<マザーズ指数(左軸)とマザーズ売買代金(右軸)>

3月の中小型株ハイライト

SVBショックでモードチェンジ、グロース株に見直し再び

 2月に加速した低PBR(株価純資産倍率)株ブーム。3月もその流れは継続し、9日にTOPIX(東証株価指数)が昨年来高値を付ける過程でもバリュー株優位の展開でした。プライム市場で昨年来高値を付ける銘柄が続出するなどすこぶる順調だったのですが…この日をピークに一転、地合いが強烈に悪化。

 その理由は、米地方銀行のシリコンバレーバンク(以下SVB)の経営破綻でした。取り付け騒ぎのドミノ連鎖などを警戒し、米銀行株が一斉安に。さらには、欧州でも経営不安のあったクレディ・スイスの株価暴落などで金融不安は広がり、日本の銀行株も容赦ない連鎖安に見舞われます。

 低PBR株しかない日本の銀行株の急落で、バリュー株のパフォーマンスが劣化。金融不安がFRB(米連邦準備制度理事会)の金融引き締め姿勢に変化をもたらすのではないか?といったセンチメントの変化にもつながったほか、リスクオフに伴う債券買いで米金利の低下も進みます。

 結果、これまで買われていたバリュー株(銀行株含む)を手放し、これまで空売りしていたグロース株を買い戻す…いわゆるアンワインドが日米で進みました。3月の月間騰落率は、TOPIXバリュー指数の▲1.7%に対し、TOPIXグロース指数は+2.8%。東証マザーズ指数も+0.1%と何とかプラスで着地しています。

ANYCOLOR(5032)がどん底から大復活!

 昨年のIPO(新規上場株式)では、ビジネスモデルの新奇性(VTuber事務所として初の上場)や時価総額の大きさから非常に話題となったANYCOLOR(5032)。ただ、上場から半年経過したタイミングで、ロックアップ解除直後での大株主による株売却などが判明。

 株価は著しく下落し、3月15日時点では上場来安値3,930円を付けていました(上場来高値は2022年10月の1万3,790円)。高値から70%以上も値下がりした株価どん底状態で…同社は2023年4月期の通期予想の上方修正を発表しました。

 第3四半期(2022年5月~2023年1月)の純利益が前年同期比2.5倍の52億円となり、通期予想の53億円にほぼ到達。そのため、通期の純利益予想を63.8億円へ大幅増額しました。それと同時に、東証プライム市場への市場区分変更の申請も発表。底値圏での好材料コンボに、発表翌日から2日連続ストップ高買い気配という圧巻の反応を示しました。

 また、VTuber事務所「ホロライブプロダクション」のカバー(5253)が27日にグロース市場へ上場。競合会社のIPOが迫っていたことも刺激材料になったようです。株価は、安値形成日からわずか6営業日で最大80%強の爆上げを果たしました。

春の東証IPO祭り開催!

 3月22日から、例年以上に密集型のスケジュールが組まれていたIPOシーズンに突入。月末31日まで、8営業日の中でIPOが15銘柄(グロース11銘柄、スタンダード3銘柄、名証1銘柄)が登場しました。

 ラッシュの開幕でいえば、23日の東証グロース3社同時上場でしたが…長いIPO空白でうっぷんがたまっていたのか、出足からいきなりバブルちっくな展開に。

 3社中2社が初日に初値が付かず、初値を付けたハルメクホールディングス(7119)も初値形成後にストップ高まで急騰!「初値を買ったら超短期でかなりもうかる」…このイメージが先行し、その後のIPOの初値買いも前のめり感が全開に。月末31日上場のFusic(5256)にいたっては、初値が公開価格の約3.3倍に高騰しました。

東証グロース売買代金上位(3月31日)
⇒TOP10のうち5銘柄が3月IPO
  全520銘柄のうち、3月IPO10銘柄の売買代金が全体の31%

順位 コード 銘柄名 売買代金
(億円)
1 9227 マイクロ波化学 166
2 5254 Arent 139
3 9346 ココルポート 114
4 9345 ビズメイツ 109
5 5032 ANYCOLOR 100
6 7776 セルシード 67
7 5253 カバー 66
8 9343 アイビス 60
9 4575 CANBAS 57
10 7794 イーディーピー 46
12 9344 アクシスC 35
13 7119 ハルメクHD 34
27 5255 モンスターラボ 11
50 5027 AnyMind 6
109 5252 日本ナレッジ 2

 IPO銘柄の初値形成後のエントリーでうまくもうかった投資家は、成功体験により一時的な中毒に陥ります。また、慎重スタンスでエントリーを見送り、IPOでもうけ損なった投資家も「次こそは自分も!」と二匹目のドジョウを狙いにいきます。

 3月IPOの刹那的な盛り上がりで、短期資金の多くがIPOにシフト。その分、IPO以外(マザーズ指数構成銘柄)に向かう短期資金が減少します(表は3月31日におけるグロース市場の売買代金ランキングですが、トップ10のうち半分が3月IPO)。

 結果、「IPOがどれだけ盛り上がってもマザーズ指数には一切影響無し」の状況となり、グロース株に流れが来た3月後半の好地合いにあっても、マザーズ指数の上昇率は限定的というジレンマに陥りました。

4月の中小型! 今月のキーワードは…中小型版「クオリティ・グロース」

 SVBショックの傷跡も、多くの市場関係者が想像していたより早く癒えてしまった米株市場。S&P500種指数は3月末に3月高値を更新し、年初来高値をリトライするような勢いを見せています。その原動力となったのが、年初来高値を更新したNASDAQ100指数。米金利の上昇で昨年33%も値下がりした同指数ですが、今年に入って早くも20%も値上がりしています。

