「億り人」の多くが自営業者や個人事業主?実は理由があるかも
「億り人」というキーワード、個人投資家であれば誰もが知っている言葉でしょう。そして夢に見る目標の一つといえます。1億円という資産を築けば基本的に生活の安定が確保されます。
FIRE(Financial Independence,Retire Earlyの略)における早期リタイアプランでも、年収25年分の資産を確保し年4%の実質利回りを得ることで早期リタイアが実現できるとされます。日本円では年400万円の生活とすれば25年分は1億円です。
この「億り人」になるには、一般的にはFXや仮想通貨取引、あるいは個別株式でのリスクを高めに設定した資産運用が必要になると考えられています。また、高年収を背景とした高い投資余力が必要だと一般にはイメージされていると思います。
確かに「億り人」を称して書籍を出したり講演をしている人たちは、自営業者あるいは個人事業主のような立場、または企業経営者であることが多いようです。(億り人になったあと、会社を辞めたケースもありますが)
会社員のインデックス投資家でも、「億り人」ケースが現れ始めていますが、これも月20万円くらいの積み立てペースが求められ、子育てや住宅ローンに追われる夫婦にとってはなかなか困難です。
でも大丈夫です。会社員として働くあなたが日々の仕事をがんばり、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やつみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)にしっかり積み立てを行えば、リタイアをするときにはほとんどの人が「億り人」になれるのです。
今日はそんな、ちょっと元気になれる話をしてみたいと思います。
会社員の厚生年金、負担は大きいが「老後に2,000万円」以上の価値がある
自営業者が「億り人」を積極的に目指す理由の一つは、「老後の備えが弱い」からです。彼らは国民年金制度にしか加入しておらず、これでは年80万円にも達しません。
会社員の場合、厚生年金保険料が18.3%で、本人負担分がその半分の9.15%です。残りは会社負担ですが会社としてはあなたに払う人件費として確保しているわけですから、年収の18.3%相当を老後のために強制貯蓄をしているような性格があります。年収600万円の人にとっての18.3%は年109.8万円に相当します。
国民年金保険料の月1万6,590円(令和4年度)と比べ、月9万円の大きな負担があるため、会社員の手元の残高が億に近づくことはなかなかありません。しかし老後を考えれば大きな収入源の確保になっています。
会社員のモデル厚生年金額は月9.0万円(これに老齢基礎年金が月約6.5万円が加わる)ですが、これを65歳男性の平均余命約25年で掛ければ2,700万円の老後収入になります。自営業者にはない、「老後に2,000万円」以上の資産形成に、厚生年金保険料が役立っていることが分かります。
なお、公的年金は終身給付ですから、35年長生きしたと仮定すれば3,780万円の資産にいきなり可変します。この終身給付の権利は、現金を貯めて億り人になるより大きな安心です。
自分の具体的な年金額が知りたいという人は、ねんきん定期便のデータをベースに、厚生労働省の年金シミュレーターのページにアクセスして、どれくらいの年金額になりそうか調べてみてもいいでしょう。
会社に代わりに積み立ててもらう資産形成としての退職金・企業年金制度
会社員ならではの資産形成には退職金制度や企業年金制度もあります。平均では8割以上、中堅・大企業では9割以上が退職金制度を有しています。
モデル退職金が仮に1,500万円あって、勤続38年で資産形成をするとなれば、毎月3.3万円相当を給与として受け取らずに老後に繰り越しているともいえます(運用益を勘案せず)。
そう考えてみると、会社員は厚生年金保険料と退職金・企業年金制度を用いて「月10万円」を老後のために貯めていると考えることができます。
退職金・企業年金制度については制度の有無・種類・水準は各社ごとに異なりますので、自分の条件をチェックしてみましょう。中小企業では1,000万円を下回ることも少なくありませんし、大企業で充実している場合は2,000万円を超えることもあります(とはいえ大企業でも1,000万円くらいということもある)。
まずは、何らかの形で「モデルの退職金額(定年退職時)」を調べます。次に、内訳として「退職一時金(現金受け取り)と企業年金制度(現金受け取りか年金受け取りかを選択可能)」がどのぐらいのシェアになっているかを調べます。
企業型の確定拠出年金についてはiDeCoと同様、個人がアクセスして残高チェックをできますので、このペースで60歳に届いたらどうなるかを試算によりイメージすることもできます。
「あれ、うちの会社、けっこう退職金や企業年金、たくさんくれるかも?」と思えば、仕事へのモチベーションにもなりますね。
共働き夫婦ならさらに倍、「老後に8,000万円」あるいはそれ以上?
