景気循環を捉えた運用は成果を向上させる

 資産運用において、一般には「分散投資×長期保有」が広く言われていますが、私自身は、景気循環を捉えてタイミングを計って運用したほうが、パフォーマンスは向上すると考えています。

 皆さんも「景気が悪くてマーケットが下落しているときに買って、景気が良くなってマーケットが上昇したときに売れば良いのでは」という、ざっくりとしたイメージは持っているのではないでしょうか? 

 ただ、「では、どうやって景気循環を捉えるのか」と聞かれると、「…」となってしまう人も多いと思います。下がったと思って買ったら、その後にさらに下落し、資産が減ってしまったという経験をした人も多いでしょう。

 今回、資産運用、その中でも株式について、景気循環をどのように捉えて運用したら良いのか、日本株の代表的な指数である日経平均株価(225種)を対象にお伝えしていきたいと思います。

「冬(前半)」から「冬(後半)」になったら買い、「夏」から「秋」になったら売る

 まず、日経平均と景気循環との関係ですが、日経平均は不況の中で上昇し始め、景気回復から好況にかけて大きく上昇、その後、好況の中で日経平均は下げ始め、景気後退で下落し、不況を迎えるという循環を、おおむね3年半のサイクルで繰り返しています。

(図1)景気循環における株価のイメージ

出所:マネーブレインが作成

 景気循環において、景気と株価の関係における局面を「春」「夏」「秋」「冬」という季節に私はなぞらえています。そして、それぞれの季節における日経平均の動きには、過去においては次のような傾向があります。

「春」…上昇する時期
「夏」…上昇する時期
「秋」…上がったり下がったりしながら、横ばいもしくは徐々に下げていく時期
「冬」…前半は大きく下げやすく、後半は底値圏を上がったり下がったりの横ばいから上がり始める時期

 この傾向を利用して、日経平均への投資を考えると、「冬(前半)」から「冬(後半)」になったら買い、「夏」から「秋」になったら売ることを繰り返すことで、パフォーマンス向上につながります。

 しかし、ここで難しいのが、売買タイミングとなる季節の変わり目をどうやって捉えるかという点です。「売買タイミングが分かれば簡単だけど、それが難しいんじゃないの」と思われる人もいるでしょう。

 そこで、その「冬(前半)」から「冬(後半)」、「夏」から「秋」への変わり目について、私が何をもって変わったと判断しているのかお伝えしていきたいと思います。

日経平均底値圏を捉えるカギとなるファナック在庫循環

 日経平均の底値圏となる「冬(前半)」から「冬(後半)」に変わるタイミングを捉えるため、私が見ている指標は、FA(ファクトリーオートメーション)や産業用ロボットを扱っている電気機器大手ファナックの在庫循環です。(2月23日掲載「日経平均、本格上昇は早くて年末からか!在庫循環から読み解く」ご参照。)

(表1)ファナックの在庫循環

*青枠は売上高、棚卸資産がともに減少となった最初の四半期決算
出所:ファナックの決算短信を基にマネーブレインが作成

 この表は、ファナックの3カ月ごとの四半期決算における売上高、棚卸資産の推移と、その前年比の増減率を一覧にしたものです。

 この表において注目したいところは、青枠で示した「売上高と棚卸資産がともに減った最初の四半期決算」です。その決算発表日を「冬(前半)」から「冬(後半)」に変わるタイミングと定義付けしています。日経平均と決算発表日の関係は次のようになっています。

(グラフ1)日経平均株価と景気循環における買いタイミング

*青矢印(買いタイミング)は、表1「ファナックの在庫循環」において青枠で示した四半期の決算発表日
出所:日経平均株価は日本経済新聞社の公表データを基に作成。景気循環はマネーブレインが独自分析し作成

 日経平均と青矢印との関係を見ると、日経平均が上がり始める前段階の底値圏をおおむね捉えられていることがお分かりになるでしょう。このため、青矢印を買いタイミングとしています。

