為替DI:8月のドル/円、個人投資家の予想は?
楽天証券FXディーリング部 荒地 潤
楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスのときは「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。
DIは「強さ」ではなく「多さ」を測ります。DIは円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありません。しかし、アンケートに個人投資家の相場観が正確に反映されているならば、DIの「多さ」は「強さ」に関係することになります。
「ドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」
楽天証券が7月末に実施した相場アンケート調査によると、8月のドル/円は「ドル高/円安」に動くとの回答が、全体の47%を占めました。円安見通しは、先月に比べて11ポイント減となりました。
「ドル安/円高」の見通しを持つ個人投資家は全体の22%で、先月に比べて10ポイント増えました。31%は、「変わらず」との回答でした。
7月のドル/円は、140円まであともう少しというところまで円安が進みましたが、月末になって急落。終わってみると、前月比では2.50円の円高でした。
8月になってドル/円は一転して下落、6月以来となる130円割れ寸前まで円高に動きました。もっとも、2カ月前はこの水準を「20年ぶりの円安」だと大騒ぎしていたのですが…。
今年の円安は、FOMCが利上げサイクルに入ったことから始まりました。日本銀行とFRB(米連邦準備制度理事会)の政策のかい離が生み出す日米金利差の拡大が円安を加速させたのです。
日銀の政策は何十年も同じなので、変わるとすればFRBの政策方向ですが、米国が2期連続のマイナス成長だったことから、FRBはこれまでのペースで利上げを続けるわけにはいかないとマーケットは考え、米長期金利も下がった。だから、円安も止まった。これが8月のドル/円下落の理由です。
もっとも、ミネアポリス連邦準備銀行総裁は、インフレをFRBの目標水準に戻すにはかなり長い時間を要するとして、「利下げのハードルは(金利市場が期待するよりも)かなり高い」との見解を示しています。
あー夏休み
2020年に新型コロナの感染大流行が発生して以来、初めての「自由に移動できる夏」になった今年、欧米では夏のバカンスが大いに盛り上がっているようです。
これほどインフレになっていても旅行を控えようという考えは彼らにはないらしく、自宅で静かに過ごす快適さを捨ててまで、空港で何時間も行列に並び、満席の飛行機に乗り、満室のリゾートホテルですし詰め状態のプールに入るのです。それだけ新型コロナによる移動制限のフラストレーションがたまっていたのでしょう。
もっとも、日本でも、コロナ禍の落ち着きを見越して旅行や帰省を計画する人が目立っているようです。読売新聞によると、夏休みに使う1人あたりの平均支出額は、前年の1.3倍となる約6万9,000円で、4年ぶりの増加となったそうです。
日本人にとって夏の海外旅行といえば、やっぱりハワイです! これだけ数多くのリゾート地がある中で、みんなが行ってみたいと言うのはそれだけの理由があるのです。
しかし、今年の夏にハワイに行こうとするなら、日本ハワイ間の燃料サーチャージの値上がりで、運賃とは別に一人往復4万7,000円かかります(旅行会社のパンフレットに小さな文字で注意書きがあるのでよく読んでください)。
帰国時には新型コロナの陰性証明書が必要で、地域にもよりますが、一人約2万~3万4,000円ほどかかります。燃料サーチャージと証明書だけで一人約8万円の追加出費。家族5人でハワイに行こうと思えば、旅行代や買い物代とは別に約40万円かかる計算になります。夏休みに使う支出を増やした分は、旅行の楽しみ以外のところで消えていくわけです。
なぜこんなことに?理由は明快、円安だからです。円安とはある意味、お金を使いたいなら海外ではなく日本国内にしろという政策でもあります。とはいえ、実質賃金が去年より1.8%も下がってしまうと、自宅にいて、できるだけエアコンは使わず、かといって熱中症にならないようにして、もちろんコロナにかからないようにひっそりと夏をやり過ごすしかないようです。
円安は、米国人にしてみると24年ぶりのドル高。ドル高のメリットを享受しようとフランスのパリなど欧州への旅行が増えているようです。