さて、このテーマ、共働き会社員夫婦であれば、「2人分の厚生年金」「2人分の退職金」として考えることもできます。
仮に「年金で老後に約2,500万円」+「退職金・企業年金で約1,500万円」だったとしたら、夫婦ダブルで受けられればそれだけで8,000万円の価値があることになります。
よく「老後の準備をする余裕がまったくない!」という会社員夫婦の話を聞きますが、「実は夫婦で毎月15~20万円くらいの老後への備え」を行っているとみなすこともできるわけです。そう考えれば、けっこうがんばっているといえます。
「2人分の厚生年金」「2人分の退職金」を積み上げれば、それだけで「億り人」達成となる夫婦もあるでしょう(老後の期間を30年以上で見積もれば多くの場合、達成できる)。
ただし、女性が正社員でない期間があった場合、産休・育休期間が長かったり、時短勤務期間が長かった場合などは退職金に影響を及ぼします。各社の規定を確認し、自分の状況をチェックしてみてください。
つみたてNISAやiDeCoが加われば会社員も「億り人」でリタイアできる
先ほどのモデルでは合計8,000万円相当ですからまだまだ「億り人」には2,000万円足りません。しかし、私たちにはiDeCoやつみたてNISAがあります。自助努力の上乗せにより、私たちはリタイアまでに億り人に到達することができます。
企業年金のない会社員のiDeCoが年間27.6万円です(企業年金ありの場合は年14.4万円)。つみたてNISAは年間40万円となります。
年67万円の積み立てをしたと仮定して、45歳から65歳まで資産形成に取り組んだとすれば元本ベースで1,340万円になりますし、運用益を加味すれば2,000万円もおかしな試算ではありません。
さらにこれを夫婦でダブルiDeCo、ダブルNISAとすることができれば、退職金水準が低い場合でもやはり合計で「億り人」達成はできそうです。
夢の早期リタイアには手が届かないかもしれませんが、多くの会社員は「億り人」にリタイア時点で到達していることになります。
ぜひ胸を張ってリタイアをしてほしいと思います。
最後のポイントはやはり、自助努力
この話、言い換えれば、自営業者や個人事業主は、厚生年金も退職金もない分、自分の将来に向けて「億」を意識した資産形成を行う必要があるということです。
ビジネス上のリスクもあるわけですから、積極的な資産形成を行うことはむしろ本業の好調時こそ加速させておきたい取り組みといえます。
自営業者や中小企業経営者(自分を厚生年金対象外としていることがある)は、iDeCo(国民年金のみ加入なら年81.6万円の枠)、NISAだけでなく、年84万円の所得控除が得られる小規模企業共済制度もありますので、積極的に「億り人」を目指してほしいと思います。
会社員についてもう一度整理をすれば、厚生年金制度と退職金制度を軸に、自助努力での積み上げが重要だということが改めて確認できたように思います。
単純に「老後に2,000万円」を貯めてリタイアしたいと考えた場合でも、退職金のみでは難しく、iDeCoやNISAでの上積みをしておくことがポイントです。
そして、会社員でありつつ「億り人」に到達した人たちはすさまじい努力をして資産形成に取り組んできたことが分かります。
運用利回りをどのくらい設定するかにもよりますが、月20万円くらいのペースで積み立て投資をした人が「会社員の億り人」ではないかと思います。厚生年金保険料を納め、退職金制度の積み立ても外部で行っていることを思えば、これは本当にすごいことです。
さすがに退職金や厚生年金を別にして「億り人」になる会社員は多くありません。
会社員の人たちはまず、「合計して、リタイアまでに億り人」を目指してみてはいかがでしょうか。