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ビジネスモデルとしての投資銀行の終焉
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

ビジネスモデルとしての投資銀行の終焉

2008/9/19
楽天証券経済研究所客員研究員として活躍する経済評論家・山崎元による「ホンネの投資教室」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
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9月15日に米国のリーマンブラザーズが米破産法第11条を申請し、破綻した。相前後して、バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチ買収の合意と保険大手AIGの経営危機が報じられた。これを受けて内外の株価が大幅な下落を演じるなど、混乱が発生し、本稿執筆時点でも収まっていない。

昨年夏に本格的に表面化したサブプライム問題から引き続く一連の状況は、今後に対する示唆に富む多くの教訓を含んでいると思うが、今回は「投資銀行」という業態に焦点を当てて、気づいたことをいくつかメモ的に書いてみたい。

今年に入って、ベアー・スターンズ(米国第5位)、リーマンブラザーズ(同第4位)、メリルリンチ(同3位。ブローカーとしては第1位)と投資銀行の大手の挫折が相次いで表面化した。ビジネスモデルとして見たときの米国型の投資銀行の限界が現れているのではないかというのが、本稿の問題意識の根底だ。

 

(1)なぜリーマンブラザーズは救済されなかったか

ベアー・スターンズ、AIGが救済されて、なぜリーマンブラザーズが公的資金で救済されなかったのかについて、一貫性がない、或いは影響が大きいのだから公的資金をリーマンに投入することをためらうべきでなかった、とする意見が散見される。9月17日朝刊の社説も6紙(全国紙4紙、日経、東京新聞)のうち 4紙がそういった論調だった。

しかし、(A)大原則は民間会社への税金投入はしない、しかし(B)金融システムに深刻な影響がある場合はこの限りにあらず、という原則で米当局は一貫しているように思う。

ベアー・スターンズは問題表面化から深刻化が急で検討の時間がなく(B)のリスクが残ったし、AIGは金融取引の保証(CDS:クレジット・デフォルト・スワップ)の帳尻がこの会社に多額に集中していたので、同社の破綻が銀行システムに甚大な被害を与える可能性があった。推察するに、リーマンブラザーズに関してはゴールドマン・サックス出身のポールソン財務長官は、影響の限定性を見切ると共に、リーマンブラザーズのような会社を税金で救済することのモラル上の問題を熟知していたのだろう。彼は、リーマンについて公的資金の投入を考えたことは「一度もない」と言明した。

たとえば、サブプライム問題の原因となった不動産関連の証券化ビジネスにあっても、リーマンブラザーズは大きなリスクを取ってビジネスを展開し、問題表面化までは、大いに稼いでいたはずだ。このビジネスの担当者も経営者も、そこから大きな成功報酬をボーナスなどの形で得ていたはずだ。これで、ビジネスが不調に陥った場合に政府に救済されるということなら、リスクの過剰な拡大を誘発してしまうだろう(いわゆる「モラル/ハザード」の問題だ)。

(2)投資銀行ビジネスモデルの弱点

リーマンブラザーズのような投資銀行のビジネスモデルでは、(1)市場から資金を調達し、(2)多くの場合レバレッジを掛けて、(3)リスク商品への投資/トレーディングを行う、というものだ。加えて、(4)トレーダーから経営者に至るまで、成功報酬のシステムで処遇されるので、彼らには、取れる限り最大限のリスクを取る経済合理的なインセンティブがある。

成功報酬制度は経済的には「コール・オプション」なので、ボラティリティー、つまりリスクが大きいほど価値が上昇する。すなわち、投資銀行型のモデルにあって、リスクは可能な限り上限まで拡大する傾向がある。つまり、経営基盤のしっかりしている投資銀行は、その基盤が許す限り最大のリスクを取ろうとするので、投資銀行は大きくても、小さくても、一つの失敗で一気に危機に至る性質を持っている。

従ってプレーヤー(担当者)レベルでも会社をごまかしてより大きなリスクを取りたいというインセンティブが働くし、経営者も成功報酬なので、会社が大きなリスクを取ることで自分の持っているオプションの価値が上がる。

ここでリスクをごまかすための小道具が、リスク評価の難しい証券化商品のようなものを作り出す「金融工学」や、土地は値下がりしないとか、ネット企業は無限に成長するといった「○○神話」の類だ。

金融工学やその産物であるデリバティブは建前上、リスクをヘッジし、制御する手段だということになっているが、使用者の利害を金融工学的に理解すると、これがむしろリスク拡大の手段に使われがちであることが、容易に理解できるはずだ。プレーヤーは資本家から、リスクの形で富を盗み出すのだ。リスクと価値が交換可能であることは、オプションの初歩が理解できれば分かることだ。

