<マザーズ指数(左軸)とマザーズ売買代金(右軸)>

7月の中小型株ハイライト

下半期入りで逆回転、グロース株は「買い」のターンに

 FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げの加速を警戒し、上半期(1~6月)に続いた「米金利上昇→グロース株安」の流れ。これが、下半期となる7月に入った途端、逆流の勢いを増していきました。

 これは、弱い米景気指標が相次ぎ、市場がリセッション到来を確実視し始めたため。上半期にバブル的な上昇を示していた原油やコモディティが、「これから需要が大きく減るはずだ」と想定して大幅調整に(=逆回転)。米長期金利も上がらなくなりました(=逆回転)。

 これは、リセッションの確率アップで「利上げペースが落ちるだろう」と解釈するため。先を読んだら、次はその先も読むマーケット。「年内で利上げは停止する」「来年は利下げになる」まで織り込み始めた雰囲気でした。

 13日の6月CPI(消費者物価指数)、27日のFOMC(米連邦公開市場委員会)などを通過しても、市場はリセッションに備えたアンワインドを強める一方といった雰囲気。

 米長期金利の低下を受け、上半期にバブル崩壊並みの値崩れを起こしていたグロース株が怒涛(どとう)のリバウンド(=逆回転)に。7月の月間騰落率は、ダウ工業株30種平均の+6.7%に対して、グロース株指数のNASDAQ総合指数は+12.3%と大幅アウトパフォーム。日本でも、日経平均株価+5.3%に対し、東証マザーズ指数+8.6%とグロース優位全開でした。

マザーズ指数は4カ月ぶりに上昇、買い手は誰だ?

 東証マザーズ指数が月間で上がったこと自体4カ月ぶりですが、指数押し上げに影響したのが時価総額の大きい主力大型株だったことも特徴的でした。

 7月に入る直前(6月末まで)、物色難な中でグロース株市場では6月下旬に上場したイーディーピー(7794)を中心とする直近IPO(新規公開株)が盛り上がっていました。ただ、そのイーディーピーも、グロース市場が好転した7月は月間1.9%の下落。

 個人が盛り上がっていた銘柄ではなく、「別の誰か」が7月に入って主力大型株を持ち上げた…そんな雰囲気でした。

 個人が盛り上がらないと、東証グロース市場の売買代金は増えません。実際、7月に入り、6月最終日の売買代金(1,575億円)を上回った日はありませんでした。

 なのに、マザーズ指数は4カ月ぶりに力強く上昇、そして個人が盛り上がっていなかったビジョナル、フリー、そーせい、弁護士コム、メドレーなど主力大型株が大きく上昇…その後開示された投資部門別売買動向でも証明されましたが、その買い手は「外国人」でした。

 米市場で起きた逆回転の中心プレーヤーはヘッジファンド(以下HF)と見られ、日本でもこれらHF勢が金利上昇局面でつくった空売りバスケット(旧マザーズ主力級だけ空売り)をドテン買戻し、ロングにしていた資源株やバリュー株をドテン売りした影響が薄商いの中で炸裂したようです。

反転上昇フェーズと夏枯れ薄商いが同時進行で…

 マザーズ指数が月間+8.6%と好パフォーマンスになった一方、7月の1日当たり売買代金平均は1,084億円と、6月の同1,129億円よりやや減少しました。売買代金と指数の方向性が一致(順相関)する傾向のある東証グロース市場としては珍しい形で大幅高したといえます。

 この市場のメインプレーヤーは個人投資家。その個人投資家が7月は大幅売り越しでしたので、想像以上の上昇に手が出なかった、戻り売りに回った1カ月だったということになります。

 心境としては「あれ? こんなに上がるの?」だった投資家が多かったはず。大幅に下がったとはいえ、それでもバリュエーション的には割高感ある旧マザーズ主力級銘柄。その上値を買うなんてできない…というのが大勢の心理だったといえそうです。

 デイトレ気質の投資家比率が高いこともありますが、手を出しにくい主力大型株より、材料のあった小型株や値動き良好な直近IPOの一角で勝負する個人投資家が引き続き多かった様子。そうした投資家は、「銘柄は何でもいい」というフリースタイル。プライム市場以外の2市場の売買代金25日移動平均ランキングを作るとこんな感じでした。

売買代金(25日移動平均、7月末時点)ランキング(スタンダード&グロース)

