ついに新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の概要が明らかになりました。2021年の自民党総裁選では現首相の岸田文雄氏が「令和の所得倍増計画」を掲げ、個人的にはとてもいいことだと感心した記憶がありますが、気付けばその言葉は立ち消えてしまい、代わりに出てきたのが「資産所得倍増計画」でした。

 その中で目玉となるのがNISAの拡充であり、個人投資家の多くがどのように変化するのか関心を寄せていました。今回は2024年から始まる新NISAの活用方法と注意するポイントを解説していきます。

四つの主な変更ポイント

 まず簡単に拡充される内容を確認してみましょう。注目すべき点は主に四つ。

  一つ目は「制度の恒久化」です。これまでは「一般NISA」が2023年まで、「つみたてNISA」が2042年までと期間が限定されていましたが、今回の改正でその制約が撤廃されるため利用しやすくなっています。

 二つ目は「非課税保有期間の無期限化」です。従来の一般NISAでは5年間という期限が定められていて、保有資産の現金化やロールオーバー(非課税期間の延長)の手続きが必要だったので、この点も改善といえるでしょう。

 三つ目は「生涯非課税限度額の設定」です。新NISAでは1人当たり1,800万円まで非課税限度額が設定されており、これまでは併用不可だった一般NISAとつみたてNISAが合体する形になっています。

 四つ目は「年間投資上限額の引き上げ」です。イメージとしてはつみたてNISAが現行の3倍、一般NISAは2倍に引き上げられた上に、併用が可能と考えれば、とてつもない改善といえるでしょう。

 新旧の変更ポイントの詳細は楽天証券さんが非常に分かりやすくまとめてくれています。そちらでさらに理解を深めることが可能ですので、オススメです。

つみたて投資をしている人は新NISAに毎月何万円?

 さて、新NISAの魅力が分かったところで、ここからは活用方法をタイプ別に紹介します。まずは現時点でNISAを活用して「つみたて投資」をしている方です。結論から言えば、新NISAでも同じことを続ければいい、と思います。

 ただし、従来の「つみたてNISA」は年間投資上限額が40万円でしたから、満額でも毎月3万3,333円(40万円÷12カ月)までしか投資ができませんでしたが、新NISAでは「つみたて投資枠」で毎月10万円(120万円÷12カ月)まで投資ができるようになります。

 投資余力が大きい方は毎月の投資金額を引き上げるといいかと思いますが、無理に引き上げる必要は一切ありません。投資上限額に関係なく、自分は毎月3万円がちょうどいいと考えている方はそれで良いでしょう。

 非課税保有期間が無期限化されたので、それこそコツコツと無理のない範囲で長期間積み立てていくのが吉です。

 新NISAでは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」に分かれていますが、1,800万円を全てつみたて投資枠に充てることは許されていますから、毎月3万円を積み立てる場合は50年間(3万円×12カ月×50年=1,800万円!)にわたる投資生活を送ることも可能です。

株式投資だけしかしていない場合はどう使う?

 次に現在は一般NISAやつみたてNISAを利用しておらず、特定口座などで株式投資しかしていない方はどうでしょうか? 積み立て投資をしていなくて、個別銘柄の取引しかしていない方は私の周りにも多いのですが、新NISAはそのような方でも十分利用を検討するに値すると考えます。

 株式投資をしている方は比較的まとまった資金を運用しているケースも多いですが、新NISAでは成長投資枠の年間投資上限額は240万円に設定されているため、投資資金の一部は新NISA経由で取引するというのも良いでしょう。

 もちろん、いわゆるデイトレードやスキャルピングといった、短期間での売買を手掛けている場合は該当しませんが、株式投資であっても定期的に預金以上の利回りを狙って高配当銘柄に投資をしていたり、そもそも長期で保有するつもりで投資をしていたりする場合は非課税というメリットを享受すべきだと考えます。

資金の出し入れで機動的な運用も可能に

 新NISAの魅力は先ほど書いた通りですが、制度の恒久化や年間投資上限額の引き上げとならび、非課税枠の復活という変更も大変魅力的です。これまでは、非課税枠を一度使ってしまうと、その分は消えてしまいました。今回、投資金額の一部を利益確定して売却した場合は、再び空きができた非課税枠を利用して投資可能になります。

 この変更によって、従来は「早くから資産運用を始めて長期で投資した方がいいというけれど、近いうちに子供の教育資金とか住宅購入の際の頭金が必要になるしなぁ」と考えて、NISAの利用を控えていた20代、30代の投資家にも活用しやすい制度になったともいえます。

 20代、30代は比較的リスクを取るべきといわれることもあります。株価指数に連動するインデックスファンドに積み立てている方も実際に多いですが、例えば、国内外の株式や債券、リート(不動産投資信託)など幅広く分散投資をしているバランス型ファンドなどで少しだけリスクを抑えて運用するのも手です。

 まとまった資金が必要になった時点で投資資産の一部を換金し、回復した投資枠も含めて、今度はインデックスファンドに積み立て始めるなど、機動的な運用を考えることも可能になりました。

高いリターンが続くと限らない。時間をかけてコツコツ積み立ても

 新NISAに興味を持つ個人投資家は多いようで、SNS(交流サイト)やYouTubeなどでも多くの方が新NISAに関する情報を発信しています。

 いまはプロではなくてもクオリティの高い情報を発信していることも増え、私自身もいろいろと勉強させてもらうことも多いのですが、新NISAについての情報で一つ気になったことがありました。

 新NISAでは年間投資上限額がつみたて投資枠で120万円、成長投資枠で240万円ですが、成長投資枠でも積み立て投資は可能ですから、1年間で最大360万円積み立てることができます。

 そうすると、最短5年間で生涯非課税枠を使い切ることができます。これを実現することで、20年、30年かけて積み立ててNISA枠を使い切るよりも複利効果(運用益を再投資することで元金と運用益を合計した額に利息が付き、元本のみに利息が付く単利よりも運用益が得られる効果)が効くという情報でした。

 そして、その手法を紹介した後に、30年かけて積み立てた場合と、5年で枠を使い切ってそのまま運用した場合のシミュレーションをしていましたが、シミュレーションの前提になっていたのは年率5%の期待リターン。

 仮に毎年の期待リターンが5%で固定されているのであれば、最短で投資枠を使い切った方が効率良く資産を増やすことができますが、そもそもそのようなことは起こり得ません。

 この10年ぐらいは日経平均株価(225種)の推移を見ても、基本的には右肩上がりだったこともあり、この10年間のうちに投資を始めた個人投資家はその前提にあまり疑問を抱かないかもしれません。

 そうした方は一度、1990年ぐらいからの日経平均株価の長期チャートを見てみた方がいいかもしれません。20年、30年と投資をしていれば、暴落する局面もあるでしょうし、何年もさえない相場展開が続くこともあるはずです。

 よって、個人的には最短で投資枠を使い切るよりは、やはりこれまで通りコツコツと積み立てていって、時間の分散もした方が良いと思うのです。

森永 康平氏(もりなが・こうへい) 金融教育ベンチャー・マネネCEO、経済アナリスト

 運用会社や証券会社にて日本の中小型株のアナリストや新興国市場のストラテジストを担当。2018年6月に金融教育ベンチャーのマネネを創業。現在は複数のベンチャー企業のCFOを兼務。日本証券アナリスト協会検定会員。著書『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)、父・森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。