投資の基礎体力は何をすればあがるのか

「思ったんですが、なんでも基本ってあるじゃないですか。僕は中学、高校と野球をしていたのですが、上手な選手ってやっぱり基本を大切にしていたんですよね。僕なんか練習が終わればすぐに帰ってましたけど、レギュラー張った奴らは、残って走り込みとかするんです。下半身を鍛えているわけですよ。なんて言うか、投資における走り込み、みたいなものってあるんでしょうか」

「投資における走り込み、か」
 先生は少し視線を下に落とし、続けた。

「それなら、やはり資本主義について理解をすることです。先週来たときの最後に、次回は資本主義の仕組みについて学びましょうと、話しましたね」

「ちょ、ちょっと待ってください。私は別に学者になりたい訳ではないです。資本主義みたいな、大それたものを理解できませんよ」

 隆一の中では、<投資>と<走り込み>と<資本主義>という言葉たちが、いまいちかけ離れていて、うまく繋がらない。それにいきなりなんだかややこしいことを学ばなければいけない気配にも怯んだ。

「学問的な話をしようというわけではありません。それは学者にお任せすればいい。ただ、私たちが暮らす社会と経済の仕組みをきちんと理解することが、君が言う『投資における走り込み』に当たります。野球やスポーツなら下半身強化、ビル建築なら基礎工事でしょうか。これを抜きにすると、投資を小遣い稼ぎの手段としてしか考えられなかったり、あるいは、何も投資なんてしなくても、と尻込みしたりしがちです。これでは、長期投資のメリットを享受することは難しいでしょう」

「長期投資のメリット?」
 隆一はなぜかその言葉が引っかかった。

「こわい」はどこから生まれるのか?

「そこに反応するのは、悪くありません。米国株は過去20年間で3倍になっているという話を覚えていますか」
「もちろん覚えています。さすがアメリカンドリームの国。日本は20年も横ばいなのに」

 隆一のヘラヘラとした軽い返しに先生は反応せず話を続けた。
「長期投資というのは、この20年間で3倍になるリターンを享受することです。ただこれは言うは易し行うは難しで、10年、20年と投資を継続できる人は、少ないのです」

「え、そうなんですか、最初に買ってずっとほったらかしにしておけばいいだけですよね」
 隆一は自分がかつて短期売買で毎日、右往左往していたことをすっかり忘れていた。

「飛行機に乗って大きく揺れると、もしかして墜落するのではと不安になりますよね」
「あれは手に汗をかきますねぇ。あんな巨大な鉄の塊が飛んでいることが不思議なんですから」

「でも、機長やキャビンアテンダントたちは、いかに飛行機が安全か、なぜ飛行機は揺れることはあっても落ちないということを理解しているので、動じないのだと思います。投資も同じで長期的に投資を続ける中で、一定の揺れは必ずやって来ます。それを乗り越えるのに必要な知識の1つが資本主義への理解です。その知識が投資で君が成功する確率を上げることになります」

「先生、わかりました。資本主義の仕組みを理解することが、投資の基礎中の基礎でそれでうまくいくのであればできる限り付いていきます。資本主義のことを教えてください」