鍵を握るのはやはり不動産?

 上の表で、依然マイナス成長ではありますが、顕著に回復しているのが不動産開発投資です。

 今年1月、習政権のマクロ、産業、通商政策などを率いてきた劉鶴・国務院前副首相が世界経済フォーラム(ダボス会議)の場で、中国経済にとっての不動産産業の重要性を赤裸々に語っています。劉氏は、不動産市場を「中国国民経済の支柱産業」と位置付けた上で、中国において、不動産関連の借り入れは銀行ローンの約4割、不動産関連の収入は地方政府の半分、不動産は都市で暮らす市民の資産の6割を占めていると指摘。また、不動産業界から誘発される金融リスクを回避するという観点から、未完成の建物の竣工(しゅんこう)支援、不動産企業への融資拡大、不動産バブル期に強化した規制の緩和といった対策を打ちだしました。

 劉氏が中央政府を代表して提起したこの政策方針は、李克強首相が率いてきた国務院から、これから李強首相が率いる国務院にも引き継がれるのが必至です。その意味で、2022年10%減と低迷(1992年に同統計が発表されて以来初のマイナス成長)した不動産開発投資が、1~2月5.7%減まで下げ幅を狭めてきた経緯は特筆に値するでしょう。

 その他、1~2月の不動産販売は床面積ベースで3.6%減(住宅は0.6%減)となり、2022年全体の24%減から回復しています。販売額ベースでも0.1%減(住宅は3.5%増)まで持ち直しています。

 さらに、中国政府が定期的に発表している主要70都市の住宅販売価格は2月、新築で55都市、中古で40都市にて上昇、前月と比べて、価格が上昇した都市の数はそれぞれ19都市、27都市増えています。

 全人代の「政府活動報告」で今一度表明されたように、中国政府は「住宅というのは住むための場所であって、投機対象であってはならない」というスタンスを引き続き堅持しており、国内外の投機マネーが不動産市場に流入することで、不動産バブルが形成される局面を終始警戒しています。

 昨年12月に開かれた中央経済工作会議で習総書記は次のように主張しています。

「不動産市場の需給関係、都市化を巡る状況など重大な趨勢(すうせい)、構造的変化を深い次元で考慮に入れた上で、不動産市場を巡る問題を根本的に解決していくための中長期的対策を急速に研究しなければならない。長年続いている[高い負債率、高いレバレッジ率、高い売買回転率という発展モデルの弊害を取り除くことで、不動産産業が新たな発展モデルに平穏に移行できるよう推進していく必要がある」

 不動産市場が現状のままではいけない、改革を施していく必要があるという明確なスタンスを持っているということです。一方で、劉前副首相が指摘するように、不動産が国民経済の支柱産業である現状が近未来的に変わることはあり得ない、よって、中国経済は引き続き相当程度不動産業界に依存していかなければならない(長期的には依存度を下げることが改革の目的の一つ)というのが中国政府の現状認識であり、市場関係者、一般消費者もその点を理解しているというのが私の見方です。