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株式持ち合いに関する3つの論点
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

株式持ち合いに関する3つの論点

2008/5/2
楽天証券経済研究所客員研究員として活躍する経済評論家・山崎元による「ホンネの投資教室」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
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A社がB社の株式を持ち、同時にB社がA社の株式を持つ、という関係を一般に株式持ち合いというが、同比率、同金額ではなくとも、複数の上場企業同士がお互いに株式を保有し合う現象が日本ではよく見られる。

株式持ち合いは、バブル崩壊後に持ち合い株の株価の値下がりが企業の業績にダメージを与えたことが批判されてしばらく減少した。しかし、近年、業績の改善で手元に現金ができたことに加えて、企業買収への警戒感から再び増加する傾向にある。

投資家として、株式持ち合いに対して、どう考えたらいいのだろうか。

(1)株式持ち合いのリスクとリターン

企業買収防衛など議決権に絡む問題は後で検討するとして、個々の企業にとって、株式持ち合いのメリット・デメリットを検討しておこう。

「持ち合い」といっても株式投資(保有)にはちがいないので、株式持ち合いにはリターン、リスク、コストの3つの側面がある。

コストから考えると、株式保有には、当然、資金コストがかかる。このコストとしては、株式の時価相当額の資金の機会コストを考えるべきだ。たとえば、かつて50億円で取得した他社の株式が値上がりして500億円になっているとすると、この株式の保有コストは、その企業にとっての500億円の資金コスト(借り入れがある企業の場合は借り入れコストで評価すべき)ということになる。

加えて、株式投資だから、保有している銘柄のリスクがある。これは、単一ないし少数の銘柄を保有している場合と、分散されたポートフォリオで保有されている場合では、持ち合い株全体に関しても、個々の銘柄に関しても、要求されるリターンは異なるだろう。

リスクに対する要求リターンは個々の企業の考え方、最終的には株主の判断で異なっていいが、上場企業の場合、多様な株主がいるので、分散投資されている場合でも、市場平均並みのリターンが必要だろうし、一銘柄への投資が突出して大きい場合には、たとえば十数パーセントといった大きさのリターンが期待できるのでなければ、その銘柄保有は投資として非合理的だ。

持ち合い株には、この非合理性を補うメリットがあるとする主張がある。たとえば、持ち合いを通じて相手企業から有利な取引条件(継続的取引、安定した有利な価格など)が得られるとする考えや、相手企業の経営に関する深い情報を持つことができる点にメリットがあるという考えだ。

これが正しいとすると、たとえば年間に得られるメリットを金銭換算して、株式投資として期待できるリターンに上乗せして考えることができよう。それはそれとして、経済判断として合理的だ。

ただし、この取引・情報上のメリットを主張するにあたっては注意が必要だ。仮に株式を持たれている相手に通常なら与えられないメリットが与えられているとすると、それは与えた側の企業の利益最大化に反し、同時にこれは、持ち合い相手以外の一般株主の利益に反することになる。情報に関しても同様であり、株主に対してだけ特別な条件を提供することは、商業倫理的に望ましくないことをしているのではないかという疑いを招く。株式持ち合いに関して、両社の特別な関係にメリットがあると手放しで強調することは、経営者の発言としては不用意であるかも知れない。

また、株式を保有しているのが銀行などの金融機関の場合、融資と出資の利益が衝突する場合があり、他の債権者あるいは株主との不公平の可能性もあって、別の問題が付け加えられる。

仮に、株式を持ち合っている会社同士にとって継続的な取引関係がお互いのメリットだとするなら、その場合、株式保有ではなく、契約によってお互いのメリットを確保すればいいのであって、そのために株式持ち合いが正当化されうるという主張には妥当性がない。

結局、持ち合いであろうとなかろうと、株式保有にあっては、投資の合理性の観点で、その投資が良いと言える必然性がなければならない。

(2)議決権の空洞化に関して

以上のように考えると、結局、株式持ち合いが行われる理由は、経営者に友好的な株主を確保して、企業が買収される可能性を減じることになり、株主総会で会社(経営者)側の提案が通りやすくなるといった具合に、株式の議決権に関わる利害が理由だろうということになる。

この点は、よく知られているように、複数の企業でそれぞれの企業の株式の過半数を持ち合い、経営者同士が結託すると、経営者が一般株主や今後現れうる買収者によって解任される心配がなくなり、ある意味で経営者が好きなように経営することができるようになる。

株主も含めて最初から合意して、こうした目的を持って株式持ち合いの関係を作る場合、将来とも全ての株主がこれに賛成なら構わないともいえるが、たとえば、将来、持ち合い関係の外にいる株主が経営の効率化を求めた場合に、持ち合い関係に加わっている経営者同士が結託して、これを排除するといったことが起こりうる。

持ち合いによって、株主の議決権がいわば空洞化し、持ち合い以外の株主の意見が通りにくくなり、また企業買収の可能性が低下することは、経営者へのプレッシャー一般の低下を意味し、経営効率の改善に逆行するという見方が、特に、年金基金など、機関投資家の間で有力になっている。

従って、株式を評価する場合に、議決権の空洞化によって経営者へのプレッシャーが減少していないかという点のチェックが必要だし、持ち合いの進んだ企業に関しては、企業価値の評価を引き下げる方向で調整する必要がある場合が多いだろう。

制度のあるべき姿を考えることが本稿の目的ではないが、たとえば株主総会での議決にあたって、持ち合い分は除外するといった措置が適当なのかも知れない。しかし、この場合、A社とB社が直接的に持ち合いを行うといった単純な関係ばかりでなく、A社→C社→B社に対して、B社からは、B社→D社→A社と実質的な持ち合い関係を返すような構造も考え得る。「上場企業どうしは、原則として他社の株式を保有しない」といったより強い規制が望ましいのかも知れない。

別の考え方としては、持ち合いがあることは分かるのだから、投資家はこの点について株式の評価に加味して考えるべきであり、嫌ならば売ればいい(或いは、買わなければいい)という考え方もある。しかし、この考え方では、後から持ち合いを作られた場合、一般株主が不利を被るケースが排除できない。

なかなか難しいものだ。

(3)投資家にとっての株式持ち合い

たとえば、上場会社A社が、同社の時価総額の2割に相当する金額のB社の株式を持っているとすると、A社の株式を買った投資家は、A社の事業に対して8割と、B社の事業に対して2割投資した、というような意味合いの投資を行ったことになる。

これが、たまたま投資家の希望する投資配分であれば構わないが、投資家一般としては、A社の事業、B社の事業に、それぞれ別々に、好きな投資配分で投資できた方がいい。これは、ちょうど、普通に投資することができる投資信託ばかりを組み入れたファンド・オブ・ファンズのようなもので、投資家にとっては、合理的な意味がない。

こうした意味でも、特に上場会社が他の上場会社の株式を持っているという状態は投資家にとって不便であり、「上場企業同士は、原則として他社の株式を保有しない」という原則があるといいのかも知れないが、現実には、「A社を買うと、B社もオマケに付いてくる」といった感じのセット販売(当然、オマケの値段も払わなければならない)は少なくない。

結論として、3つの論点を総合すると、上場企業が他の上場企業の株式を保有している場合、パフォーマンスがリスクに比して良好だと期待できるのでなければ、一般株主として、その投資には賛成できない。

また、現実の企業に対しては、その持ち合いの構造と事情に応じた、株式価値の割引評価が必要だろう。

本資料は情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。本資料の情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本資料の記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本資料の記載内容は、予告なしに変更することがあります。

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