前二回では、インデックス・ファンドの運用結果に関する評価をどのようにしたらいいかという問題を考えた。詳しくは前二回の拙稿を読んでみて頂きたいが、「インデックス・ファンドはトラッキング・エラーの大きさだけ見ていればいいのだから、評価は簡単だ」(時々聞く俗論だが、驚くべきことに、かつてある年金コンサルタントの口からも聞いたことがある)というようなものではない。

さて、これから投資すべきインデックス・ファンドを選ぶという立場に立って、気を つけておくべきポイントを考えてみたい。

(1)ファンドの規模

運用成績以外のファンドの特質で第一に見ておくべきは、ファンドの規模だろう。ターゲットとするベンチマークにもよるが、資金規模が十分にないと、ベンチマークのリターンを再現する上で制約になることがある。たとえば、配当の再投資という状況はほとんどのインデックス・ファンドで生じるが、やっとベンチマークを模するポートフォリオができたという程度の資産規模では、配当を再投資することによって、ベンチマークからのズレができてしまう。もちろん、正確なトラッキングのためには、配当も含めて、現金の手持ちはできるだけ小さくする必要がある。キャッシュ・ポジションが極限まで小さく保たれているという点は、パフォーマンス上、インデックス・ファンドがアクティブ・ファンドに対して優位に立つことが多い原因の一つだ。

規模については、資金の流出入との関係も見ておきたい。資金の流出入に対してファンドの資産規模が小さいとポートフォリオが不安定になる。資金流入とファンドの規模を較べる指標及び、これらをファンド規模と総合評価する指標は、直ちには思いつかないが、共に重要なポイントだ。「資金の安定性」という概念を導入すべきかも知れない。

ファンドの規模が十分大きくて、資金の流出入に関しては、安定的に増加傾向といった状態が理想的だろう。

通常の公募の投資信託であってもETFであっても、資金規模が小さい場合、ファンドが償還される心配をしなければならない場合がある。ファンドが償還されると、また新たにコストや手間を掛けなければならない。

(2)バイアス・リターンの内訳と傾向性

「バイアス・リターン」とはインデックス・ファンドのリターンとベンチマークのリターンの差で定義されるリターンのことを指す(筆者がとりあえず名付けたもので一般に通用する用語や学術用語ではない)。インデックス・ファンドの場合、バイアス・リターンは0が理想で、ブレが少なく、且つマイナスへの偏りが小さいものの方がインデックス・ファンドの運用としては優秀だ。

前回、前々回と、バイアス・リターンの数量的な評価方法について考えたが、バイアス・リターンの現れ方を子細に観察すると、総合的な数量評価以上の情報が得られる場合がある。

たとえば、ファンドの運用開始初期に大きな絶対値のバイアス・リターン(通常はマイナス)が生じた場合、これは、ポートフォリオを作る時期に掛かったコストやポートフォリオの一時的な歪みの影響であることが分かるので、資産規模が大きくなって資金の流出入が安定してきた後では、あまり気にする必要がないだろう。また、バイアス・リターンの変化が、大きな資金の流出入に対応している場合など、ファンドの事情との関連が理解できる場合もある。

一方、バイアス・リターンにある程度続く傾向性がある場合、その背景が問題になる場合がある。たとえば、ファンドの規模が小さくてベンチマークの全銘柄を組み入れずに時価総額の大きなものに運用が偏っている場合、株式市場での大型株の相対パフォーマンスにインデックス・ファンドのリターンが影響される場合がある。ベンチマーク・リターンとのプラス・マイナスを見た場合に、「勝ち、勝ち、勝ち、勝ち、…。負け、負け、負け、負け、…」といった具合に、勝ち・負けのパターンがランダムでない場合、背景にある事情を想像してみるべきだろう。もっとも、ランダムなパターンの中にも、連勝・連敗は確率的に十分起こりうるので、この点の判断は簡単ではない。ファンドの評価者は、一本一本丁寧に見てみるべきだろう。