「『個人』を制御することが難しくて、リスクが過大に拡大する傾向があること」が投資銀行ビジネスモデルの第一の弱点だ。

加えて、成功報酬というオプションが行使される期間が1年で、将来大損をしても、過去の報酬を返さなくてもいい点にも、問題がある。将来の損失の可能性と引き替えに、1年だけ収益を膨らませることができると巨額の報酬が手に入る。しかも、多くの場合、利益の評価は在庫の時価評価に基づいて行われる。この場合、自分のトレードが価格を一時的に動かすことができれば、将来のリスクと引き替えに、1年分の好業績を手に入れることが出来る。ALM(アセット・ライアビリティー・マネジメント)風に言うと、株主の利益と社員個人(しばしば経営者も含まれる)の利害のセッティングに、期間のミスマッチが存在するのだ。

この第一の弱点に関しては、かつてのゴールドマン・サックスのような基本的に無限責任のパートナーシップ制の経営体であれば、投資銀行のオーナーとプレーヤー(社員)の利害のミスマッチにある程度対処することができるだろう。

しかし、大きな資本の必要性と株式によって調達した他人の資金を使うことのプレーヤー(経営者を含む)にとっての魅力もあってか、今や、大手投資銀行は株式を上場している。この形を取ることで、現代の投資銀行は、プレーヤーが資本家をカモにする舞台装置となった。

また、特に米国型の投資銀行のビジネスモデルでは、市場から比較的短期の資金を大量に調達している。今回のリーマンブラザーズのように業績が悪化した場合や、市場からの信用が低下した場合には、直ぐに資金コストが上昇しやすいし、資金調達自体が難しくなる。これが、直接的には、今年に入ってから、全米3、 4、5位の投資銀行が吸収されたり、消えたりした原因だ。

投資銀行と比較すると、商業銀行は、預金という比較的安定的な資金源を持っている。

たとえば、メリルリンチが大手商業銀行であるバンク・オブ・アメリカに吸収されると、投資銀行としてのメリルリンチは安定した資金供給源を得て一息つくことになるかも知れないが、さて、金融システムとしては、それでいいのだろうか、というのが次の問題だ。ギャンブラー達を銀行の金庫の中に呼び込んでも大丈夫なものなのだろうか?

(3)ユニバーサルバンクは大丈夫なのか

答えは明らかだ。大丈夫なはずがない。

欧州の大手銀行には、投資銀行業務を併営するユニバーサルバンクが複数あるが、今回、サブプライム問題では、いくつかの銀行が巨額の損失を抱えた(まだ全てが表面化していないかも知れない)。

こうした銀行の幾つかでは、トレーディングやリスク商品への投資といった投資銀行業務に、商業銀行本体やプライベートバンキングで築いたクレジットをいいように使われてしまっているのではなかろうか。

リーマンブラザーズを経済倫理の原則通りに処置できるかどうかを決める際に問題となったのは、銀行システムへの影響の多寡だったはずだ。投資銀行という「限度(以上)までリスクを拡大する装置」を、マネーセンターバンクの中に取り込むということは、最悪の場合、金融システム全体が危機に晒されるようなリスクを取り込んだことになっているのではないだろうか。

技術的・情報的に先端の分野を収益の源にすることが避けられない以上、投資銀行ビジネスで、プレーヤーの行動も含めたリスクを完全に制御することは不可能だ。

サブプライム問題の深化に伴う世界的な金融業界再編では、投資銀行は商業銀行に吸収されるか、或いは投資銀行の側が金庫代わりの商業銀行を手に入れるかする公算が大きい。投資銀行の個々のプレーヤーにとっては、他人のお金で大きなリスクを取ることができて、稼いだ場合にボーナスを弾んでくれるなら、お金の出し手はだれでもいい。また、欧州の大手ユニバーサルバンクは、すでに自行内に十分にリスキーな規模の投資銀行部門を抱えている。

こうした経営体の存在は、金融システムの根幹に、投資銀行的なリスク(限界を破って拡大しようとするリスク)を深く取り込んでしまったことを意味するのではないだろうか。

日本の過去数十年の金融行政は、銀行を大切にして、銀行の収益源を強化し、日本にもユニバーサルバンク的な銀行を作り上げて、これを世界レベルで競争させようとしてきたように思われる。大手銀行は、いろいろな形で、今一つ様にならないながらも、証券業務を手掛けてきた。今のところ、世界の金融界に向かって、これが日本の投資銀行だと言えるようなものは完成していないが、これが完成することは、将来の金融システムにとっては恐ろしいことだろう。

日本でも、世界でも、投資銀行的なリスクを銀行システムの根幹からどう隔離するかについて、真剣な検討が必要だろう。

本資料は情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。本資料の情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本資料の記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本資料の記載内容は、予告なしに変更することがあります。

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