継続方針を改めて表明しました。

 また、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)を修正するのか尋ねた質問に対し、植田氏は「経済、物価、金融がどうかで決めていく。市場機能に配慮しつつ、現状では経済にとって継続することが適当だ」と強調しました。

 またマイナス金利については、「現在の強力な金融緩和のベースになっている。基調的なインフレ率がまだ2%に達していないという判断の下では継続が適当だ」と述べました。

 植田氏は、黒田東彦前総裁の大規模緩和政策を継続する姿勢で臨み、慎重な言い回しに終始しました。しかし、4月27、28日の金融政策決定会合で政策修正に踏み切る可能性を示唆するのではないかと期待していた市場の思惑は外れ、1ドル=133円台後半まで円安が進みました。

米利上げ5月打ち止め予想で、ドル高長続きしない可能性も

 米国で雇用統計公表を受けて5月に利上げがあるとの見方が強まったところに、日銀の植田総裁の就任会見で大規模緩和継続が表明されたことから、円安の勢いが一気に燃え広がった感じがします。

 1ドル=133円台後半まで進んだ円安の動きには、欧米のイースター(復活祭)休暇で商いが薄かったこともあるかもしれませんが、少し驚きました。しかし、この円安に持続性があるかどうかは点検する必要があると考えています。

 Fedウオッチによると、5月のFOMCで利上げがあるとの予想が雇用統計発表後に強まりました。一方、12月のFOMC時点での政策金利の予想は4.25~4.50%の水準に下がるとの見方が依然として目立ち、年内の利下げ確率が高い状況であることに変わりありません。

 FRBが3月のFOMCで示した12月末の金利見通しは5.00~5.25%だったため、市場予想より0.75%高く、ギャップがある状況は同じままです。マーケットでは米国の景気後退懸念がくすぶっており、年後半には利下げに転じるとの見方は根強いようです。

 現在のドル高円安は、米雇用統計公表を受けて、5月の利上げの可能性が高まったことから起こりました。その先については、FRBは利上げ継続よりも利上げ打ち止めをし、そして利下げに踏み込むとの見方が市場で広がっています。日米金利差の縮小が見込まれるため、今以上のドル高を後押しする力は乏しいようです。先行きは経済データ次第ということになりそうです。

 今週12日(水)発表の米国3月CPI(消費者物価指数)、14日(金)発表の米3月小売売上高に注目です。3月のCPIは、前年同月比で5.1%上昇の予想となっています。2月は6.0%上昇だったので、一層鈍化する予想となっています。3月小売売上高は前月比0.4%減の予想となっています。2月(0.4%減)に続き、2カ月連続のマイナスになるのかどうか見定めたいです。

 指標が予想通りであれば、インフレの鈍化傾向が続き、インフレは抑制気味になってくると市場は期待します。そして、消費が落ちてくるのであれば、早期に利上げ打ち止めから利下げに至る見方はより強まってくることが予想されます。

 また、12日に公開される3月のFOMCの議事要旨にも注意したいです。米地銀シリコンバレー銀行の破綻などを踏まえ、金融界の貸し出し厳格化の動きや規制強化などに関し、どのような議論があったのかしっかり押さえたいです。FRBのパウエル議長が銀行の貸し出し厳格化には金融引き締め効果があると言及していましたが、そうした規制強化が加わると、景気の足かせになる可能性があります。

 日銀の政策修正への市場の思惑は、植田新総裁の初会見によっていったん後退していますが消えたわけではありません。植田総裁も会見で、「適切なタイミングで正常化にいかなくてはいけないし、それが難しいなら副作用に配慮しつつより持続的な枠組みを探っていく。長い目で点検や検証があってもいいと思う」とも語り、将来の政策修正に含みを持たせました。

 市場は4~6月にイールドカーブ・コントロールを見直すのではないかと期待していました。10日の会見で27~28日の金融政策決定会合での修正は遠のいた印象です。しかし、その次の6月15~16日の決定会合での修正期待は続いているようです。

 為替は、この1カ月、1ドル=132円を挟んで、おおむね上下2円のレンジで推移しており、方向感がない動きとなっています。4月27~28日の日銀の決定会合前から再びマーケットがざわつき始め、日銀会合後、5月2~3日に米国ではFOMCで利上げ継続か利上げ打ち止めのどちらなのか示唆されると、ドル/円の方向が出てくるかもしれません。