固体高分子膜(PEM)水電解装置を使うグリーン水素製造や燃料電池にはプラチナが触媒として重要な役割を果たしている。我々の推測では、天然ガスの代わりにグリーン水素が、そして内燃機関車の代わりに燃料電池自動車が使われれば、パリ協定に定められた炭素排出削減目標量の11%を2030年までに達成することが可能となる。

 プラチナは長年にわたって内燃機関を使う自動車の有害排気物を軽減し、工業では触媒として生産高を増やし燃料効率を上げることで炭素排出の軽減に役立ってきた。またプラチナは再生可能エネルギーを使ってグリーン水素を製造する固体高分子膜水電解装置の触媒や燃料電池にも使われ、燃料電池自動車、非常用や僻地の発電に役立っている。

 このように幅広く利用されているプラチナは、世界の燃料消費ネットゼロの達成において不可欠な材料で、炭素排出軽減に貢献できる可能性は非常に大きく、その重要性は今後も変わらない。

 プラチナ生産の鉱山採掘・製錬・精錬過程の炭素排出量を差し引きしても、天然ガス・ガソリン・ディーゼルの代わりに、プラチナを使う装置で製造されたグリーン水素を使うことで、炭素排出の軽減が達成できるのだ。

 パリ協定では、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるためには2020年から2030年の間に炭素排出量を年平均7.6%減らさなければならず、さらに気温上昇を2度に抑えるためには炭素排出量を年平均2.7%減らさなければならない。

 2020年の世界の炭素排出量は34.2ギガトンであったことを考えると、気温上昇を1.5度に抑えるには18.7ギガトン、2度に抑えるには8.2ギガトンもの炭素排出を軽減しなければならない。

固体高分子膜水電解装置と燃料電池自動車によって炭素排出を大幅に軽減でき、国連が掲げる2030年までの炭素排出軽減目標に実質的な貢献ができる

資料:WPICリサーチ、 燃料電池自動車による炭素排出軽減は100%考慮してあるが、固体高分子膜水電解装置による炭素排出軽減は、重複を避けるために燃料電池自動車に使われる水素の分を差し引いた

固体高分子膜水電解装置と燃料電池自動車のプラチナ需要は2030年までに世界のプラチナ需要に影響を与え、2040年までには最大の分野となる可能性

資料: 2022年はメタルズフォーカス(総需要), 2023年以降はWPICリサーチ

 全世界の水電解装置プロジェクトを網羅した国際エネルギー機関(IEA)のデータベースを使うと、再生可能エネルギーを使う固体高分子膜水電解装置が製造するグリーン水素の量は、そのマーケットシェア(31%から96%)にもよるが、2030年までに年間900万トンから2,900万トンになる。

 もしもこのグリーン水素全てを天然ガスの代わりに使うとしたら、2030年までの炭素排出削減量は合計0.18ギガトンから0.58ギガトンとなる。暖房や工業での天然ガスからの転換は早く進むだろうが、より多くの炭素排出を削減できるのは内燃機関車から燃料電池自動車への転換が進み、それによってガソリンやディーゼルによる炭素排出が減ることだ。

 仮に2030年までに製造されるグリーン水素の約40%が燃料電池自動車に使われるとしたら、我々のシナリオ分析によると削減できる炭素排出量は全体で0.24ギガトンから0.63ギガトンの範囲で増え、これはパリ協定にある世界平均気温の上昇を1.5度に抑えるために必要な炭素排出軽減量の1%、あるいは2度に抑えるために必要な軽減量の11%に相当する。

 そして水電解装置と燃料電池自動車による2030年のプラチナ需要は、固体高分子膜水電解装置のシェアにもよるが、49.8トンから74.6トンとなる。 

 固体高分子膜水電解装置でのグリーン水素の製造、燃料電池自動車でのグリーン水素の利用にはプラチナが重要な役割を果たす

 天然ガスに代わってグリーン水素を、内燃機関車に代わって燃料電池自動車を使えば、全体の炭素排出量はパリ協定で定められた2030年までの目標量の11%まで軽減できる

投資資産としてのプラチナの魅力:

- 新たな金属鉱山への投資にもかかわらず、向こう3年間の供給は大幅に制限されている。
- プラチナ価格は依然として過小評価されており、金とパラジウムと比較しても大幅に低い。
- 自動車のPGM需要は排ガス規制の厳格化により今後も成長。
- プラチナとパラジウム市場の需給バランスと価格のミスマッチが代替としてのプラチナ需要を加速。
- 機関投資家需要は2年続いた歴史的高水準から若干弱まっているが価格とファンダメンタルズは依然として良好

図1:増設される水電解装置のうち、固体高分子膜水電解装置は31%というのが我々の基本シナリオだが、IEAのデータベースでは96%まで可能としている。しかしイリジウムの供給が限られるため、アルカリ電解装置が増えるかもしれない

資料:IEA, WPICリサーチ, 注. 固体高分子膜水電解装置に使われるイリジウムは現状においては2030年までは供給量に支障を生じない

図2:水素製造における固体高分子膜水電解装置とアルカリ電解装置の割合は不確定だが、燃料電池自動車の水素需要の推測には両方の合計で十分

資料:WPICリサーチ

図3:我々の燃料電池自動車の炭素排出軽減量分析は、ガソリンとディーゼルに対する水素の燃料容量を使っているが、実際の軽減量*は燃料効率と、燃料電池自動車に置き換えられる内燃機関車の大きさによる