 インフレ懸念が薄らぐ中、利上げに対する過度な警戒が後退。現状のターミナルレートからすれば、次回5月FOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げ打ち止めが予想されるわけで…金利上昇に対するストレスが低下すると、こんなにグロース株にはお金が入るんだ!を見せつけている米株市場。

 ちなみに、NASDAQ100指数が年初来20%も上がっているのに、中小型株の多いラッセル2000指数は2%強しか上がっていません。3月に起きたシリコンバレーバンクなどの経営破綻により、銀行の貸出態度が厳しくなることが与えるマクロ景気や企業業績へのマイナス影響が気になります。

 金融引き締めの姿勢が変わることをハヤし、米金利が低下したことにグロース株が反応したわけですが、初動で露骨にお金が流れたのはグロースでも安心度の高い「大型株」でした。

プライム大型「クオリティ・グロース」はこんな銘柄!
【条件】2023年3月末に年初来高値を更新して終了
※グロース株の定義はPBR2倍以上とする、時価総額大きい順

コード 銘柄名 今期売上高
伸び率(予想)
今期営業利益
伸び率(予想)
営業利益率
(予想)
6861 キーエンス 14% 14% 55%
4568 第一三共 20% 78% 10%
4063 信越化 34% 47% 36%
4661 OLC 69% 1159% 21%
6981 村田製 -7% -30% 18%
6723 ルネサス 1% -6% 26%
2802 味の素 19% 7% 10%
6146 ディスコ 7% 13% 38%
6506 安川電 15% 32% 13%
3088 マツキヨココカラ 32% 45% 6%
9602 東 宝 5% 5% 18%
7936 アシックス 5% 9% 7%
4527 ロート 18% 12% 14%
8111 Gウイン 16% 23% 18%
6967 新電工 4% 5% 27%
8136 サンリオ 34% 409% 18%
4403 日 油 14% 10% 18%

 日本株市場でも似たような現象が見られています。SVBショックを乗り越え、3月最終日を年初来高値更新でフィニッシュした大型株は数多くありました。その大半がグロース株だったのですが、これを時価総額上位で並べたのが上表です。外国人の強烈な日本株売りにさらされる中にあって、高値を更新できたということはピンポイントで買いが入っていた銘柄と想像できます。

 これらの共通点でいえるのは、インフレ加速による海外の景気減速が心配された中にあっても、「今期の増収・営業増益企業が圧倒的に多い」ということ。また、営業利益率が10%を超える銘柄が多く、グロースの中でも業績の強いクオリティ重視の銘柄ピックがなされていたことが想像できます。

 これら銘柄が上値を切り上げるさなか、3月29日付で、米系大手証券がレポートでこんなことを指摘していました。

 今後、景気減速に突入する可能性もある中で、「グロース株のプライシングは悪化する可能性が高く、利益率の高い株式を含む[クオリティ]ファクターが報いることを歴史は示唆している」とし、「利益率の高いグロース株を所有し、利益率の低いグロース株は避けることを推奨する」と。

 日本の中小型のグロース株は3月後半、ド派手な動きの直近IPOに個人投資家の目も資金も奪われたことで、米金利低下に伴うグロース株の流れが継続するなら、上昇余地はまだあるのかな?という雰囲気は残しています。

 月が替わった直後の4月3日、グロース市場でもフリーやJTOWER、ビジョナルなどが大幅に上昇!プライム市場でもマネーフォワードやSansan、チェンジなどのネット系グロースでも大き目の銘柄に明らかに資金が入っていました。

 グロース株を選別する上でのキーワードを、前述の米系大手証券の表現から拝借して「クオリティ」とした場合、中小型版の「クオリティ・グロース」はどんなものか?これは、プライム市場で3月末に年初来高値を付けていたキーエンスなどの動きと同様、すでに「クオリティ・グロース」として上値を買われているものから逆検索していけばOKといえそうです。

 スタンダード、グロース市場に上場する銘柄の中から、年初来高値を3月以降に付けている銘柄のみ残しました。

株価が教えてくれる!中小型「クオリティ・グロース」(スタンダード・グロース上場)
【条件】(1)3月以降に年初来高値、(2)今期売上高、営業利益とも20%以上の伸び率
(3)アナリストのレーティング付与が1社以上アリ
※グロース株の定義はPBR2倍以上とする、時価総額大きい順

市場 コード 銘柄名 時価総額
(億円)
今期売上高
伸び率(予想)
今期営業利益
伸び率(予想)
グロース 5032 ANYCOLOR 1,853 77% 120%
スタンダード 7906 ヨネックス 1,343 42% 48%
グロース 4051 GMO-FG 828 21% 26%
グロース 7095 MacbeeP 658 32% 66%
グロース 4371 CCT 595 30% 42%
グロース 4431 スマレジ 551 40% 25%
グロース 6094 フリークアウト 294 21% 20%
グロース 4377 ワンキャリア 260 42% 32%
グロース 4442 バルテス 235 32% 69%
グロース 5240 monoAI 172 30% 43%
グロース 5034 unerry 137 35% 187%
※株価データは3月1日終値時点

 その上で、今期の増収率・営業増益率が20%以上の予想となっている銘柄のみとする高いハードルを設けると、残った銘柄は激減…。その中で個人投資家は上値を買わない逆張り投資家なため、個人投資家以外の参戦も期待できそうか?という観点からアナリストがカバレッジしている銘柄に絞りました。そうすると出てきたのは…わずかに11銘柄。

 未来の「クオリティ・グロース株」予備軍といったところでしょうか、非常に希少です。