株式投資は、自分の投資を「ポートフォリオ」全体として把握できるようになると、楽しみが拡がるように思う(筆者が思うだけかも知れないが)。もちろん、プロのファンドマネジャーの場合は、そのような把握ができなければ職業人失格だ。

ポートフォリオ把握の一つのサンプルとして、日経平均を取り上げる。日経平均は日本経済新聞社が選んだ225銘柄を基本的には50円額面換算で1単位ずつ保有するポートフォリオだ。日本経済新聞社独特の「みなし額面」が使われているので、銘柄によっては、1000株ではなく、2000株や3000株といった単位で保有していると見なされるケースが出てきたが、大まかな性格は、TOPIXのような時価総額ウェイトではなく、株価ウェイトのポートフォリオだ。従って、株価の高い銘柄が占める割合が高い。

また、日経平均には、インデックス・ファンドや株価指数先物やオプションなど、「ポートフォリオとしての日経平均」を実質的に売り買いすることができる対象が存在する。

日経平均のポートフォリオとしての特性を知っておくことは、この種の対象の売り買いにも有用だ。

なお、ポートフォリオの分析ツールとしては、株式のマルチファクター・モデルである日立製作所の「Riskscope」を用いる(データは2009年1月30日基準の週次ベースの分析を行ったものだ)。

 

リスクの要約

ポートフォリオとしての日経平均について把握するためには、まずリスクの定量的な全体像を知らなければならない。以下、特に、TOPIXとの差に注目して、日経平均の特性を紹介する。

1月30日現在のRiskscopeのトータル・リスク(ポートフォリオ全体のリスク)の推定値は日経平均が 29.44%(年率%、標準偏差。以下、リスク値については断りのない限り、同様)、TOPIXが26.65%だ。日経平均の方が動きが軽いイメージがあるが、数字もそれを裏付ける。

日経平均のTOPIXに対するβ値(ベータ値;TOPIXの変動率に対する変動倍率)は1.08である。

日経平均がTOPIXに対して持つ相対的なリスクの中で、β値が1.0と異なることに伴うリスク以外のリスクは、 5.98%だ。このうち、日経平均の業種ウェイトがTOPIXと異なることから発生している相対リスクが4.09%、日経平均の一般的特性(たとえば「企業規模」など)に起因するものが3.21%、業種や一般的な特性では説明しきれない、銘柄固有の変動に起因する相対リスクが4.68%だ。

<表1>リスクの要約


(日立製作所Riskscopeによる。分析基準日は2009年1月30日)

以上のリスク特性から計算される日経平均のTOPIXに対する「推定トラッキングエラー」は6.36%だ。

これをアクティブ・ファンドのリスク度合いとして見ると、日経平均は「かなりアクティブなリスクを取ったファンドだ」と言えるくらいのリスクの大きさになっている。

率直に言って、日経平均と同じポートフォリオを持っているとすると、ファンドマネジャーとしては、かなり居心地が悪いだろうと思える。

ポートフォリオの一般的な特性

表2で日経平均のポートフォリオとしての一般的特性を見ると(注;表の数字は東証一部の銘柄の中で基準化された標準偏差単位の平均からのズレを表す)、まず目につくのは、「市場連動性」の大きさだ(+0.55)。日経平均は、毎日の市場変動に対する短期的な変動が大きな銘柄のウェイトが高いということを意味する。銘柄の売買回転率の高さを表す「流動性」も+0.137とプラス側に寄っている。日経平均の株価指数先物・オプションが存在することに伴い、市場全般の変化に敏感に反応しやすくなっているし、裁定取引に伴って日経平均の構成銘柄が頻繁に取引されることの影響もあるだろう。

米国株の変化に対する連動性もかなり高い(+0.483)。先物があって、米国の株価変動の影響を受けやすいことと、業種として電気のウェイトが高いこと(表3参照)が反映しているものと思われる。

利益や資産に対する株価の割安性は「利益割安性」「資産割安性」共に小幅ながらマイナスであり、割安だとはいえない(各々、-0.048、-0.086)。

TOPIXとの比較で業種を見ると、「電気」と「小売り」のウェイトの高さ(+7.13%、+4.84%)、「銀行」及び「電気・ガス」のウェイトの低さ(-8.46%、-6.46%)が目立つ。

<表2>TOPIXと比較した日経平均の一般的特性


(日立製作所Riskscopeによる。分析基準日は2009年1月30日)

<表3>組み入れ業種の特徴


(日立製作所Riskscopeによる。分析基準日は2009年1月30日)

組み入れ上位銘柄と総評

日経平均をポートフォリオとして見た場合、全体の印象としては、かなり癖のあるポーフォリオだという事が分かる。

上位の投資銘柄とそのウェイトを見ると(表4参照)、当然ながら値嵩株のウェイトが高い。上位銘柄には、ファンドマネジャーが好みそうな銘柄が多いが、ウェイトの大きさは、いささか大きすぎる(ファンドの性格によって評価が多少変わるが)印象を持つ。

日経平均は、日本経済新聞社が運用する「かなり大胆なアクティブ・ファンド」だ、ということが言えそうだ。

<表4>組み入れ上位10銘柄


(日立製作所Riskscopeによる。分析基準日は2009年1月30日)

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