これだけNISAが拡充されればiDeCoは不要?
2024年から始まる、新しいNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)に注目が集まっていますが、どうもNISAばかりに目が向きすぎているような気がします。
今までは限度枠の問題があったため、しっかり資産形成をしたい場合は「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)とNISA、二つの枠を活用しよう」と説明されてきましたが、この心配はなくなりました。年間360万円まで、累計で1,800万円の元本まで投資できる大きな枠組みに改変されることで「枠が足りない」問題はほぼなくなりました。
しかし、「NISAだけ」で資産形成を考えてしまう必要はありません。使える制度は広く利用するべきです。また、NISAの限度枠が大きく拡充され、iDeCoの枠が相対的に小さいものとなったとしても、iDeCoを併用する意義はあると思います。
今回は「なんとなくNISA」という流れにあえて逆らって、「だからこそiDeCoも」という話をしてみたいと思います。
NISAが強力・強大になったとしても「iDeCoファースト」の構図は変わらないのです。
【iDeCoファーストの理由1】所得税・住民税の非課税という大きな魅力
第一のカギは「所得控除」です。iDeCoの掛金は全額所得控除の対象となります。将来自分が確実に受け取ることのできる資産でありながら「iDeCoに入金」するだけで、目の前の所得税や住民税の課税対象から除外されます。これは大きいです。
60歳以降に受け取る時点で一度課税されるものの、退職所得控除の範囲に収まれば非課税、超過しても2分の1課税ですから税負担は軽微にとどまります。年金受け取りを選択した場合、公的年金と合算した年受け取り額が拠出時点(現役時代)の年収を下回っていれば、現役時代よりも税負担は軽いものとなる理屈です。
年収などの条件にもよりますが、掛金の20%相当額が非課税だったと仮定すれば、月2.3万円拠出できる人の場合、40年拠出で220.8万円の節税になります。220万円節税する、と考えるだけでも大きなインパクトです。
ちなみにこの間の掛金拠出累計額が1,104万円になるのですが「実質883万円の負担で1,104万円を積み立てたことになる」と考えることもでき、資産形成として考えてもこれを逃すのはもったいない話です。この220.8万円はNISAでは得られないからです。
現役世代の会社員において、所得控除を得る手段は限られており、どんなにNISAが有利になってもiDeCoを活用する妙味は残ることになります。
【iDeCoファーストの理由2】少額だからこそむしろ先にiDeCo枠を埋める
今回、iDeCoとNISAの間に大きな「差」がついたのは、投資上限でしょう。一般NISAとつみたてNISAの選択がなくなった上に、一つの口座として見ても年最大360万円もの投資が可能になります。
iDeCoは会社員の場合、月1.2万~2.3万円の範囲(働き方と企業年金の有無・種類による)ですから、年額でも14.4万~27.6万円と小さなものです。
しかし、あえていえば「小さいからこそ、iDeCo枠を先に、確実に埋めてしまう」ほうがいいと私は考えます。
新しいNISAの心配として、大きすぎる枠があることで、毎月数万円程度の積立投資がNISAで軽んじられたり、「こんな枠を使うほど投資もしないし、利用しなくてもいいか」となってしまうことがあります。
NISAは、来年以降も月数万円の積み立てで使っていいのですが、どうもそういう使い方がトーンダウンしそうな気配です。大きすぎる枠が、堅実・着実に行う資産形成をわい小なものとしてしまうわけです。これはうまくありません。
むしろ「枠が小さいからこそ」iDeCoを確実に埋めておくことで老後の安心づくりの「柱」ができると考えてみてはどうでしょうか。
枠が小さいからこそ「この枠は埋められる」と考えやすくなり、結果として資産形成が確実に進むことになるはずです。
【iDeCoファーストの理由3】解約しにくいからこそ「老後資金死守枠」と考える
三つ目の理由は、NISAが解約しやすく、iDeCoが解約困難であることです。
一般的には、中途解約できないiDeCoの利用にご注意、と説明されるわけですが、60歳になれば解約できるわけで、おおむね95%の人が65歳まで生きていく時代に、それほど厳しい条件ではありません(万が一のことがあった場合は全額が遺族に支払われる)。
むしろ、解約しにくいことは確実な老後資産形成に寄与します。目の前の家計が苦しいから、あるいはうまく利益が上がったからと売却を繰り返していては資産形成にはなりません。
人間のメンタルはそれほど強いものではありません(正確にいえば、強い人もいますが誰もが同じではありません、というところでしょうか)。iDeCoの制約が「解約できないのならしょうがない」くらいに思っているほうが、結果として大きな資産に育ったりするのです。
老後の生活は公的年金に月5万~6万円くらい上乗せしておきたいと考えるのなら(いわゆる老後に2,000万円)、iDeCoは「老後資金死守枠」と考えてみましょう。
これは解約の自由があるNISAにはなかなかできないことなのです。
NISA拡充だから、むしろ「iDeCoファースト」を考えてみよう
NISAが大幅に拡充されるからこそ、むしろ「iDeCoファースト」の論理が重要になると私は考えます。
「所得控除があるからこそ、iDeCoファースト」
「少額積み立て枠だからこそ、iDeCoファースト」
「中途解約が困難であるからこそ、iDeCoファースト」
と捉え、NISAとiDeCoの同時活用を考えてみてください。