市場 コード 銘柄名 売買代金
25日移動平均
(億円)
時価総額
(億円)
月間騰落率
スタンダード 2437 シンワワイズ 72 130 ▲16%
グロース 4890 坪田ラボ 71 290 34%
グロース 4169 エネチェンジ 63 450 ▲2%
スタンダード 6890 フェローテック 53 1,123 ▲4%
グロース 4485 JTOWER 41 1,444 ▲2%
グロース 5032 ANYCOLOR 38 1,842 ▲6%
スタンダード 2702 マクドナルド 33 6,648 1%
スタンダード 3825 REMIX 28 597 ▲28%
グロース 7707 PSS 27 180 25%
スタンダード 6324 ハーモニック 27 4,845 27%

 トップ10のうち、半分がスタンダード。日米同時グロース株逆襲の月なのに、全体トップがスタンダード上場で時価総額130億円のシンワワイズ(2437)でした。

 ひさびさのグロース好地合いにも、「またダマされそう」と懐疑の投資家は多く、前月まで同様、デイトレーダー(人)が集まっている銘柄にお金も集合。全体的には、東証プライム同様、夏枯れ仕様で薄商いな1カ月でした。

8月の中小型!今月のキーワードは…「夏枯れ」など関係なし!

 夏枯れ相場の雰囲気ばかり濃くしそうな日本株市場。基本的に米株の変動に左右される日本株ですが、これは寄り付きから数分で大方が反映されます。寄り付き後の売り買いが一巡すると方向感が薄れ、東京時間でいえば11~15時の時間帯は方向感が消えるような感覚に陥ります。

 方向感が消えるのは、日本独自で売り買いする根拠に欠けるという根本的な問題もありますが、「決算発表シーズンだから」という理由もあります。

 決算発表を控える銘柄が多く、それぞれで見極めムードが広がることが全体の方向感を乏しくする…。それでいえば、全市場ベースで決算発表が最も多い日は8月10日(水)。方向感が乏しくなると売買も減り、よく言う「夏枯れ」っぽく見える時期になりがちと予想されます。

 これは東証グロース市場に上場する中小型グロース株も同様。東証グロース市場銘柄の決算発表集中日は8月12日(金)です。決算に対する期待と警戒…これが決算発表予定銘柄には練り込まれます。

 地合いがいい時期では、決算発表前にプレポジションで「買い」がつくられる傾向があります。リスクがとれる投資家が多いため、株式分割があるかも?とか決算数値以外のプラスアルファにも期待値が乗っていたりします。もちろん、上方修正期待も乗せられます。

 そのため、決算は悪くないのに、「上方修正がなかった」「株式分割がなかった」などを理由に急落してしまうケースが多発します。その逆もあります。地合いが悪い、リスクをとりたくない投資家が多い時期の場合、決算発表前にポジション整理(=「売り」)が進みます。マザーズ指数に過去の決算発表集中日を赤丸で示したチャートをご覧ください。

<マザーズ指数と決算発表集中日(2021年1月~)>

 決算発表の集中日に向けて、期待(or警戒)が強まり、集中日を通過することでトレンド転換しているケースが多いですよね。これは、米国株の変動に左右される日本株性格面とは別要素ですので、今回の8月集中日(8月12日)にかけて最も気にすべき点です。

 どちらかといえば、今回は指数が上昇(=地合いがいい)方向で決算ラッシュ期に突入しますので、プレポジションは期待を練りこむ「買い」が優勢になるかもしれない、という前提で見ておくのが無難でしょう。

<東証グロース 主な銘柄の決算発表予定(※データ出所:Quick)>

日付 コード 銘柄名 決算
8月8日 4051 GMO-FG 3Q
4485 JTOWER 1Q
8月9日 4165 プレイド 3Q
4192 スパイダーP 2Q
4436 ミンカブ 1Q
4563 アンジェス 2Q
7806 MTG 1Q
8月10日 2150 ケアネット 2Q
3936 グローバルウェイ 1Q
4053 サンアスタリスク 2Q
4475 HENNGE 3Q
4565 そーせい 2Q
6613 QDレーザ 1Q
7094 NEXTONE 1Q
7133 ヒュウガプラ 1Q
7157 ライフネット 1Q
9467 アルファポリス 1Q
8月12日 3993 PKSHA 3Q
4169 エネチェンジ 2Q
4478 フリー
4480 メドレー 2Q
4488 AIINSIDE 1Q
4890 坪田ラボ 1Q
7342 ウェルスナビ 2Q
7685 BUYSELL 2Q
7707 PSS
7779 サイバーダイン 1Q
7794 イーディーピー 1Q
7803 ブシロード
8月15日 2158 FRONTEO 1Q
2160 ジーエヌアイ 2Q