資料:WPICリサーチ

図4:実際の炭素排出軽減量*は、非常に大きな数字となり、我々の控えめな推定量は削減可能な量の下限の数字となる

資料:WPICリサーチ

図5:固体高分子膜水電解装置とアルカリ電解装置のシェアの割合によって炭素排出量の削減幅は大きく増える

資料:WPICリサーチ

図6:世界の平均気温上昇を1.5度あるいは2度に抑えるため、国連は2030年までの炭素排出量軽減目標を定めた。プラチナベースの固体高分子膜水電解装置と燃料電池自動車はこの目標達成に大きな貢献を果たす

資料:国連、WPICリサーチ

免責条項:当出版物は一般的なもので、唯一の目的は知識を提供することである。当出版物の発行者、ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルは、世界の主要なプラチナ生産会社によってプラチナ投資需要発展のために設立されたものである。その使命は、それによって行動を起こすことができるような見識と投資家向けの商品開発を通じて現物プラチナに対する投資需要を喚起すること、プラチナ投資家の判断材料となりうる信頼性の高い情報を提供すること、そして金融機関と市場参加者らと協力して投資家が必要とする商品や情報ルートを提供することである。

 当出版物は有価証券の売買を提案または勧誘するものではなく、またそのような提案または勧誘とみなされるべきものでもない。当出版物によって、出版者はそれが明示されているか示唆されているかにかかわらず、有価証券あるいは商品取引の注文を発注、手配、助言、仲介、奨励する意図はない。当出版物は税務、法務、投資に関する助言を提案する意図はなく、当出版物のいかなる部分も投資商品及び有価証券の購入及び売却、投資戦略あるいは取引を推薦するものとみなされるべきでない。発行者はブローカー・ディーラーでも、また2000年金融サービス市場法、Senior Managers and Certification Regime及び金融行動監視機構を含むアメリカ合衆国及びイギリス連邦の法律に登録された投資アドバイザーでもなく、及びそのようなものと称していることもない。

 当出版物は特定の投資家を対象とした、あるいは特定の投資家のための専有的な投資アドバイスではなく、またそのようなものとみなされるべきではない。どのような投資も専門の投資アドバイザーに助言を求めた上でなされるべきである。いかなる投資、投資戦略、あるいは関連した取引もそれが適切であるかどうかの判断は個人の投資目的、経済的環境、及びリスク許容度に基づいて個々人の責任でなされるべきである。具体的なビジネス、法務、税務上の状況に関してはビジネス、法務、税務及び会計アドバイザーに助言を求めるべきである。

 当出版物は信頼できる情報に基づいているが、出版者が情報の正確性及び完全性を保証するものではない。当出版物は業界の継続的な成長予測に関する供述を含む、将来の予測に言及している。出版者は当出版物に含まれる、過去の情報以外の全ての予測は、実際の結果に影響を与えうるリスクと不確定要素を伴うことを認識しているが、出版者は、当出版物の情報に起因して生じるいかなる損失あるいは損害に関して、一切の責任を負わないものとする。ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルのロゴ、商標、及びトレードマークは全てワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルに帰属する。当出版物に掲載されているその他の商標はそれぞれの商標登録者に帰属する。発行者は明記されていない限り商標登録者とは一切提携、連結、関連しておらず、また明記されていない限り商標登録者から支援や承認を受けていることはなく、また商標登録者によって設立されたものではない発行者によって非当事者商標に対するいかなる権利の請求も行われない。

WPICのリサーチと第2次金融商品市場指令(MiFID II)

 ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(以下WPIC)は第2次金融商品市場指令に対応するために出版物と提供するサービスに関して内部及び外部による再調査を行った。その結果として、我々のリサーチサービスの利用者とそのコンプライアンス部及び法務部に対して以下の報告を行う。

 WPICのリサーチは明確にMinor Non-Monetary Benefit Categoryに分類され、全ての資産運用マネジャーに、引き続き無料で提供することができる。またWPICリサーチは全ての投資組織で共有することができる。

1.WPICはいかなる金融商品取引をも行わない。WPICはマーケットメイク取引、セールストレード、トレーディング、有価証券に関わるディーリングを一切行わない。(勧誘することもない。)

2.WPIC出版物の内容は様々な手段を通じてあらゆる個人・団体に広く配布される。したがって第2次金融商品市場指令(欧州証券市場監督機構・金融行動監視機構・金融市場庁)において、Minor Non-Monetary Benefit Categoryに分類される。WPICのリサーチはWPIC のウェブサイトより無料で取得することができる。WPIC のリサーチを掲載する環境へのアクセスにはいかなる承認取得も必要ない。

3.WPICは、我々のリサーチサービスの利用者からいかなる金銭的報酬も受けることはなく、要求することもない。WPICは機関投資家に対して、我々の無償のコンテンツを使うことに対していかなる金銭的報酬をも要求しないことを明確にしている。

 さらに詳細な情報は WPICのウェブサイトを参照。

 当和訳は英語原文を翻訳したもので、和訳はあくまでも便宜的なものとして提供されている。英語原文と和訳に矛盾がある場合、英語原文が優先する。