今回は、子供に将棋を習わせたあれこれについて書いてみることにする。投資の話としては、広い意味での「人的資本」への投資の話ということになる。ご想像頂けると思うが、大半は習う対象が将棋でなくても当てはまる話だ。将棋の心得に投資の話を交えて書くので、お子さん関係のない投資家にもご一読頂けたら幸いだ。
将棋の手ほどき
筆者は、大学生時代に将棋部だったこともあって日本将棋連盟のアマチュア四段の免状を持っているが、そう強いわけでもないし、将棋を指すことはめったにない。だが、プロの将棋は長年観て楽しんでいるし、詰め将棋を解くこともあり、将棋は長年の趣味の一つだ。
将棋の盤面は9×9と大きくないので、スマートフォンなどでも見やすく、扱いやすい。プロの将棋は、初心者であってもアマチュアが観て楽しい。今よりももっともっと大きな経済価値を生む娯楽コンテンツになっていいと思っている。藤井聡太竜王・六冠が話題を集めている今、将棋界はビジネス的にもっと工夫すべきだろう。
さて、息子に将棋を教えた話をする。筆者は、息子が小学校低学年の時に将棋を教えた。
盤と駒を買ってきて、駒の動かし方と、相手の王様を詰めたら勝ちだというルールを教えるのにそう苦労は要らない。ゲーム的なものに興味を持ちだした年頃の子供ならすぐに覚えるだろう。
覚えたての段階では、繰り返し相手になって駒の動かし方に馴染んで貰えばいい。親が子供の相手をするイベントとしては、体力も使わないし、場所も自宅ですむので、楽な部類に入ると思う。
この段階で、子供が将棋に強い興味を示さない場合は、無理をする必要はない。子供も人それぞれだ。別に興味を持つものに向かわせたらいい。いつか戻ってくる時もあるだろうし、ルールを覚えたこと自体は後に役に立つことがある。
子供が将棋の要領を覚えてしばらくしたら、将棋の「戦法」について説明したごく簡単な入門書を与えた。小学校3年生くらいの頃だったろうか。将棋には、「棒銀」、「中飛車」など様々な戦い方の型があるが、これらの一つを覚えると、将棋がぐっと面白くなる。ゲームの原理のようなものに一歩近づくからだ。
趣味にはいくつか楽しいと思える段階があるが、初期に戦法を覚えて自分が強くなったと実感できる段階は、明らかにその一つだ。
大人になって「趣味を持つ」と言うと、かなり習熟してからでないと世間に口外できないと思う人がいるが、「それはちがう」とかつての上司に教わったことがある。
「趣味は、それができると感じ始める最初の段階が一番の醍醐味だよ。そこをゆっくり味わうといい」とその人は教えてくれた。彼は、仕事を退職した後に、ダイビングと日本百名山の登山を趣味にした。「どちらも、他人と競争しないでマイペースでできるいい趣味だ」と言う。趣味に対する素晴らしい考え方だと思った。因みに、彼の現役時代の仕事は為替のディーラーだった。確かに、もう競争は要らないかも知れない。
子供将棋教室に通わせる
子供に将棋を教えるコツは何なのだろうか?
ある時、将棋関係のイベントに羽生善治九段に一目会いたいと言う息子を連れて行った。列に並んで一緒に写真を撮ってもらい、一言交わすことができたので、筆者は、「子供に将棋を教えるには、どうしたらいいですか」と問うてみた。羽生さんはにこやかに教えてくれた。
「お父さん、たくさん、たくさん負けてあげて下さい」
なるほど、と思った。
さて、小学校4年生になる頃、息子は熱烈にという程ではないが、将棋への興味を継続していたので、プロが教えてくれる将棋教室に通わせることにした。東京千駄ヶ谷の日本将棋連盟の子供用の教室と、筆者の知り合いの現役プロ棋士T六段が筆者の自宅から通える距離に子供用の将棋教室を開いていたので、両方に通わせた。ただし、両方併せて週に一度に満たない緩いペースでだ。
芸事全般でそうだと思うが、覚える初期の段階で本物の専門家の指導を受けることは有益だ。本筋から覚えると上達が早いし、悪い癖がはじめにつくと苦労する。
この点、昨今の投資家は大いに心配だ。ネットの記事や動画、SNSなどで、不正確な知識を不規則に取り込んでしまっている。書籍を読むのはマシな方だが残念ながら多くの本に間違いや不足が多い。そして、不完全な理解で売り買いをしてみた結果、我流の解釈で投資の理解が止まってしまう。はじめに正しい根本原理から理解すると「うんと楽」なはずなのだが、そうなっていないことが殆どだ。残念なことである。