日本でも、6月10日から約2年ぶりに外国人観光客の受け入れが再開されましたが、旅行スケジュールがきっちり決められた添乗員付きツアーに限定され、旅行の間はマスクの着用など感染対策の徹底が求められることから、敬遠する外国人が多いようです。
せっかくの円安を生かせないのはもったいないと思いますが、コロナ感染者がこれだけ増えている中ではしかたないのでしょう。
夏のバカンス・ブームの盛況は、秋の急激な消費縮小の前触れです。楽しかった夏休みから戻り9月になると、すっかり減った銀行残高とクレジットカードの請求書の山に驚きます。現実に戻った消費者は財布のヒモを堅く締め、支出は急激に縮小することになります。
3カ月後には、新型コロナ感染大流行以来、初めての「自由に移動できる冬」であるクリスマスシーズンがやってくるわけですから、なおさらのこと9月から11月は倹約生活を心がけることになります。秋の経済は、不況を思わせるような需要減になってもおかしくはありません。
楽天証券の相場アンケート調査によると、8月のユーロ/円は、個人投資家の37%が「ユーロ高/円安」になると予想しています。ユーロ高予想は、先月から13ポイント減少。
一方「ユーロ安/円高」見通しは19%で、先月から7ポイント増加。
44%は「変わらず」との回答でした。
楽天証券の相場アンケート調査によると、8月の豪ドル/円は、個人投資家の35%が、「豪ドル高/円安」に進むと予想しています。豪ドル高予想は、先月から11ポイント減少。
一方「豪ドル安/円高」見通しは15%で、先月から4ポイント増加。
全体の50%は「変わらず」との回答でした。
今後、投資してみたい金融商品・国(地域)
楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲
今回は、毎月実施している質問「今後、投資してみたい金融商品」で、「海外債券」と「金やプラチナ地金」を選択した人の割合に注目します。
質問「今後、投資してみたい金融商品」の選択肢は、国内株式、外国株式、投資信託、ETF、REIT(不動産投資信託)、国内債券、海外債券、FX(外国為替証拠金取引)、金やプラチナ地金、原油先物、その他の商品先物、金先物取引、特になしの13個です。(複数選択可)
図:「海外債券」と「金やプラチナ地金」を選択した人の年代別の割合
2022年7月の調査では、「海外債券」を選択した人の割合は8.75%、「金やプラチナ地金」は11.83%でした。以下の表のとおり、これらの割合は、「国内株式」「外国株式」「投資信託」「ETF」「REIT」に次ぐ水準です。
主力ではないものの、ポートフォリオ上、重要な役割を果たすことが期待される「海外債券」と「金やプラチナ地金」ですが、上図のとおり、それらを選択する人の割合は、どちらかが上昇すると、どちらかが下落する傾向があります。
これらの動きに逆の傾向があることに、米国の金融政策が強く関わっていると考えられます。米国の利上げ局面(グラフ内横の赤線)では、「海外債券」が上昇、同時に「金やプラチナ地金」を選択する人の割合が低下しています。
逆に利下げ局面(グラフ内横の青線)では、「海外債券」を選択する人の割合が下落、同時に「金やプラチナ地金」が上昇しています。
米国の利上げ局面では、新たに米国で発行される債券の利率が上昇する傾向があります(既存の低利率の債券に比べて)。このため、米国の利上げは多くの場合、海外債券(米国中心)の保有メリットを大きくします(利下げ局面では、海外債券の保有メリットが小さくなる)。
また、米国の利上げ局面では、ドルを保有するメリットが大きくなり、相対的にドルと同じ「世界共通のお金」の色が濃い「金(ゴールド)」の保有メリットが小さくなる傾向があります(利下げ局面では、金の保有メリットが大きくなる)。
米国では今年6月と7月、通常(0.25%)の利上げ幅の3倍の利上げが行われました(3倍速の利上げ)。こうした極端な利上げがきっかけで、「海外債券」を選択する人の割合が上昇、逆に「金やプラチナ地金」が低下していると、考えられます。
足元、米国の金融政策の動向が、これらの金融商品を選択する人の割合を動かす主因になっていると言えます。米国の金融政策に目を配りながら、引き続き、「今後、投資してみたい金融商品」における「金やプラチナ地金」「海外債券」の動向に、注目していきたいと思います。