生活者の欲求が作った資本主義。これからもそこで暮らす

「よろしい。私たちが暮らす社会の仕組み、といいましたが、具体的に言えば、日本は、政治は民主主義、経済は資本主義を基軸とした社会です。大人のあなたに学校の授業のようで申しわけないけど、基本は重要だから辛抱して聞いてください」

 隆一の本心は<投資のコツを知って、もう少しおカネが欲しいだけだから、難しい話は手短に>だったが、ぐっと抑えて耳を傾けた。

「古今東西を問わず、人は権力と富を巡って争ってきました。戦争に勝てば、領地領民を支配し、そこから得られる富を独占する。権力と富は武力で勝ち取るのが人類の歴史だったわけです。しかし、王侯貴族や武士が力で支配する社会が終わり、政治権力は民主主義、つまり選挙で、富と経済権力は資本主義で手に入れる社会に変わったわけです」

 先生は、畳み掛けるように続ける。

「今日、世界を見渡すと、国によって資本主義のあり方はさまざまですが、大枠でとらえれば、ほとんどの国が資本主義を採用しています。欧米ばかりでなく、中国も、国家資本主義や社会主義市場経済などと言われます。世界は、ある意味、日本以上に資本主義の仕組みと価値観で動いているのが実情です」

 隆一は、詳しくは知らないが、資本主義というものになんとなくいいイメージを持っておらず、知っている限りの情報をひねり出して聞いてみた。

「先生、これからも資本主義が続くとおっしゃいますが、書店では『資本主義の危機』とか『資本主義の終焉』といったタイトルが並んでいたように思いますが」

「そうですね。資本主義というと、危機だとか、格差だとか、多くの人から揶揄されることが少なくありませんね。でも、いま見渡せば世界中のほとんどの国が資本主義です。私は、それには、理由があると思っています。1つは、これまで資本主義の国では社会全体の富が増え、株価も上がり、全体としては、そこで暮らす人々の所得水準や長期投資を継続してきた人の資産も上昇してきたからです。もう1つは、資本主義の生い立ちに関わることですが、資本主義は、社会主義のように思想家の理念や理想から生まれた仕組みではありません。理想ではなく人々の現実生活での欲求が創り上げた仕組みです。18世紀末から19世紀にかけて近代工業化を成し遂げたイギリス、フランス、ドイツなどの西欧諸国では、経済社会が大きく変わって、『産業革命』と呼ばれたことは学校で習いましたよね。『資本主義』というのは、その西欧で大きく変化した経済社会の現実を表現するために生まれた言葉です」

 理想ではなく、欲求と現実から生まれた、仕組み――隆一はおもしろい。もう一息知りたい、もう少しで腹落ちできそうな気がして、先生に質問をした。

「これまでのことはなんとなくわかりました。でも、どうして、これからも資本主義が続くのですか?」

「そうですね。将来のことを断定するわけではありませんが、歴史の話をしたのは、資本主義の生い立ちが長続きする理由をもの語っているからです。資本主義の仕組みを産み育てたのは、農村での自給自足の時代から商工業の時代になって、何かの仕事をして自分で収入を得なければ食べていけない人たちです。彼らには、あれこれ制約されずに自由に商売して、やっと稼いだ利益を不当に奪われず、暮らしを楽にしたい、という本音の欲求がありました。資本主義は、理想や理念ではなく、現実に対する本音の欲求が産み育てた仕組みだから生命力が強いわけです。しかも、いろいろ悪く言う人がいても、それに代わる『よりマシな仕組み』が現れていません。だから、なんだかんだといわれても、結局、資本主義の基本的な仕組みは変わらず、私たちも資本主義の下で生活しているわけです」

 それよりマシな仕組みがない、なるほど選択肢がない。隆一はとりあえず資本主義の強い生命力は理解できた気がした。

第6話:「1ドルを60万ドルに変えた、資本主義」を読む

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