等株ウェイト型と時価総額ウェイト型

インデックス(株価指数)は、何に使うかという目的によって評価されるべきものだが、インデックス・ファンドの元になるポートフォリオとしてこれを評価する場合、気になるのは銘柄のウェイト付けの方法だ。

アクティブ・ファンドのファンドマネジャーが運用について考える場合にも、真に重要なのは銘柄のウェイト付けだ。よく、銘柄数の多いファンドを称して「○○○銘柄も持っているともうインデックスと同じで差がつかない」と言う半可通の証券マンが(時には大学教授も)いるが、これは運用に対して無理解だとしか言いようがない。銘柄は同じでも、ウェイトの付け方の違いによって、ファンドの性格は大きく変わるし、リターンにも大きな差がつく。特に金額が大きなポートフォリオになると、東証一部上場の時価総額が大きな銘柄は大半のファンドがファンド内に組み入れることになる。ファンドマネジャーの腕の見せ所はウェイトの付け方だ。「銘柄選択」だけに気を取られているのでは不十分だ。

ウェイトは、個々の銘柄がポートフォリオ全体のリスクと期待リターンに与える影響によって決まる。形式的に言うと「個々の銘柄の増減がポートフォリオ全体の目的関数に与える影響が均等になるように、全ての銘柄のウェイトを調整せよ」というのが銘柄ウェイトの決め方だ。

余談ながら、銘柄のウェイト付けに関して、言っていることと現実にやっていることの辻褄が合っているかどうかをチェックすると、ファンドの定性評価、特にファンドマネジャーの能力評価の際に有効だ。投資銘柄を選んだ理由は、素人でも説明できるが、銘柄のウェイトがどのように決まっていて、それが適切なのだ、ということはプロでないと説明できない。

ただ、プロのファンドマネジャーであっても、「何となく銘柄を選んで、何となくウェイトを決めている」といった仕事ぶりの人が少なくない。いい加減と言えばいい加減だが、「いい加減」で生じた誤差が結果的にプラスに働くこととマイナスに働くことが大雑把には半々なので、力が入らないのかも知れない。但し、プロとしては、自分のポートフォリオについて一貫性を持って語ることができないのでは物足りない。

さて、本題に戻ると、インデックス・ファンドの元になるインデックスは、現存するポピュラーなものとしては、等株数ウェイト型のものと時価総額ウェイト型のものの二通りがある。日本株の場合、近年は全くの等株数ではなくなったが日経平均は前者、TOPIX(東証株価指数)は後者のタイプだ。

前者のタイプは、株価が高い銘柄に過大なウェイトが集まりやすく、ポートフォリオとしてのバランスが悪いことが主な難点で、中身が分かりやすくて複製が容易であることが長所だ。思い切って結論づけると、等株数型のインデックスは、先物・オプションなどの原資産に向いているが、資産形成のためのインデックス・ファンドには向いていない。

他方、時価総額ウェイト型のものは、市場に参加している投資家全体の手数料を除くパフォーマンスを代表していることや、ファンドの金額が大きくなっても運用に無理がかかりにくいという意味で、インデックス・ファンドの原指数、あるいはパフォーマンス評価の際に使用するベンチマークに向いている。

等ウェイトという手もある

インデックス・ファンドの元になるインデックスとしては、現実には時価総額ウェイト型のものがポピュラーなのだが、ポートフォリオのウェイト付けは必ずしも時価総額加重でなければならないということはない。

時価総額ウェイトのポートフォリオの主な欠点は、人気が過熱して時価総額が膨らんだ銘柄に対して過大なウェイトを与えかねないことだ。投資家が企業の成長性を常に正しく評価できるなら、株価の上昇に伴う時価総額のウェイトを使ってもいいのだが、企業が過大評価されているときに大きなウェイト、過小評価されているときに小さなウェイトを持ち勝ちになる傾向があることは否めないし、運用の観点からは気持ちのいいものではない。具体的な銘柄名は挙げないが、2000年の春に終わったネットバブルの頃のいわゆる「IT銘柄」の時価総額を考えてみて欲しい。

インデックスが何を表すための「指標」なのかということを考えると、必ずしもそのウェイト付けは時価総額でなくともよい。

最近、目についた例では、スタンダード・アンド・プアーズ社が発表している等ウェイトのS&P500インデックス(以下「SP EWI」)のパフォーマンスが印象的だ。

これはS&P500の銘柄を全て0.2%の等ウェイトで保有したとして計算されるインデックスで四半期毎にリバランスされる。1990年の年初から2007年末までのリターンと標準偏差は、「S&P500」が10.5%、13.7%であるのに対して、「SP EWI」は12.0%、14.8%だという(いずれも年率。数字の出典は文末に掲載した参考文献)。実際のファンドの場合、リバランスに際して手数料が掛かるが、計算上の年率1.5%のアウトパフォームは十分に魅力的だ。

二つのインデックスを相対比較すると「SP EWI」は、時価総額の小さな銘柄の相対的なウェイトが高くなることもあり、ポートフォリオ全体のリスクが少し大きくなっている。

「等ウェイトでリバランスする」というやり方は、古い投資家には懐かしいものかも知れない。通称「等金額リバランス」という方法で、四半期・毎月といった一定間隔でこれを行う方法は古くからあり、フォーミュラ・プラン(俗に言う「システム運用」)の手法としてポピュラーだし、投資信託で商品化されてもいる。

投資手法としての等金額リバランスが掲げるお題目は、値上がりした銘柄を利食い、値下がりした銘柄を買い増す逆張り運用ということで、リターン・リバーサル狙いの運用の一種だ。

ファンダメンタル・インデックス

銘柄のウェイトを売上やキャッシュ・フローなどファンダメンタルな数字によって決めようとする方法も試みられている。ロバート・D・アーノットらが開発した「RAFI米国大型」(「RAFI」はリサーチ・アフィリエイツ・ファンダメンタル・インデックス)は、同じ1990年から2007年にかけての同期間のリターンが12.9%、年率のボラティリティが13.2%と「SP EWI」よりも更に好成績だ。

詳しくは参考文献を参照していただきたいが、彼らは、売上高・キャッシュ・フロー・株主資本・配当の4つの指標の合成指標で企業のファンダメンタルな規模を定義して、この規模で銘柄をウェイト付けしてインデックスを作っている。

基準としているものの内容から想像できるが、時価総額ウェイトのインデックスと比較するとPSR、PCFR、PBRがそれぞれ小さくて配当利回りが高い銘柄に相対的に大きなウェイトを与えることになるので一種のバリュー運用的な効果がある。

等金額インデックスと比較した場合に、企業の規模に応じたウェイトになるので、ファンド金額が巨大化した場合のインデックス運用がより容易だという長所もある。

また、使用する指標を明確に定義しておくと過去に遡ってインデックスを計算することもできるので、実際の運用のための運用計画を作る上でもデータに困らない。

あるべき企業価値を表す指標として何がいいかということや、リバランスの方法なども含めていくつか試してみたい改良のアイデアがあるが、魅力的なアプローチの一つだと思う。

個人的には、条件が整えば(データと人手、つまりコストが必要だ)、個人投資にとって利用価値のある同類のインデックスを作ってみたいと思っている。

(注)参考文献
ファンダメンタル・インデックス』ロバート・D・アーノット、ジェイソン・C・スー、ジョン・M・ウェスト著、野村アセットマネジメント訳、東洋経済新報社刊(2009年5月14日)。