インデックス・ファンドにも運用成績評価の必要性が存在する。アクティブ・ファンドの運用と較べるとベンチマークに対する勝ち負けは小さいが、全く ないわけではないし、それが安定的なものも、そうでないものもある。

通常の投資信託を選ぶ場合も、ETFを選ぶ場合も、過去の運用評価を、ファンド選択に反映させる必要があるだろう。ところが、インデックス・ファンドの運用評価をどうしたらいいのかについては、投資の教科書や解説書にもはっきりした記載がないことが多いし、筆者の知る限り、満足の行く「定説」がない。

今回から何度かに分けて、投資家のファンド選択を意識しつつ、インデックス・ファンドの運用評価を中心とした、評価の方法を考えてみたい。

(1)トラッキング・エラー実績だけでいいか?

インデックス・ファンドの評価について「インデックス・ファンドの場合は、ベンチマークとの連動性だけ評価すればいいのだから、運用評価は簡単だ」という意見を聞くことがある。

ファンドとの連動性を評価するということなら、評価尺度として分かりやすいものは、「実績トラッキング・エラー」だろう。算術的には、ファンドのリターンとベンチマークのリターンの差の標準偏差だ。サンプルの大きさを考えると、最低3年くらいのデータが欲しいところだが、たとえば、過去2年のデータが全く無意味ということは ないので、この辺は柔軟に考えたい。

トラッキング・エラーは、ベンチマークに対するファンドのリターンの相対的ブレの大きさを「(年率)0.5%」といった調子で、リターンと同じ単位で比較しているので、直観的に分かりやすい。インデックス・ファンドの運用を評価する際には、何はともあれ見てみたい数字の一つではある。

ただし、例えば、トラッキング・エラーが1%のファンドAと2%のファンドBがあった場合、この点に関する評価の順位はファンドAがファンドBに勝るという理解でいいが、「ファンドBはファンドAの2倍ダメなのか?」といった尺度にまで踏み込むと、例えば、典型的な効用関数(U=r-λσ^2)を考えると、ファンドBのトラッキング・エラーはファンドAの「4倍悪い」という評価をする方が妥当だろう。

もっと大きな問題は、インデックス・ファンドのリターンに傾向性(残念ながら、多くの場合はマイナスの)があることだ。ファンドのベンチマークに対する相対的なリターンがゼロだということなら、先の意見のように、インデックス・ファンドはトラッキング・エラーで連動性だけを評価すればいいが、現実の投資を考えると、ファンドのリターン(特にベンチマークに対する相対リターン)を評価に加味する必要があるだろう。

(2)バイアス・リターンの評価

たとえば、筆者の手元にある、S&P500に連動するあるETFのデータの場合、過去1年間のリターンは対ベンチマークで+0.02%だが、過去3年間の累積では-0.34%負けており、過去5年間では-1.45%になる。さらに期間を長くとると、マイナス幅は拡大する傾向がある。実績のトラッキング・エラーは1.1%(標準偏差、年率)程度だ。

インデックス・ファンドといえども、資金の出入りに伴って売買にコストは掛かるし、配当再投資のコストもある。また、運用方法がベンチマークの全銘柄を同ウェイトで組み込む完全法ではない場合に、ベンチマークからのズレがある程度出来るのは致し方ないし、傾向としてこれがマイナスになりやすいのも仕方がない。

インデックス・ファンドの場合、ベンチマークとのリターンの差を指す用語は、通常は「アクティブ・リターン」なのだろうが、アクティブ運用を目指していないインデックス・ファンドの場合、この用語はもう一つピンと来ない。今後、もっといいネーミングを思いついたら変更するつもりだが、ベンチマークに対するバイアス(歪みの傾向性)をリターンで表したものなので、ここでは「バイアス・リターン」と呼ぶことにする。

なお、指標化は簡単ではないだろうが、バイアス・リターンの正負が一定の傾向で出ているのか、ランダムに出ているのかといったことも、インデックス・ファンドの運用を評価する場合には見ておきたい。

バイアス・リターンはマイナスのことが多いが、どの程度の大きさのマイナスなのか、マイナスの出方は安定しているのか、マイナスの原因が何なのかという点を検討しなければならない。

また、バイアス・リターンがプラスの場合にこれを肯定的に評価していいのか、という問題もある。バイアス・リターンをマイナスにしていないのは立派だといえるが、意図的に獲得したプラスのリターンではないので、これをプラス評価に加味するというのは、抵抗感があるし、たぶん適切ではないだろう。

アクティブ運用を評価する際に使われる代表的な指標はインフォメーション・レシオだ。これは、アクティブ・リターンをアクティブ・リスク(実績トラッキング・エラーを使うことが多い)で割り算して求めるもので、アクティブ・リスク1単位あたり幾らのアクティブ・リターンを稼いだかを求めるものだ。考え方は、シャープ・レシオに近く、シャープ・レシオはベンチマークをリスク・フリー資産とした時のインフォメーション・レシオだと考えておくと分かりやすい。

ところが、インデックス・ファンドのバイアス・リターンは殆どの場合マイナスになるので、マイナス・リターンの場合のシャープ・レシオの欠点と同様の欠点を抱えることになる。具体的には、同じだけのマイナスのリターンの場合、リスクが大きい方が、インフォメーション・レシオは小さなマイナスになる。直観的には、リターンがマイナスで、さらにリスクが大きい方がよりダメな運用の筈だから、使えない。

ただし、シャープ・レシオの考案者であるウィリアム・シャープは、リターンがマイナスの場合でも、そのままシャープ・レシオを評価に使っていいと言っている。確かに、リスクの水準を投資家が選べるなら、マイナスのシャープ・レシオの絶対値が小さい運用の方が好ましいと言えそうだが、少なくともインデックス・ファンドの場合、投資家がリスクの水準を意図的に選ぶことは難しい。

インフォメーション・レシオが使えないとすると、バイアス・リターンを含めた上で運用を評価する尺度として有望なのは、効用関数型の評価尺度だろう。

具体的には、U=r-λσ^2の形になる。rの部分にバイアス・リターン(幾何平均から計算されるリターンでいいだろう)、σの部分に実績トラッキング・エラーを代入する。運用者には厳しいかも知れないが、rがプラスの場合は、ゼロとして評価するのが適当だろう。

λ(ラムダ)の値が問題だが、この決め方には幾つかの方法がある。次回は、この決め方を検討してみたい。また、ファンドを評価する場合に、rの中に信託報酬をそのまま含めていいのか、別に扱うべきなのかという点でもポイントがありそうだ。

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