 今後予定されている東証グロース上場の主な決算発表日も紹介しておきます。

 マザーズ指数に与える影響度(指数ウエート2%以上)でいえば、9日アンジェス、10日そーせい、12日フリー、メドレー、ウェルスナビ、15日ジーエヌアイが大きいところ。それ以外では、直近で短期の信用組に人気化した銘柄もセンチメントに与える影響が大きいと考えられます。

 9日スパイダープラス、12日エネチェンジ、坪田ラボ、イーディーピー、PSSなどは中小型ですが注目すべき決算かもしれません。基本的なスタンスとしては、イベント通過でトレンド反転になり得る定例行事という認識で良いでしょう。

 これを通過した先、8月後半のイメージは「いつも通り」。米株の変動に左右される日本株の要素が濃くなるだけですので、中小型グロース株でいえば米ナスダック、アークイノベーションETF(上場投資信託)などグロース市場の動向の影響を受けるだけと想定されます。そのグロース市場のカギは、米長期金利の動向、これも今までと同じですね。

 8月に入っても加速しているのが「リセッション懸念」で、それを市場は先取る動きを強めています。悪い経済指標の連発(一方で、インフレ指標は強い)で、このまま金融引き締めを続けると景気がさらに悪くなることが想像されます。

 先を読む市場参加者は、量的引き締め(QT)の停止を予想し始めました。さらには、FF金利先物の動きから、来年7~9月には利下げが始まるという予想まで織り込まれ始めたことも分かります。

 結果、経済指標が悪化してもリスク資産は上昇するという意外な展開が繰り広げられています。一部米系証券では「米10年債利回りは今後1年以内に2.0%まで低下する」との見解を示すなど、これまで気をもんできた米長期金利に対する上昇警戒が大幅に緩んでいるのが現状です。

 米10年債利回りは8月1日に2.5%台と、4月6日以来の低い水準まで低下しました。

 日米の金利差拡大(金融政策の方向性の違い)をカタリストに加速していたドル/円の上昇(円安)でしたが、こちらも猛烈に逆回転。7月中旬に139円台を付けていましたが、8月2日には130円台にもタッチしています。多国籍企業など皆無の中小型グロース株にとっては、円安でも円高でも関係ないのですが…。

 先を読む市場が、リリーフラリー的な反動に沸き立ちましたが、「金利上昇という環境が本当に変化したのか?」に対するコンセンサスは確立されていないように見えます。ベアマーケットにおけるいったんのリリーフラリー、という慎重目線で7月に起きたグロース株上昇を見るくらいがちょうどいいように思います。

 もちろん、米長期金利の上昇一服感が本物で、米ナスダックの上昇基調が続いているようなら、年初来の強烈な下落に対する反発余地はまだ十分!というスタンスで良いでしょう。

 リリーフラリーで上昇するときは、海外投資家の買い(買戻し)が主導した全体底上げになります。海外投資家の買いに対して、売りをぶつけるのは手前で買いポジションを持つ個人投資家。個人投資家の信用買い残が、平常時の流動性(売買高25日移動平均)に対して小さい銘柄のほうが、スムーズにリバウンドできると考えられます。

 この仮説から、スクリーニングして抽出した東証グロース、スタンダードに上場する中小型グロース株を最後に掲載しておきます。

薄商いで上がりやすいグロース株は?
スクリーニング条件(1)信用買い残が5億円以上(7月末時点で239銘柄)
(2)信用買い残比率(信用買い残/発行済み株数)が3%未満
※信用買い残売買インパクトが低い順に列挙

市場 コード 銘柄名 信用買い残売買
インパクト
信用買い残比率 信用倍率
(倍)
年初来騰落率
(7月末時点)
スタンダード 2702 マクドナルド 33% 0.1% 4.0 ▲2%
スタンダード 6324 ハーモニック 43% 0.3% 1.9 3%
スタンダード 4716 日本オラクル 56% 0.1% 3.4 ▲5%
スタンダード 1407 ウエストHD 68% 0.8% 2.5 ▲29%
スタンダード 2484 出前館 68% 1.7% 0.6 ▲31%
グロース 3479 TKP 74% 1.0% 1.8 74%
グロース 4478 フリー 85% 0.7% 7.2 ▲50%
グロース 4485 JTOWER 86% 2.4% 1.1 ▲32%
グロース 4194 ビジョナル 87% 0.6% 22.1 ▲25%
グロース 7373 アイドマHD 92% 1.1% 868.5 19%