(1)インデックス・ファンドの対談で
先日、「投資信託にだまされるな!」(ダイヤモンド社)の著者、竹川美奈子さんとインデックス・ファンドへの投資をテーマに対談した。対談は、後日、楽天証券のホームページに掲載される予定なので、詳細はそちらをご一読いただきたい。
対談では、インデックス・ファンドのメリットとして、(1)分かりやすさ(特に過去のデータの検証が容易)、(2)行き届いた分散投資(目標とする指数によるが、おおむねよく分散されている)、何といっても(3)手数料の安さ、を挙げた。アクティブ・ファンドに対しては、(A)運用成績の平均がインデックス・ファンドに劣り、(B)どのファンドの運用が優れているか「事前」には分からないので、(C)高い手数料を払ってまでアクティブ・ファンドを買える理由はない、と言った。どのように文章化されているか分からないが、これは、私の意見というよりも、事実なので、他に言いようがない。
対談の終わり頃、聞き手役のライターさんに「元ファンド・マネジャーとして、アクティブ・ファンドに対する個人的な思いのようなものはありますか?」と質問された。その場で思い出を語ったわけではないが、この言葉をきっかけに、アクティブ・ファンドを担当していた頃の自分の運用を思い出した。
(2)私のアクティブ運用経験
私が一担当者としていくつかのアクティブ・ファンドを担当していたのは、1986年から1991年だ。年齢にして27歳から33歳の頃だ。
最初に担当したファンドは、バランス型の投資信託だった。国内債40%、国内株式40%、外債10%、外国株10%くらいのアセット・アロケーションを標準とする公募の投資信託だった。この時の運用戦略は、外債を多めに(20%くらい)買うことと、日本株部分については一般のファンド・マネジャーが好む人気銘柄をアンダーウェイトすることだった。最近、個人投資家の運用で外債は不要だと述べることが多いので、私は「外債嫌い」だと思われることがあるらしいのだが、運用にあっては実は外債好きなのだ。
ただし、「高金利のインカム収入を狙って為替リスクを我慢する」というような当時の生命保険会社のような運用をしていたのではなく、為替を将来の金利分も含めたフル・ヘッジにして長期債と短期金利の金利差を取りに行きながら金利低下のキャピタル・ゲインも狙うというのが当時の戦略だった。これらの戦略はなかなか上手く行って、同時期に設定された他社の投資信託数本との比較で(新聞には横並びで基準価額が載っていた)10%以上の差を付けることができて、ファンド・マネジャーとしては気分のいいスタートを切ることができた。この頃、設定時期の異なる同種のファンドを合計3本運用したが、結果は悪くなかった。
次のアクティブ・ファンドはある外銀の年金資金の一部を預かって日本株で運用するファンドだった。ベンチマーク(TOPIX)を上回るリターンを目指す標準的なアクティブ・ファンドだが、ベンチマークに対するリスクをコントロールしながら、外国の顧客に説明の付く運用をしなければならなかった。この時に使った戦略は、アーニング・サプライズ(正確には収益予想改訂のサプライズ)とネグレクティド・ファーム・エフェクト(Neglected Firm Effect;無視されている銘柄のリターンが高い現象)を組み合わせたストック・ピックでプラスα部分を作り、これを組み込みながら、ベンチマークに対するリスクの小さなポートフォリオを最適化計算で作るといった運用戦略を使った(詳しくは拙著「ファンドマネジメント」金融財政事情研究会、の第16章をご参照下さい)。
これもなかなか上手く行った。計算通り、あるいは計算以上のアクティブ・リターンを4年間(後半は担当者が交替したが、運用のレシピは同じ)毎年安定的に稼いでくれた。東証二部や地方単独上場銘柄も含めて、地味な小型株を組み込みながらTOPIXに対する推定トラッキング・エラー(相対的なリスク)をコントロールする一風変わったポートフォリオだった。
マルチファクター・モデルと呼ばれるツールを使ってポートフォリオのリスクを計測したり最適化計算を行ったりするのだが、ストック・ピック(個別の銘柄選択のこと)のプロセスは人間が手作り的に判断している。コンピューターをかなり使うので、これをクオンツ運用だと称する人もいたが、私は「クオンツ」であるかないかはあまり本質的なことではないと思っている。コンピューターなりソフトウェアなりは単なる道具であって、運用の思想や戦略ではない。プロのファンド・マネジャーは、ポートフォリオのコントロールのためには、こうしたツールを自分で使いこなす必要があり、これができないファンド・マネジャーは単にスキルが劣るだけのことだ。もっとも、このスキルは期待リターンの大きな高低に影響を与えるようなものではないので、こうしたスキルがなくても、ファンド・マネジャーとしての「ごまかし」は利く。