天井圏の把握には予想EPS前年比増減率

 一方、天井圏を捉える上で私が見ている指標は、独自分析になりますが、日経平均の予想EPS(1株当たり利益)の前年比増減率です。

 個別株への投資経験のある人はイメージできるかと思いますが、株価は利益のピークよりも前に下がり始める傾向にあります。利益が伸びていても、伸び率がピークアウトしてくると、株価は下落に転じることがあります。それが、個別株の集合体である日経平均株価においても同じようにあると考えています。

(グラフ2)日経平均株価と予想EPSの前年比増減率

*青線の予想EPSは、来期予想と再来期予想を独自に調整し、5週平均しています。
*丸印は予想EPSがピークアウトした時期
出所:日経平均株価は日本経済新聞社の公表データを基に作成。予想EPSは、IFIS提供データを基にマネーブレインが独自分析し作成

 赤丸で示した箇所が、「夏」という季節に出たピークアウトで、「夏」から「秋」に変わったタイミングになります。グラフを見ると、そのタイミングが日経平均のおおむね天井圏になっていることがうかがえます。このため、赤丸を売りタイミングとしています。

 グラフ1に、赤丸で示した時期を赤矢印で加えると次のようになります。

(グラフ3)日経平均株価と景気循環における売買タイミング

*青矢印(買いタイミング)は、表1「ファナックの在庫循環」において青枠で示した四半期の決算発表日
*赤矢印(売りタイミング)は、グラフ2「日経平均株価と予想EPSの前年比増減率」において赤丸で示したピークアウトした日
出所:日経平均株価は日本経済新聞社の公表データを基に作成。景気循環はマネーブレインが独自分析し作成

 このグラフから、青矢印で買い、赤矢印で売ったら、資産が増えそうな気がしないでしょうか? 

次の「買い」は10月下旬か来年1月下旬か?

 

 日経平均を対象にして、グラフ3における青矢印のタイミングで買って、赤矢印のタイミングで売ったらどうなるかについて検証してみましょう。

(表2)売買タイミングにおける日経平均株価と上昇率

*買いタイミングは、表1「ファナックの在庫循環」において青枠で示した四半期の決算発表日
*売りタイミングは、グラフ2「日経平均株価と予想EPSの前年比増減率」において赤丸で示したピークアウトした日
出所:日経平均株価は日本経済新聞社の公表データを基に、マネーブレインが作成

 この10年における3回の景気循環において、累計で3.8倍(=2.26×1.3×1.3)になっています。ちなみに、2012年10月25日(9,055円)から2023年3月31日(2万8,041円)までの日経平均の上昇率は、3.1倍となっているので、青矢印で買い、赤矢印で売ることによって、パフォーマンスがよりアップできているといえるでしょう。

 加えて、赤矢印から青矢印の間の下落局面も避けられることになるので、運用していく上での安心感もよりあるといえるでしょう。

 となると、今後の注目点は、直近で2021年10月に赤矢印が出ているので、次にいつ買いタイミングである青矢印が出るのかという点になります。

 青矢印のタイミングである、ファナックの在庫循環における売上高と棚卸資産がともに減った最初の四半期決算の決算発表日について、1999年からの長期で見てみましょう。

(グラフ4)日経平均株価とファナックの在庫循環から計る買いタイミング

出所:日経平均株価は日本経済新聞社の公表データを基に、マネーブレインが作成

 このグラフに基づくと、ITバブル崩壊があろうがリーマン・ショックがあろうが、青矢印は日経平均を買うのにおおむね良いタイミングを示してくれているといえます。

 では、次の買いタイミングである青矢印がいつになるのか、ファナックの在庫循環から私なりに推測すると、第2四半期決算発表日である今年10月下旬か、第3四半期決算発表日である来年1月下旬のどちらかになるのではないかとみています。

 景気循環は約3年半のサイクルで動いています。このように、景気循環を味方につけて、「冬(前半)」から「冬(後半)」になったら株式を買い、「夏」から「秋」になったら売る、これをたんたんと繰り返し行っていくだけで、パフォーマンスをよりアップさせることができると私は考えています。

 4月から新社会人となり、資産運用を始める人や退職金を手にされた人もいるかと思います。ぜひ活用いただければ幸いです。

 投資はあくまでも自己責任で。