iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)が今年から法改正されて、利用しやすくなったことはご存じの通りですが、その中でも最も大きな変更点は「企業型確定拠出年金(以後、企業型DC)に加入している人でもiDeCoに加入することができるようになった」ということです。

 もちろん、従来からも法律上は「企業型DCとiDeCo」の同時加入は可能です。しかしながら、それをできるようにするためには、二つの条件が必要でした。一つは『企業型DCにおける会社が出す掛金の上限を引き下げること』、そしてもう一つは『「iDeCoと同時加入できる」と規約を変更すること』です。

 ところが上記二つの変更をすることで、実は一部の従業員にとっては不利になるという現象が起こり得たのです。したがって、法律としては実施可能でも現実には実施する企業はほとんどありませんでした。会社員で企業型DCに加入している人は事実上、iDeCoには加入できなかったわけです。

 ところが、今回の制度改正でこの二つの条件が撤廃されたため、企業型DCに入っている人もiDeCoに加入しやすくなりました。現在、iDeCoの加入者は269万人(2022年10月末)ですが、企業型DCの加入者は782万人と、3倍近くもいます。その人たちの多くがiDeCoを利用するようになるというのは相当なインパクトでしょう。

どちらを選ぶのが良い?「マッチング拠出」と「iDeCo」二つのルール

 ただ、企業型DCに加入している人がiDeCoに入るには一つ考えておくべきことがあります。それは「マッチング拠出とiDeCo加入のどちらを選ぶべきか?」ということです。

 さて、「マッチング拠出」とは一体何でしょう? 企業型DCの大原則はiDeCoと違い、掛金を出すのは会社です。そもそも企業型DCは会社の退職給付制度の一つだからです。ところが中には、会社の出す掛金に上乗せして従業員が個人で掛金を出すことが制度として認められている会社もあります。この「従業員が個人で掛金を出すこと」をマッチング拠出というのです。

 今回の改正で企業型DCに加入している人もiDeCoに加入することができるようになったとは言うものの、マッチング拠出をやっている人はiDeCoを利用することができません。

 つまりマッチング拠出をするか、それともiDeCoに加入するか、のどちらかを選ばないといけないのです。ではどちらを選ぶのが良いのでしょうか? その答えは掛金を出す場合のルールにあります。そのルールとは一体どういうものか。

 企業型DCにおける掛金の上限額はその会社がどのような退職金制度を採用しているかによって異なりますが、ここではわかりやすくシンプルにするために上限金額が最も高い5万5,000円の場合で考えてみます。iDeCoの掛金上限額はこの場合2万円となるので、この数字を前提といたします。

 マッチング拠出には二つのルールがあります。

  1. 会社が出す掛金以上の金額を従業員が出すことはできない。
  2. 会社の掛金と従業員の掛金の合計額がトータルの上限金額(この場合は5万5,000円)を超えてはならない。

 一方、iDeCoの掛金ルールも次の二つです。

  1. iDeCoの掛金は2万円を上限とする。
  2. 会社の掛金とiDeCoの掛金の合計額がトータルの上限金額(5万5,000円)を超えてはならない。

 どちらも2の場合は同じ条件です。したがってマッチングかiDeCoかのどちらを選ぶかは、1の状況がどうなるかによって変わってきます。

 仮に若い社員などでまだ会社が出してくれる掛金が少ない場合、例えば掛金が2,000円とかであれば、マッチング拠出も2,000円しか出せませんがiDeCoなら2万円まで出せます。したがって、この場合はiDeCoを利用した方が多くの掛金を出すことができます。

 一方、会社の掛金が2万円を超えて2万7,500円までの間ならiDeCoが2万円までしか出せないのに対してマッチング拠出は会社の出す金額に応じて2万円~2万7,500円まで出すことができます。この場合はマッチング拠出の方が多くの掛金を出せます。

 ここからわかることは会社の掛金が2万円までならiDeCoを選ぶ方がより多くの金額が積み立てられるし、2万円を超えて3万4,000円までだとマッチング拠出の方がより多くの金額を利用できるということです。

 3万5,000円を超えるとマッチングでもiDeCoでも同じとなりますが、iDeCoの掛金は最低5,000円からなので、会社掛金が5万円を超えるとマッチング拠出しかできません。

他の要素も考慮して、無理のない積み立てを続けることが重要

 さらにマッチング拠出とiDeCoのどちらが良いかということを決める要因は積み立て可能な金額だけではありません。会社で実施している企業型DCにあまり良い商品がなければマッチングではなくiDeCoで積み立てる方が良い場合もあります。

 逆にマッチング拠出だと会社の制度の中だけなので、毎年の口座管理料は会社が負担してくれますが、iDeCoの場合は自分で負担する必要があることも知っておいた方が良いでしょう。この場合の金額はせいぜい年間数百円ですからあまり大きな影響はないでしょう。

 むしろ商品にかかる手数料の方が大きな影響を与えますので、より大きな注意を払った方が良いだろうと思います。

 したがって、使える枠を目一杯活用して資産形成に励むという人であれば、上記の例を参考にしながら、自分でどちらの制度を利用し、どれぐらいの掛金を出すのかを決めればいいと思います。

 ただ、言うまでもありませんが、iDeCoにせよマッチング拠出にせよ確定拠出年金というのは60歳までは引き出すことができません。老後資産をつくるという面ではむしろ引き出せないのは大きなメリットと言って良いでしょうが、あまり無理をして資金を注ぎ込み過ぎると、必要な時に引き出せないという事態も起こり得ます。

 自分なりに考えて無理のない範囲内で積み立てを続けるという姿勢でどちらを選ぶか考えていけば良いでしょう。