投資家の立場から見て、バイアス・リターンは、「運用に起因するもの」と「ファンドの手数料」に分解できる。また、前者はさらに、「ある程度固定的なバイアス・リターンの傾向性」(たとえばファンド内で掛かる売買手数料のようなもの)と「バイアス・リターンのランダムなブレ」に分解できるだろう。

投資家から見るといずれもマイナスの要素だが、ファンドの手数料は「絶対的かつ安定的なマイナス要因」、固定的なバイアス・リターンは「改善の可能性はあるが、手数料並みにマイナス評価すべき要因」、ランダムなブレは「好ましくないが、実害はあまり大きくないもの」と言えるだろう。前回論じた効用関数型の評価尺度のリスク拒否度は、前二者とランダムなブレとの間のマイナス評価のちがいを調節するものだといえる。

ファンドを選択するに当たっての問題は、手数料(主に信託報酬)とバイアス・リターン(取りあえず、平均で見ることにする)の評価だ。

「どのくらい?」という問題は難しいが、手数料の方が若干重く見るべきマイナス要因ではあろう。

(3)ETFの場合に注意すべきこと

インデックス・ファンドに投資する場合、現在、ETFは有力な選択肢だ。ETFを評価する際に注意すべきポイントを挙げておこう。

ETFは上場株式と同様に取引所で売買されるが、売買が活発なものとそうでないものがあり、また、株式と同様に上場廃止のリスクがある。ETFが本格的に導入されてからまだ日が浅いが、傾向として、ETFの資金流入と売買は、人気のあるものに集中する傾向があり、不人気で資産額が小さいETFには将来の上場廃止の心配が常につきまとう。上場廃止の場合、大雑把にいうと純資産額で強制的に買い取られることになるので、運用が適正に行われていれば投資家が大きな損を被るわけではないが、余計な手間と、再投資のコストが必要になるし、償還から再投資まで時間が空くと機会損失が生じる点も問題だ。

ETFの場合、一般の公募の投信以上にファンドの資産規模に注意を払う必要があるし、市場での出来高・売買代金についてもよく見ておく必要があるだろう。

また、一口当たり純資産(通常Net Asset Valueを略して「NAV」と呼ばれる)と市場でつく取引価格の乖離とその安定性についても注意が必要だろう。たとえば、一定期間の平均的な乖離率の大きさと、最大の乖離率の大きさは見ておく方がいいだろう。

内外共にETFの数は多く、且つ増えつつあるが、全てのETFが安心して投資できる対象だと言い切れる訳ではない。運用状態と共に、ファンドとしての継続性や換金性に関わる特性もよく見て投資対象を選ぶべきだろう。

(4)インデックス自体の評価

年金基金のような機関投資家の場合は、運用のベンチマークに何を選ぶかという問題は比較的はっきりしていることが多いし、検討にも時間が掛けられている。一方、個人投資家の場合は、たとえば日本株に投資する場合であっても、TOPIXに連動するファンドがいいのか、日経平均に連動するファンドがいいのか、といった、ベンチマーク選択の問題が重要だ。

将来のパフォーマンスはどの株価指数がいいかを当てることは極めて難しいが、投資対象ポートフォリオとして考えた場合のベンチマークの優劣は確かに存在する。

この問題を包括的に論じることは、本稿の目的範囲を超えるので別の機会にしたいと思うが、たとえば、TOPIXと日経平均を較べると、TOPIXが必ずしも理想的とは思えないが、日経平均には株価の高い銘柄のウェイトが過剰に大きく、ポートフォリオとしての安定性を欠く面があり、投資対象ポートフォリオとしては、TOPIXの方が明らかに優れている。他方、日経平均の長所は、高い知名度とリターンの複製と裁定が容易なことだが、後者の性質は、銘柄入れ替えの際にインデックス自体が下ブレしたり、少なくとも不安定になったりする要因にもなっている。TOPIXに対する連動ファンドの運用は技術的に十分成熟しており、総合的に見て、投資対象にするならTOPIX型の連動ファンドの方が日経平均連動ファンドよりも明らかにいいというのが、筆者の個人的な見解だ。

もちろん、インデックス・ファンドを選択する際には、ベンチマークとする株価指数の優劣と、ファンドの運用と商品性の優劣を総合的に評価する必要がある。

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